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山中 由里子 国立民族学博物館 FoS参加歴:
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私は2011年から2013年までの計3回、ドイツのフンボルト財団と日本学術振興会(学振)が共催しているJGFoSに参加させていただいた。2011年の東京での開催では参加研究者として、後の2回(ポツダム、京都)はソーシャル・サイエンス・セッションのPGMという大役を仰せつかった。実際に参加するまでは、どういう雰囲気の会になるのか、まったく想像もつかなかった。
1年目―場違いかも?
私は比較文学比較文化という分野を専門としており、国立民族学博物館という人類学の研究所/博物館で働いている。「先端科学」のシンポジウムに最初にお誘いを受けたときは、理系の研究者との接点はほとんどなく、私にどんな貢献ができるのか、そもそも議論についていけるのかどうかすら不安であった。しかも、ソーシャル・サイエンスというセッションの一員として参加するくせに、社会学者ですらない。「人文学なんて科学じゃないでしょ」といじめられるに決まっている、という継子根性を背負って、ニューオータニの会場に乗り込んだ。
第一セッションはアース・サイエンス。海と大気がテーマで、ドイツ側スピーカーの一人がEddyがどうだこうだ、と船や海の写真を見せながら話している。タイトルにもEddyという言葉が入っているのだが、要旨やグロッサリーを読んでも、定義がない。人の名前以外の使われ方はそれまで聞いたことがなかったので「Eddyって、あんたの叔父さんか!?」と心の中でツッコミを入れながら聞いていた。質疑応答でも、「あのう、そもそも…」と挙手して質問する勇気もなく、じっと我慢した。きっと理系の人々はみんな知っていて、自分だけが知らないのだろうとひがんでいたのだ。セッションが終った後に、(我慢しきれず)周囲にいた参加者数人に、「エディーって、知ってた?」と聞いてみたところ、「私の分野で使われる言葉でないから確信がないけど、話の内容から類推するにたぶん、こう、ぐるぐる・・・。」それぐらいのおおよその見当なら、私の理解とそれほど違わないではないか。少し安心した。
部屋に帰って、こっそりインターネットで語源を調べてみたら、「渦巻き」という意味の古ノルド語iðaから、スコットランド語のydyを経由して英語に入った言葉らしい。陸の人間が日常的に使う英語ではないが、なるほど、航海に長けたヴァイキングの言葉が、環境学者たちの間で科学用語として生きている。歴史や文化と現代科学の接点が見えて、嬉しくなった。(ちなみに、徳島のご当地ヒーローが「渦戦士エディー」であることも後でネットで知った。)
根っから好奇心が強く、疑問に思ったことは聞かずにいられない性質である上、なんとなく楽しみ方もつかめてきたので、「ここが知りたい」、ということはとにかく質問してみることにした。するとたちまち、次年のシンポジウムのPGMに選ばれてしまった。
2年目―アマゾネス軍団を率いて、いざポツダムへ
初年から気になったことであるが、日本側はドイツ側に比べると、女性参加者が圧倒的に少ない。ドイツ側の男女比はほぼ半々であるのに対して、日本人男性6.5人に対して女性1人である。この嘆かわしい状況をなんとかせねばと思い、PGMの職務権限を行使し、ソーシャル・サイエンスのメンバーは、フロア参加者も含めて、全員女性を推薦した。学振と専門委員の方々の理解もあり、おそらくFoS史上初(?)の女性オンリー陣営が実現した。さらには、発表テーマも確信犯的に、アマゾネス(女武者集団)伝説の流布にみる東西文化交流について。スピーカーの大沼由布さん、そして参加者の岩谷彩子さん、丸山淳子さん、永吉希久子さんが、皆さん非常に積極的に(挑戦的に)、会場の内外で議論に参加してくださり、姦しく、楽しい3日間であった。
ジェンダーバランスといえば、次年度のテーマを決めるPGM会議では、興味深い現象が起きていた。ドイツ側PGMは6セッション中5人が女性、男性は1人。日本側は全くその逆で、女性PGMは私だけで、あとの5人は男性であった。しかも、日本側の「紅一点」とドイツ側「黒一点」(白一点?)がいずれもソーシャル・サイエンスのPGMだったのである。相棒PGMのシュテファンとともに、「我々のお蔭でgender quotaが満たされていること、皆さん、ちゃんと認識してくださいね」と、冗談を飛ばした。今後、参加者やPGMだけでなく、事業委員会のメンバーの女性の割合が増えることを期待している。
FoSは合宿形式で、朝昼晩の食事を共にするが、始終研究の話をしているわけではない。日独の様々な分野の研究者や、学振やフンボルト財団の事業部で活躍していらっしゃる職員の方々と、男女問わず打ち解けて、子育てやら、パートナーやらについて閑談し、様々なWork Life Balanceがあることを知ることができたのも貴重な体験である。
夜も更けてお酒が入ると、閑談が哲学的議論へと深まってゆく。寒空のポツダムを彷徨ってやっと見つけたバーで、物理学の中家剛さんと村田次郎さん、そして人類学者の丸山淳子さんと私で、「真実は一つか、否か」という問答が始まった。大工修行をしながら町々を転々とするドイツ人の伝統的放浪職人が途中で飛び入りで加わり、「我々は学ぶために旅をし続けるのです」という彼の深遠な言葉に、4人とも深くうなずき共感した。もしかしたら、この言葉を聞くために、私はポツダムに来たのかもしれない、とさえ思える瞬間であった。
3年目―そしてその後
3年目もPGMとして参加し、ツボの押さえどころがだいぶ分かってきた。自分が当たり前と思っていることが、他の分野の研究者には当たり前でない。Knowledgeや、Migrationといった一般的によく知られている言葉でさえも、分野によって意味や使われ方が違うということはFoS で得た教訓の一つである。
発表スタイルの違いも新鮮で、参考になった。例えば文学や歴史研究では一次資料のテクスト(文学作品や年代記や文書など)が重要な「データ」であるので、特に日本人による研究発表では、文献の引用をつらつらと並べた配布資料を配ることが多い。しかしFoSで資料を配るスピーカーなんていないし、パワーポイントに長々と文章を挙げるのもダメ。ビジュアルの効果的な使い方について、考えさせられた。フラッシュトーク、ポスターセッションというものにも、実は初めてチャレンジした。
AlumniになってからもFoS人脈を様々な場面で活用させていただいている。私は所属する博物館の広報誌『月刊みんぱく』の編集に携わっているのだが、もう10人以上のFoS仲間にご寄稿いただいた。「疫病」、「ハイブリッド」、「地球人が宇宙人になるとき」といった文理融合の特集は、FoSで得たインスピレーションと人脈が無ければ生まれなかった。すでに現役3年目から、『月刊みんぱく』の取材と営業の場としてFoSを大いに利用させていただいた。
今年(2015年)の1月にはドイツのゲッチンゲン大学で、”Knowledge Transfer Across Borders”というテーマで学振のボン研究連絡センターが主催し、人間文化研究機構が共催した「日独学術コロキウム」が開かれ、日本側幹事を務めた。ポツダムでのJGFoSでお会いしていた学振のボン研究連絡センター長の小平桂一先生からこの大役を仰せつかったが、参加者人選とプログラム構成の準備段階からゲッチンゲン大学側の幹事2人と密に連絡をとり、経済学、社会学、人類学、文学などの分野を取り混ぜ、12人の日本人と12人のドイツ人、男女比も半々という、国籍およびジェンダーのバランスが「完ぺき」なコロキウムを企画した。そして、キーノートスピーカーとしては、脳科学の入來篤史先生にご登壇いただいた(それも凛々しいお着物姿で)。入來先生はJGFoSに事業委員会の専門委員として毎回参加されており、ご研究のお話しを断片的にうかがう機会はあったので、「知識の伝達」というテーマを聞いて真っ先に候補者として思い浮かんだ。環境と人間の身体と脳の進化の関係についての、まさにコロキウムの基調をなすご講演をしていただき、さらに2日間にわたった8セッションの議論にも参加いただけたことは非常に幸いであった。このコロキウムには、JGFoSで知り合ったドイツ人2人と、JFFoSでPGM経験のある佐野真由子さんも参加し、分野横断の醍醐味を知る仲間としてサポートしてくださった。
この他、フンボルト財団のフォローアップ・プログラムで来日した研究者を2人受け入れたし、関西のAlumni同志で身近な若手未婚者を集めて、合コンも一度実現させた。ここまでFoSネットワークを使い倒している元参加者もいないのではないか。
最初は疑心暗鬼であった私がこうしてFoSの信奉者となったのは、和気藹々とした雰囲気づくりをして、異分野の新入りも暖かく迎えて下さったPGM主査の谷本浩志さん、若宮淳志さん、中家剛さんのお蔭であると感謝している。他のFoSについては分からないが、JGFoSの日本人参加者の連帯感が非常に強いのは、歴代のPGMの功績だろう。このAlumniのつながりは、今後も大事にしていきたいと思っている。
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【第9回JGFoS:ソーシャル・サイエンス・シスターズ(ポツダム、2012年)】 |
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【第9回JGFoS:相棒PGMの シュテファン・ボッシェンと筆者(ポツダム、2012年)】 |
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【第10回JGFoS:PGM】 |
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【日独科学コロキウムのキーノートスピーカーをお願いした入來篤史先生と筆者(ゲッチンゲン、2015年)】 |