日本学術振興会

研究者インタビュー|坂口 志文先生

2025年ノーベル生理学・医学賞受賞者

坂口志文先生

坂口 志文(さかぐち しもん)
大阪大学特別栄誉教授 免疫学フロンティア研究センター(WPI-IFReC)特任教授(常勤) 

略歴
1951年生まれ。博士(医学)。京都大学大学院医学研究科博士課程修了。東京都老人総合研究所免疫病理部門部門長(1995年)、京都大学再生医科学研究所生体機能調節学分野教授(1999年)、大阪大学免疫学フロンティア研究センター(WPI-IFReC)教授(2011年)を経て現職。ノーベル生理学・医学賞受賞(2025年)。

研究テーマ
制御性T細胞の発生・分化機構、および機能の解明と免疫疾患治療への応用

日本学術振興会との繋がり

科研費と共に歩んだ免疫研究の30年

私のこれまでの研究生活を振り返ると、科研費との関わりは、米国で約10年間過ごしたのち、日本に帰国し、東京都老人総合研究所で最初の科研費を獲得した約30年前からでした。帰国のきっかけは、利根川進博士のノーベル賞受賞後の提言で発足された科学技術振興事業団(現・科学技術振興機構)の「さきがけ」研究に採用が決まったことでした。以降、京都大学・大阪大学での特定領域研究※や特別推進研究、基盤研究などの継続的支援を受けており、科研費は「研究を恒常的・定常的に維持するための基盤」として大きな役割を果たしてきました。継続的に研究を進めるための経費的な土台があることで、日々の研究活動を止めずに積み重ねることができ、その中から新しい着想や次の展開が生まれてきたと感じています。

またWPIについては、WPIを契機に大阪大学へ移ってきたこともあり、私にとっては一つの大きな転換点であり、研究環境・体制の面で非常に大きな影響がありました。現在所属している大阪大学免疫学フロンティア研究センター(WPI-IFReC)においては、安定した資金獲得によりスタッフの安定的な雇用確保が可能になり、研究室のスタッフ体制を拡充でき、准教授・助教等を含めた比較的長期の雇用が可能になりました。短期のポスドク雇用だけでは難しい「一定期間・一定ポジションで人を育て、キャリアも見据えて支える」体制が作れたことは、研究の推進と人材育成の両面で大きな意味がありました。

※特定領域研究は文部科学省が実施

本会の事業が支えた研究

長期の支援により、基礎から臨床へ

米国で約10年間の研究生活を終え、日本に帰国して以降、科研費、WPI、日本医療研究開発機構(AMED)など複数の研究費による支援を並行して受けながら研究を進めてきました。そのため、「どの成果がどの支援によって生まれたか」を厳密に切り分けることは難しい、というのが正直なところです。一方で、1995年に発表した制御性T細胞(Regulatory T cell:Treg)の同定に関する研究以降、研究の継続と発展を進めてこれたのは、研究費支援があってこそだったと考えています。Treg研究は、自己免疫疾患やがんなどヒトへの応用へと研究の幅を広げていきましたが、その背景には、科研費等の支援によって研究を止めずに継続できたことが大きく寄与していました。

私自身の実感としての「成果」は、単発の大発見というよりも、研究を一歩一歩前進させながら、基礎研究にとどまらず「人の病気へ、より直接的に手が届く」方向へ研究を展開できたことにあります。創造的な基礎研究の多くは、初期段階では成果の見通しが必ずしも明確ではなく、短期的には「歩留まりが悪い」ように見えることも少なくありません。しかし、そうした段階を含めて研究を継続できる環境があって初めて、研究は成熟し、次の展開へとつながっていくのだと感じています。

JSPS事業の大きな意義としては、近年、国立大学等における運営費交付金が減少傾向にある中、研究現場において安定的に使える基盤的経費が限られてきていることを踏まえると、科研費が日本における研究者の研究的基盤として果たす役割はますます大きくなっていると感じています。科研費は、「自らの研究の意義を言語化して提示し、支援を受け、成果を出して評価される」という研究者としての活動を支えており、研究を継続し発展させていくうえで欠かせない仕組みとなっています。

とりわけ、研究の初期段階を幅広く支える層と、成果の芽が見え始め発展・競争段階に入った研究を重点的に支援する層という、いわば二層(2 tier)構造の支援は、基礎研究を着実に育てていくうえで極めて重要です。

加えて、WPIは研究室の体制強化や人材の長期的育成に直結し、研究成果そのものだけでなく、その後の研究基盤の形成や人材輩出(研究室メンバーが次のポストへ進むこと等)にも良い影響を与えてきました。短期的な雇用にとどまらず、一定期間・一定ポジションで人を育てることができた点は、研究の質と持続性の両面で大きな意味を持っていたと考えています。

一方で、日本の科研費制度は原則として一定期間で区切られ、たとえ一度採択され成果を上げた研究であっても、次の段階に進む際には改めて新規に応募し直す必要があるため、研究の継続性という点では課題を感じています。良い成果が生まれ、発展の可能性が見えてきた研究については、その価値や進展を適切に評価したうえで、同一テーマでの継続や次の段階への円滑な橋渡しがより行いやすくなる仕組みが重要です。その一つとして、募集の機会を柔軟に設けるなど、研究の進行状況に応じた支援につなげやすい工夫が、将来的にますます求められると考えています。
坂口先生研究写真 制御性T細胞
大腸直腸がんに浸潤している制御性T細胞(褐色の細胞)
写真提供:坂口志文

未来の研究者へのメッセージ

前向きに、継続的に、手を動かし続ける

研究で最も大切なのは、「自分が重要だと思うテーマを、持続的に継続して掘り下げていくこと」だと思います。新しい気づきや発見は、いきなり生まれるというよりも、日々の試行錯誤を積み重ねる中で少しずつ形になっていきます。

また、研究を続けるには環境づくりも重要です。必要な支援を得るために、自分の研究の意義をきちんと言葉にし、周囲に伝え、評価を受けながら前に進めていく姿勢が研究者には求められます。うまくいかない時期があっても簡単に諦めず、粘り強く続けていくことが、最終的に次の展開や成果につながります。

これから研究の道を目指す方には、ぜひ「前向きに、継続的に、手を動かし続ける」ことを意識して、研究に取り組んでいただければと思います。

最後に、申請書を含め文章には自信の有無がどうしても出ます。周囲に合わせて無理にテーマを作るより、自分が信じる研究の意義を言葉にして、粘り強く前へ進めてください。
※本記事に記載の所属・肩書きは、掲載時点(2026年7月)のものです。
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日本学術振興会パンフレット2026-2027(和文)(PDF/2.8MB)
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