日本学術振興会

第41回国際生物学賞の受賞者決定

独立行政法人日本学術振興会(理事長 杉野 剛)は、8月5日に国際生物学賞委員会(委員長 藤吉 好則:東京科学大学総合研究院高等研究府特別栄誉教授)を開催し、第41回国際生物学賞の受賞者をイタリアのパルマ大学名誉教授 ジャコモ・リッツォラッティ博士(88歳、イタリア)に決定しました。今回の授賞対象分野は「神経生物学(Neurobiology)」です。
第41回国際生物学賞受賞者
ジャコモ・リッツォラッティ (Dr. Giacomo Rizzolatti)

生年月日 1937年4月28日(88歳)
国籍 イタリア
現職 パルマ大学名誉教授

受賞者の略歴・研究業績

授賞理由

イタリア・パルマ大学のジャコモ・リッツォラッティ博士は、高等動物が他者の行動を理解するための基盤となるミラーニューロンの発見者、そしてミラーメカニズムの提唱者として世界的に知られている神経生物学者である。これまでに500篇以上の論文を国際誌に発表し、それらは161,600回引用され、H-index は144である。

ミラーニューロンとは、自分が行動した時と、他者が同じ行動をするのを見た時の両方に活性化する神経細胞のことで、他者の行動を「鏡のように」映し出すことからそのように呼ばれている。ミラーニューロンは、最初にサルの腹側運動前野で発見された。さらに後の研究により、サルの下頭頂小葉にも存在することが明らかになっている。また、これを可能にする脳の仕組みは、ミラーメカニズムと呼ばれる。このようなミラーニューロンとミラーメカニズムの発見は、システム神経科学および認知神経科学において、「他者の行動を理解する神経機構を研究する領域=社会神経科学」という新分野を開拓した画期的な出来事と考えられている。

一方、人間のミラーメカニズムについても、リッツォラッティ博士は、脳画像技術を用いて、他者の行為を観察する際に、ヒトの腹側運動前野および下頭頂小葉が活性化されることを示した。さらに人間のミラーメカニズムが模倣に関与することが、模倣行動課題がミラーメカニズムの存在する前頭葉領域に強い活性化を引き起こすことにより示された。そして、感情との関係においても、例えば臭いによって誘発される嫌悪感の際に活動する領域(前部島皮質および前帯状皮質)が、他者が嫌悪を表現しているのを観察しているときにも同様に活動することによって、ミラーメカニズムが、ヒトが他者の感情を理解する際にも関与していることを示した。これらの研究がさらに発展して、ミラーメカニズムが言語進化にも重要な貢献をしているという仮説にもつながっている。

このようにリッツォラッティ博士はミラーニューロンの発見により、行動を含む様々なレベルでの他者理解の神経基盤を解明した。それ以前の神経科学研究は全て「個体自身」を対象にしていたのに対して、ミラーニューロンの発見により、神経科学が「複数個体の関係性=社会」を対象とするようになり、この流れはその後の「社会神経科学」という領域の発展にも大きく貢献した。このことは、認知神経科学、さらには生物学全般に対しても多大なインパクトを与えたと言え、このような研究業績に鑑み、リッツォラッティ博士が第41回国際生物学賞の授賞対象分野「神経生物学」の受賞者として最もふさわしいと判断し、受賞を決定した。

※授賞式は12月頃に、日本学士院において実施予定です。

第41回国際生物学賞記念シンポジウム開催のお知らせ

リッツォラッティ博士の受賞を記念して、12月20日(土)及び21日(日)に東京にてシンポジウムを開催します。
詳細は後日掲載予定になります。