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研究者インタビュー

向井 裕美(むかい ひろみ)
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所 主任研究員
略歴
1986年生まれ。博士(農学)。鹿児島大学大学院連合農学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員DC1(2011年)、PD(2014年)、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所テニュアトラック型任期付研究員を経て現職。第4回日本学術振興会 育志賞受賞(2014年)、第22回日本農学進歩賞受賞(2023年)。
研究テーマ(「日本学術振興会育志賞」を受賞した研究)
社会性カメムシ類における親-胚間の相互作用とそのコミュニケーション機構の研究
1986年生まれ。博士(農学)。鹿児島大学大学院連合農学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員DC1(2011年)、PD(2014年)、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所テニュアトラック型任期付研究員を経て現職。第4回日本学術振興会 育志賞受賞(2014年)、第22回日本農学進歩賞受賞(2023年)。
研究テーマ(「日本学術振興会育志賞」を受賞した研究)
社会性カメムシ類における親-胚間の相互作用とそのコミュニケーション機構の研究


2014年に第4回「日本学術振興会育志賞」を受賞しました。研究内容は「社会性を持つカメムシの親の胚に対するユニークな保育行動」です。
雌親が卵をまもり、幼虫の孵化後は餌を運搬して与え、独立するまで世話をする亜社会性フタボシツチカメムシにおいて、1)孵化直前の雌親が卵塊を抱えたまま激しく体を揺さぶること、2)その直後に数十個の卵が一斉に孵化すること、を発見しました。私は、「親と胚(卵のなかの子)の間に振動を介した密接なコミュニケーションが存在し、雌親の振動は一斉孵化を促進するものである」と仮説を立て、これを検証しました。さらに、一斉孵化の仕組みと適応的意義を明らかにし、親-胚間コミュニケーションがどのような状況下でどのように進化し得るのかを解明することを目指しました。その結果、本種を含む亜社会性ツチカメムシ類では、種特異的な振動シグナルを与え孵化を促進する“親-胚間の双方向のコミュニケーション”が広く獲得されていること、一斉孵化は幼虫同士の将来の共食いを回避すること、を明らかにしました。親が胚に振動シグナルを与えて孵化を促進するという現象は、これまでどの昆虫でも報告がなく、発見当時は国内外から大きな注目を集めました。
また、親と胚のコミュニケーションの研究を遂行する過程で、ツチカメムシ類の雌親が保護している卵塊を頻繁に回転させる行動に着目し、この機能解明を目指しました。鳥類における卵の回転は、胚の卵殻への付着を妨げることで胚発生を正常に保つためのものとされます。しかし、ツチカメムシ類における卵塊の回転は、卵の積算温度の均一化を促進し、胚発生を斉一化していることが実験により明らかになりました。これは、昆虫の親が温度管理により胚発生を制御するという、節足動物における新しい保育機能を示した重要な発見事例となりました。
雌親が卵をまもり、幼虫の孵化後は餌を運搬して与え、独立するまで世話をする亜社会性フタボシツチカメムシにおいて、1)孵化直前の雌親が卵塊を抱えたまま激しく体を揺さぶること、2)その直後に数十個の卵が一斉に孵化すること、を発見しました。私は、「親と胚(卵のなかの子)の間に振動を介した密接なコミュニケーションが存在し、雌親の振動は一斉孵化を促進するものである」と仮説を立て、これを検証しました。さらに、一斉孵化の仕組みと適応的意義を明らかにし、親-胚間コミュニケーションがどのような状況下でどのように進化し得るのかを解明することを目指しました。その結果、本種を含む亜社会性ツチカメムシ類では、種特異的な振動シグナルを与え孵化を促進する“親-胚間の双方向のコミュニケーション”が広く獲得されていること、一斉孵化は幼虫同士の将来の共食いを回避すること、を明らかにしました。親が胚に振動シグナルを与えて孵化を促進するという現象は、これまでどの昆虫でも報告がなく、発見当時は国内外から大きな注目を集めました。
また、親と胚のコミュニケーションの研究を遂行する過程で、ツチカメムシ類の雌親が保護している卵塊を頻繁に回転させる行動に着目し、この機能解明を目指しました。鳥類における卵の回転は、胚の卵殻への付着を妨げることで胚発生を正常に保つためのものとされます。しかし、ツチカメムシ類における卵塊の回転は、卵の積算温度の均一化を促進し、胚発生を斉一化していることが実験により明らかになりました。これは、昆虫の親が温度管理により胚発生を制御するという、節足動物における新しい保育機能を示した重要な発見事例となりました。

孵化直前の卵塊を抱えるフタボシツチカメムシの雌親 ©向井裕美


本賞の受賞は、当時の私に、研究者としての「自信」と「誇り」をもたらしてくれたと思っています。上述のとおり、当時の私の研究は、すぐに社会や誰かの役に立つものではなく、一見何の価値もないと捉えられがちなものだったと思います。しかし、本賞の選考において、研究の着眼点や研究上の独創性及び創造性を評価いただけたこと、そして学部生時代からおよそ6年間熱意をもってひたすらに取り組んできたツチカメムシの研究成果を、ただただ純粋に「面白い」と評価いただけたこと、受賞によってこれらを実感できたことで、私は改めて“研究”というものの自由さに憧れや魅力を感じ、その先に広がる広大な沃野に飛び込みたい、と強く思うようになりました。
また、現在の研究テーマにも大きな影響があります。本賞受賞後、私は現在の所属機関に3年間ポスドクとして滞在し、その後研究員として正式採用をいただいたのですが、農林業に従事する方々や、それらに関する施策及び行政に携わる方々との交流が増えたことで、これまでの研究で培ってきた技術や知識が、社会のために役立てることがあるかもしれない、と考えるようになりました。そして現在は、受賞時の研究テーマとしても取り組んでいた「昆虫の感覚利用及び情報処理能力に関する研究」をベースとして、それらを応用して昆虫の感覚にはたらきかけることで緻密な行動操作を可能にし、作物を害虫から保護する防除技術の開発にも携わっています。化学農薬等に依存しないこうした技術は、生き物にも地球環境にもやさしい環境低負荷型防除手法としてこれからの持続可能な農林業を支えるものと考え、使命感をもって取り組んでいます。
また、現在の研究テーマにも大きな影響があります。本賞受賞後、私は現在の所属機関に3年間ポスドクとして滞在し、その後研究員として正式採用をいただいたのですが、農林業に従事する方々や、それらに関する施策及び行政に携わる方々との交流が増えたことで、これまでの研究で培ってきた技術や知識が、社会のために役立てることがあるかもしれない、と考えるようになりました。そして現在は、受賞時の研究テーマとしても取り組んでいた「昆虫の感覚利用及び情報処理能力に関する研究」をベースとして、それらを応用して昆虫の感覚にはたらきかけることで緻密な行動操作を可能にし、作物を害虫から保護する防除技術の開発にも携わっています。化学農薬等に依存しないこうした技術は、生き物にも地球環境にもやさしい環境低負荷型防除手法としてこれからの持続可能な農林業を支えるものと考え、使命感をもって取り組んでいます。


研究を楽しんでほしい、と心から思います。研究は失敗の繰り返しで、思い通りに進まないことがほとんどだと思います。しかし、一見失敗にみえるその現象にも、自分が予想だにしていなかった未知の面白さが潜んでいるかもしれません。そこに気づける目を常に持ち続けられるよう、自由で柔軟でありたいと私自身も思っています。
※本記事に記載の所属・肩書きは、掲載時点(2025年3月)のものです。
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