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国際生物学賞

国際生物学賞 歴代受賞者

第37回国際生物学賞 受賞者について


ティモシー・ダグラス・ホワイト 博士
(Dr. Timothy Douglas White)

生年月日 1950年 8月 24日(71歳) ティモシー・ダグラス・ホワイト 博士
国籍 米国
現職 カリフォルニア大学バークレー校統合生物学教授
   
略歴 1977年 ミシガン大学自然人類学(Ph.D.)
1972年–1975年 ミシガン大学ティーチングフェロー
1976年–1977年 ミシガン大学講師
1977年–1978年 カリフォルニア大学バークレー校客員講師
1978年–1982年 カリフォルニア大学バークレー校助教
1982年–1986年 カリフォルニア大学バークレー校准教授
1986年–1995年 カリフォルニア大学バークレー校人類学教授
1995年–現在 カリフォルニア大学バークレー校統合生物学教授
同 人類進化研究センター所長、兼古生物学研究者
同 生命・自然科学特別教授
栄誉歴 1995年 アカデミー・オブ・アチーブメントゴールデンプレート賞
2000年 カリフォルニア大学リバーサイド校栄誉卒業生
2000年 アメリカ科学振興協会フェロー
2000年 米国科学アカデミー会員
2002年 アメリカ芸術科学アカデミー会員
2002年 南アフリカ王立協会名誉フェロー
2009年 サイエンス誌ブレークスルー・オブ・ザ・イヤー
2010年 タイム100(世界で最も影響力のある100人)
2011年 ハワード・ヒューズ医学研究所ホリデーレクチャラー
2014年 エチオピア科学協会アソシエートフェロー
2019年 スペイン国立人類進化学研究所特別講師
2019年 バークレー地質年代学センター25周年記念キーノートスピーカー
研究業績

  ホワイト博士は、自身のキャリアの早い段階から重要な人類化石の研究に取り組み、特に370万~300万年前のアウストラロピテクス・アファレンシス化石(足跡化石を含む)の詳細な分析研究における中心的役割を果たした。同種は当該化石群の変異が大きいことから複数種が混在するとの意見がある中で、ホワイト博士は、化石の徹底的な分析や比較、解釈を通じ、変異も含めて一種であることを示して、この種をアウストラロピテクス・アファレンシスと命名した。ホワイト博士によるこのアファレンシス化石に関する研究と解釈は、古人類学の分野のそれ以降の範となる内容であり、今日に至るまで同分野の研究に影響を与え続けている。
  1990年からホワイト博士がエチオピア人研究者と共同主宰してきた、エチオピアにおけるミドル・アワッシュ調査プロジェクトでは、アルディピテクス・カダバ(570万年前)、アウストラロピテクス・アナメンシス(410万年前)、アウストラロピテクス・ガルヒ(250万年前)、アフリカのホモ・エレクトス(100万年前)、ホモ・サピエンス・イダルトゥ(ヘルト人、16万年前)など、様々な古さの人類化石が発見されている。ホワイト博士らは、アルディピテクス・カダバがアルディピテクス・ラミダスより原始的な祖先種であること、アウストラロピテクス・ガルヒはホモ属の祖先候補であること、ヘルト人は誕生間もない時期のサピエンスであることなど、精密な分析を通じてそれぞれの化石についての解釈を提示してきた。
  特に、ホワイト博士らによる440万年前のアルディピテクス・ラミダス化石の発見は、400万年前よりも古い、アウストラロピテクス段階以前の人類進化の様相について、初めてまとまった知見を与えることとなった。ホワイト博士は、ほぼ完全だが非常にもろくて壊れやすい全身骨格資料(通称アルディ)の長時間に及ぶ修復作業なども自身でも担当した。その結果として、アルディピテクス・ラミダスという種の歩行様式や、採食適応、性的二型(性別によって個体の形質が異なること)とそのことが示す社会生態学的な意義、同種の周辺の環境(古環境)を明らかにすることでこの種がどのような環境に生息していたかを推測するなど、アルディピテクス・ラミダスのさまざまな側面が、ホワイト博士らの研究によって明らかになった。こうした知見は、それまで漠然とチンパンジー的であったと想定されていた人類と現生類人猿の共通祖先像を、初めて具体的に検討する手がかりを提示し、また同時にアウストラロピテクスの人類進化史における位置づけについて新たな視点を提供することにもつながった。
  今日の人類進化研究は必然的に長期的・国際的・学際的なものとなり、関連分野も地学・地質年代学・古生物学・考古学・タフォノミー(化石化の過程で生じるさまざまな変化に関する研究)・機能形態学・系統分類学など幅広い。ホワイト博士の、人類化石研究そのものはもちろんのこと、人類以外の動物化石や、タフォノミー、古環境、考古学、骨学、そして食人習慣などヒトの行動に関する事柄まで、広範な研究を自身で推進する姿勢は、まさにこうした今日の多面的な人類進化研究のあり方を体現しているといえる。
  ホワイト博士は、後進の育成にも力を注いでいる。東アフリカ地域の出身者を含め、ホワイト博士らによって野外調査の現場や研究室で徹底的に教育された次世代研究者たちが、アフリカやアジアの古生物学の最前線で活躍しつつある。また博士の著した骨学の教科書は、比類なきスタンダードとして、初学者のみならず専門家にとっても必携の書となっている。

代表的な論文及び著書

  1. 1) White, T.D., Lovejoy, C.O., Asfaw, B., Carlson, J.P. and Suwa, G. (2015) Neither chimpanzee nor human, Ardipithecus reveals the surprising ancestry of both.  Proceedings of the National Academy of Science of the USA 112(16): 4877-4884. Special Feature:  The Future of the Fossil Record, PNAS Centenary, D. Jablonski and N. Shubin, eds.  www.pnas.org/cgi/content/short/1403659111
  2. 2) White, T.D., Black, M.T. and Folkens, P.A. (2012) Human Osteology. Third Edition.  Elsevier Academic Press. San Diego. 662p.
  3. 3) White, T. D., Asfaw, B., Beyene, Y., Haile-Selassie, Y., Lovejoy, C. O., Suwa, G., and WoldeGabriel. (2009) Ardipithecus ramidus and the paleobiology of early hominids. Science, 326(5949): 75-86.
  4. 4)White, T.D. (2009) Ladders, bushes, punctuations, and clades: Hominid paleobiology in the late Twentieth Century. In: D. Sepkoski and M. Ruse (Eds.) The Paleobiological Revolution: Essays on the Growth of Modern Paleontology. Chicago: University of Chicago Press. pp. 122-148.
  5. 5) Haile-Selassie, Y., Suwa, G., and White, T.D. (2009) Chapter 7, Hominidae. In: Y. Haile-Selassie and G. WoldeGabriel (Eds.), Ardipithecus kadabba: Late Miocene Evidence from the Middle Awash, Ethiopia. Berkeley: University of California Press. pp. 159-236.
  6. 6) White, T.D., WoldeGabriel, G., Asfaw, B., Ambrose, S., Beyene, Y., Bernor, R.L., Boisserie, J.R., Currie, B., Gilbert, H., Haile-Selassie, Y., Hart, W.K., Hlusko, L.J., Howell, F.C., Kono, R.T., Lehmann, T., Louchart, A., Lovejoy, C.O., Renne, P.R., Saegusa, H., Vrba, E.S., Wesselman, H., and Suwa, G. (2006) Asa Issie, Aramis, and the origin of Australopithecus. Nature, 440: 883-889.
  7. 7) White, T.D., Asfaw, B., DeGusta, D., Gilbert, H., Richards, G.D., Suwa, G., and Howell, F.C. (2003) Pleistocene Homo sapiens from Middle Awash, Ethiopia. Nature, 423: 742-747.
  8. 8) Asfaw, B., Gilbert, W.H., Beyene, Y., Hart, W.K., Renne, P.R., WoldeGabriel, G., Vrba, E.S., and White, T.D. (2002) Remains of Homo erectus from Bouri, Middle Awash, Ethiopia. Nature, 416: 317-320.
  9. 9) White, T.D. (2000) A view on the science: Physical Anthropology at the Millennium. American Journal of Physical Anthropology, 113: 287-292.
  10. 10) Defleur, A., White, T.D., Valensi, P., Slimak, L., and Crégut-Bonnoure, E. (1999) Neanderthal cannibalism at Moula-Guercy, Ardèche, France. Science, 286: 128-131.
  11. 11) Asfaw, B., White, T.D., Lovejoy, C.O., Latimer, B., Simpson, S. and Suwa, G. (1999) Australopithecus garhi: A new species of early hominid from Ethiopia. Science, 284: 629-635.
  12. 12) White, T.D., Suwa, G. and Asfaw, B. (1994) Australopithecus ramidus, a new species of early hominid from Aramis, Ethiopia. Nature, 371: 306-312.
  13. 13) WoldeGabriel, G., White, T.D., Suwa, G., Renne, P., de Heinzelin, J., Hart, W.K. and Heiken, G. (1994) Ecological and temporal placement of early Pliocene hominids at Aramis, Ethiopia. Nature, 371: 330-333.
  14. 14) White, T.D., Suwa, G., Hart, W.K., Walter, R.C., WoldeGabriel, G., de Heinzelin, J., Clark, J.D., Asfaw, B., and Vrba, E. (1993) New discoveries of Australopithecus at Maka, Ethiopia. Nature, 366: 261-265.
  15. 15) White, T.D. (1992) Prehistoric Cannibalism at Mancos 5MTUMR-2346. Princeton: Princeton University Press. 488p.
  16. 16) White, T.D. (1986) Cutmarks on the Bodo cranium: A case of prehistoric defleshing. American Journal of Physical Anthropology, 69: 503-509.
  17. 17) Johanson, D.C., Lovejoy, C.O., Kimbel, W.H., White, T.D., Ward, S.C., Bush, M.E., Latimer, B.M. and Coppens, Y. (1982) Morphology of the Pliocene partial skeleton (A.L. 288-1) from the Hadar Formation, Ethiopia. American Journal of Physical Anthropology, 57: 403-452.
  18. 18) White, T.D. (1980) Evolutionary implications of Pliocene hominid footprints. Science, 208: 175-176.
  19. 19) Johanson, D.C. and White, T.D. (1979) A systematic assessment of early African hominids. Science, 203: 321-330.
  20. 20) Harris, J.M. and White, T.D. (1979) Evolution of the Plio-Pleistocene African Suidae. Monograph: Transactions of the American Philosophical Society, 69, Part 2: 1-128.