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国際生物学賞

国際生物学賞 歴代受賞者

第36回国際生物学賞 受賞者について


篠崎 一雄 博士
(Dr. SHINOZAKI Kazuo)

生年月日 1949年 2月 23日(71歳) 篠崎 一雄 博士
国籍 日本
現職 理化学研究所環境資源科学研究センター 特別顧問
(兼務)機能開発研究グループディレクター
   
略歴 1979年 名古屋大学大学院理学研究科 理学博士
1978年–1986年 国立遺伝学研究所 分子遺伝部 研究員
1983年–1986年 名古屋大学 理学部生物学科 助手
1986年–1989年 名古屋大学 遺伝子実験施設 助教授
1989年–2005年 理化学研究所 植物分子生物学研究室 主任研究員
1999年–2005年 理化学研究所 ゲノム科学総合研究センター
植物ゲノム機能情報研究グループ プロジェクトディレクター
2005年–2013年 理化学研究所 植物科学研究センター センター長
2010年–2015年 理化学研究所 バイオマス工学研究プログラムディレクター(兼任)
2013年–2020年 理化学研究所 環境資源科学研究センター センター長
2020年–現在 理化学研究所 環境資源科学研究センター 特別顧問
(兼)機能開発研究グループディレクター
栄誉歴 1987年 日本生化学会奨励賞、日本遺伝学会奨励賞
2000年 トムソン・ロイター 引用最高栄誉賞
2003年 第14回つくば賞
2006年 文部科学大臣表彰 科学技術賞
2009年 日本植物生理学会賞
2014年–2015年 トムソン・ロイター 高引用度論文研究者に選出
2015年 米国、American Society of Plant Biologists功績賞の表彰
2016年 文化功労者 文化庁
2016年 紫綬褒章 内閣府
2016年–2019年 クラリベイトアナリティクス 高引用度論文研究者に選出
2018年 米国、ミシガン州立大学 アントン・ラング記念優秀研究賞
2020年 米国、科学アカデミー国際会員に選出
研究業績

植物の環境ストレス応答と耐性獲得の分子機構の解明
  植物は移動することがないため、乾燥、低温、高温、塩などの外部環境のストレスに応答して耐性を獲得し、生存している。1980年代における植物の環境ストレス応答や適応に関する研究は、主に生理学的手法によって進められていた。篠崎一雄博士は1989年に理化学研究所に赴任すると、植物の環境ストレス応答や適応に関する研究に世界に先駆けて分子生物学的手法を導入して環境ストレス応答に関わる多くの重要な遺伝子を発見し、それらの遺伝子の機能や制御のメカニズムを明らかにした。一方、ゲノム機能解析により、ストレス応答の遺伝子発現ネットワークや環境ストレスの受容から遺伝子発現に至る細胞内シグナル伝達系に関する先駆的な研究を行い、植物の環境ストレス応答や環境ストレス耐性に関する分子生物学的研究に大きな影響を与えた。このことは、篠崎博士の論文の引用度が植物科学分野で国際的にトップクラスであることからも理解できる。

乾燥などの環境ストレス応答における植物遺伝子の探索と発現解析
  篠崎博士らは、モデル植物シロイヌナズナを用いて乾燥や低温ストレスで誘導される遺伝子の探索と機能解析を行い、環境ストレス耐性に関わる遺伝子は単独のものではなく、種々の異なる機能を持った遺伝子群によって構成されていることを明らかにした。また、乾燥ストレスに応答して誘導される遺伝子とその発現制御に関する研究では、従来、乾燥ストレス応答において植物ホルモンアブシシン酸(ABA)が重要な役割を持つことが知られていたが、篠崎博士らは植物の乾燥ストレス応答においてABAに依存する制御系以外に、ABA に依存しない制御系も存在することを初めて示し、遺伝子発現において機能するいろいろな遺伝子の主要な制御領域と転写因子を発見した。特に、乾燥ストレス応答に関わる転写制御領域のシス因子DRE (Dehydration Responsive Element)と転写因子DREB (DRE Binding protein)を明らかにした研究は論文引用度が高く、多くの植物科学の教科書に掲載されている。

植物の環境ストレス応答に関わるシグナル伝達系の解析
  環境ストレス応答遺伝子の発現制御に関わる転写因子、シグナル伝達因子、浸透圧ストレスの受容に関わる重要な制御因子を明らかにした。篠崎博士らは、シグナル伝達に関わるタンパク質であるリン酸化酵素に関する研究では、浸透圧ストレスのセンサーとしてヒスチジンキナーゼ、シグナル伝達系としてMAPキナーゼやSnRK2キナーゼを同定した。これらの発見は、環境ストレス応答におけるシグナル伝達の研究分野での大きな成果である。特にシグナル伝達に関わるSnRK2キナーゼの機能を明らかにした一連の論文は、数多く引用されている。その後さらに、乾燥ストレス時のABAに関する研究を進め、ABAの生合成と分解による制御、SnRK2とその上流因子の同定など、細胞内シグナル伝達の研究に関して成果を収めた。ABAによる転写調節に関しても主要な転写因子のAREB (ABA Responsive Element Binding protein)を同定し、SnRK2により活性化されることを示した。さらに、ABAの組織間の輸送に関わる重要なトランスポーターABCG25を初めて同定し、乾燥ストレス応答におけるABAの制御系の全体像を明らかにした。

環境ストレス応答における根から葉への長距離情報伝達因子の同定
  土壌が乾燥すると、植物は根でストレスを感知して適応する。水分欠乏の情報は根から茎の維管束系を介して地上部に伝わり、葉の気孔が閉鎖され、水分の蒸散が抑えられる。篠崎博士らは、植物の乾燥ストレス応答においてCLAVATA3/EMBRYO-SURROUNDING REGION-RELATED 25 (CLE25) ペプチドが根から葉への長距離輸送のシグナルとして移動することを発見した。CLE25は根の水分減少により根の維管束で誘導され、根から葉へ輸送されて葉でABAの合成を誘導する。その結果、ABAにより気孔が閉鎖され、水分の蒸散を抑えられる。本研究は、乾燥ストレスに応答した根から葉までという長距離のシグナル伝達ネットワークにペプチドが関与することを初めて明らかにしたもので注目された。

作物の環境ストレス耐性向上に関する応用研究
  篠崎博士らは、シロイヌナズナの環境ストレス耐性に関わる遺伝子を利用して乾燥や低温耐性の作物への応用に向けて共同研究を進め、環境ストレス耐性作物の作製への道を開いた。特にイネ、ダイズなどにおける乾燥ストレス耐性作物、塩ストレス耐性作物などの開発を行っており、すでに環境ストレス耐性遺伝子やストレス応答性プロモーターの利用などに関する数多くの特許を取得している。篠崎博士らは、国際農業研究協議グループ(CGIAR)の作物研究所との共同研究で乾燥ストレス耐性作物の開発を進めており、乾燥地での陸稲の乾燥耐性強化と収量の増加も観察されて、シロイヌナズナの環境ストレス関連遺伝子が実際に乾燥耐性作物の開発に利用できることを証明した。

ゲノム機能研究プロジェクトと研究リソースの整備
  篠崎博士らは、モデル植物シロイヌナズナの植物ゲノム機能研究にも大きく貢献した。特に遺伝子の転写産物のコピーである完全長cDNAの収集、マイクロアレイによる環境ストレスによる遺伝子発現解析に関する先駆的成果は高く評価された。またゲノム機能を解析するため、遺伝子破壊変異体の収集を行い、これらの研究資源を理化学研究所バイオリソースセンターから公開することで、植物科学の発展に貢献した。これらの変異体系統を用いて表現型解析を行い、逆遺伝学的な方法で遺伝子の機能解析を進めた。さらにマイクロアレイ解析によって環境ストレス応答性の遺伝子を探索して多くのストレス誘導性遺伝子を収集するとともに、逆遺伝学的方法で新規の遺伝子の機能を明らかにした。篠崎博士は2005年より理化学研究所植物科学研究センター長としてゲノム機能研究、メタボローム研究、植物ホルモン研究、環境ストレス研究などのプロジェクトを推進し植物科学の発展に貢献したことでプロジェクトリーダーとしても高く評価されている。植物科学研究センターにおいては、メタボローム解析や植物ホルモン解析の技術基盤を整備して植物科学を推進した。一方、理化学研究所バイオリソースセンターの立ち上げにも貢献し、植物科学の研究推進に役立つモデル植物の遺伝子や変異体などのリソース(研究材料)の収集と提供を進めた。これらのリソースは国際的にも利用され、植物の遺伝子研究に役立っており、重要な研究成果が多数発表されている。

代表的な論文及び著書

    原著論文

  1. 1)Yamaguchi-Shinozaki K., and Shinozaki K. (1994) A novel cis-acting element in an Arabidopsis gene is involved in responsiveness to drought, low-temperature, or high-salt stress. Plant Cell 6: 251-264
  2. 2)Mizoguchi T., Irie K., Hirayama T., Hayashida N., Yamaguchi-Shinozaki K., Matsumoto K., and Shinozaki K. (1996) A gene encoding a mitogen-activated protein kinase kinase kinase is induced simultaneously with genes for a mitogen-activated protein kinase and an S6 ribosomal protein kinase by touch, cold, and water stress in Arabidopsis thaliana. Proceedings of the National Academy of Sciences USA. 93: 765-769
  3. 3)Liu Q., Kasuga M., Sakuma Y., Abe H., Miura S., Yamaguchi-Shinozaki K., and Shinozaki K. (1998) Two transcription factors, DREB1 and DREB2, with an EREBP/AP2 DNA binding domain separate two cellular signal transduction pathways in drought- and low- temperature-responsive gene expression, respectively, in Arabidopsis. Plant Cell 10: 1391-1406
  4. 4)Kasuga M., Liu Q., Miura S., Yamaguchi-Shinozaki K., and Shinozaki K. (1999) Improving plant drought, salt, and freezing tolerance by gene transfer of a single stress-inducible transcription factor. Nature Biotechnology 17: 287-291
  5. 5)Urao T., Yakubov B., Satoh R., Yamaguchi-Shinozaki K., Seki M., Hirayama T., and Shinozaki, K. (1999) A transmembrane hybrid-type histidine kinase in Arabidopsis functions as an osmosensor. Plant Cell 11: 743-754
  6. 6)Seki M., Narusaka M., Kamiya A., Ishida J., Satou M., Sakurai T., Nakajima M., Enju A., Akiyama K., Oono Y., Muramatsu M., Hayashizaki Y., Kawai J., Carninci P., Itoh M., Ishii Y., Arakawa T., Shibata K., Shinagawa A., and Shinozaki K. (2002) Functional annotation of a full-length Arabidopsis cDNA collection. Science 296: 141-145
  7. 7)Yoshida R., Hobo T., Ichimura K., Mizoguchi T., Takahashi F., Aronso, J., Ecker J.R., and Shinozaki K. (2002) ABA-activated SnRK2 protein kinase is required for dehydration stress signaling in Arabidopsis. Plant and Cell Physiology 43: 1473-1483
  8. 8)Umezawa T., Sugiyama N., Mizoguchi M., Hayashi S., Myouga F., Yamaguchi-Shinozaki K., Ishihama Y., Hirayama T., and Shinozaki K. (2009) Type 2C protein phosphatases directly regulate abscisic acid-activated protein kinases in Arabidopsis. Proceedings of the National Academy of Sciences USA 106: 17588-17593
  9. 9)Kuromori T, Miyaji T, Yabuuchi H, Shimizu H, Sugimoto E, Kamiya A, Moriyama Y., and Shinozaki K. (2010) ABC transporter AtABCG25 is involved in abscisic acid transport and responses. Proceedings of the National Academy of Sciences USA 107: 2361-2366
  10. 10)Takahashi F., Mizoguchi T., Yoshida R., Ichimura K., and Shinozaki K. (2011) Calmodulin-dependent activation of MAP kinase for ROS homeostasis in Arabidopsis. Molecular Cell 41: 649-660
  11. 11)Umezawa T., Sugiyama N., Takahashi F., Anderson J.C., Ishihama Y., Peck S.C., and Shinozaki K. (2013) Genetics and phosphoproteomics reveal a protein phosphorylation network in the abscisic acid signaling pathway in Arabidopsis thaliana. Science Signaling: 6 rs8
  12. 12)Selvaraj M.G., Ishizaki T., Valencia M., Ogawa S., Dedicova B., Ogata T., Yoshikawa K., Maruyama M., Kusano M., Saito K., Takahashi F., Shinozaki K., Nakashima K., and Ishitani M. (2017) Overexpression of an Arabidopsis thaliana galactinol synthase gene improves drought tolerance in transgenic rice and increased grain yield in the field. Plant Biotechnology Journal 10.1111/pbi 12731
  13. 13)Takahashi F., Suzuki T., Osakabe Y., Betsuyaku S., Kondo Y., Dohmae N., Fukuda H., Yamaguchi-Shinozaki K., and Shinozaki K. (2018) A small peptide modulates stomatal control via abscisic acid in long-distance signaling. Nature 556: 235-238
  14. 総説、著書

  15. 14)Shinozaki K., and Yamaguchi-Shinozaki K. (1997) Gene expression and signal transduction in water-stress response. Plant Physiology 115: 327-334
  16. 15)Yamaguchi-Shinozaki K., and Shinozaki K. (2006) Transcriptional regulatory networks in cellular responses and tolerance to dehydration and cold stresses. Annual Review of Plant Biology 57: 781-803
  17. 16)Umezawa T., Fujita M., Fujita Y., Yamaguchi-Shinozaki K., and Shinozaki K. (2006) Engineering drought tolerance in plants: discovering and tailoring genes to unlock the future. Current Opinion of Biotechnology 17: 113-122
  18. 17)Hirayama T., and Shinozaki K. (2010) Research on plant abiotic stress responses in the post-genome era: past, present and future. Plant Journal 61: 1041-1052
  19. 18)Shinozaki K., Uemura M., Bailey-Serres J., Bray A.E., and Weretilnyk E. (2015) Responses to abiotic stress. In Biochemistry and Molecular Biology of Plants. Second edition. Edited by Buchanan, B., Gruissem, W. and Jones, R.L. American Society of Plant Biologists & Wiley Blackwell. page 1051-1100
  20. 19)Kuromori T., Seo M., and Shinozaki K. (2018) ABA Transport and Plant Water Stress Responses. Trends in Plant Science 23: 513-522
  21. 20)Takahashi F., and Shinozaki K. (2019) Long-distance signaling in plant stress response. Current Opinion of Plant Biology 47:106-111