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国際生物学賞

第37回、第38回授賞式・受賞者あいさつ・審査経過報告

秋篠宮皇嗣同妃両殿下のご臨席を仰いで
第37回、第38回国際生物学賞授賞式が挙行されました。

(令和4年12月14日)


12月14日、第37回、第38回国際生物学賞授賞式が日本学士院において挙行されました(第37回国際生物学賞授賞式は新型コロナウイルス感染症の影響により一年延期)。授賞式は、秋篠宮皇嗣同妃両殿下のご臨席を仰ぎ、内閣総理大臣代理として星野剛士内閣府副大臣、永岡桂子文部科学大臣をはじめ、各界からの来賓の参列を得て、盛会のうちに執り行われました。


式典では、藤吉好則国際生物学賞委員会委員長から、第37回受賞者のティモシー・ダグラス・ホワイト博士及び第38回受賞者の塚本勝巳博士に賞状と賞金1,000万円及び賞牌が授与され、また、秋篠宮皇嗣殿下からの贈呈品「秋篠宮家御紋付銀花瓶」が伝達されました。


秋篠宮皇嗣殿下からのお言葉に続いて、内閣総理大臣祝辞(代読:星野剛士内閣府副大臣)、並びに文部科学大臣祝辞が述べられ、最後にホワイト博士、塚本博士(代読:塚本博士夫人)が受賞の挨拶を行いました。

引き続き、秋篠宮皇嗣同妃両殿下ご臨席の下、受賞者や関係者との懇談が行われました。

第37回国際生物学賞_ホワイト博士授賞

ホワイト博士への授賞

第38回国際生物学賞_塚本博士授賞

塚本博士(代理:塚本博士夫人)への授賞



ホワイト博士夫妻 塚本博士夫人
贈呈品を手にする受賞者
(左:ホワイト博士夫妻、右:塚本博士夫人)
授賞式後の懇談会の様子_ホワイト博士ご一家 授賞式後の懇談会の様子_塚本博士婦人とご息女
授賞式後の懇談会
(左:ホワイト博士ご一家、右:塚本博士夫人とご息女)


第37回国際生物学賞受賞者あいさつ

ティモシー・ダグラス・ホワイト博士

ティモシー・ダグラス・ホワイト博士の写真

 秋篠宮皇嗣同妃両殿下、ご来臨の皆様、
 この度、第37回国際生物学賞受賞という栄誉を賜り、誠に光栄に存じます。また、皆様の御列席のもと、このように非常に特別な式典にお招きいただいたことも、大変光栄に存じます。皆様と共に、昭和天皇並びに上皇陛下の先駆的なご研究を記念したいと思います。
 本日、秋篠宮皇嗣殿下並びに同妃殿下の御臨席を賜ったことは、科学に対する日本の決意の表れであり、世界の科学を主導するとの日本の姿勢を改めて強く思い起こさせるものです。すべての科学者を代表して、その支援とリーダーシップに感謝申し上げます。
 このビジョンとリーダーシップゆえに、また、日本の数多くの方々がこの40年近くにわたり、一致協力して努力されてきたからこそ、この国際生物学賞は、生物学の基礎研究に対する世界有数の賞となりました。受賞者は皆、国際的に極めて評価の高い厳格な選考プロセスを経て選ばれた、世界有数の研究者たちばかりです。
 日本学術振興会にも御礼を申し上げます。事務局の皆様は、困難な状況下にもかかわらず見事な組織力を発揮されました。また、審査委員長の三村徹郎博士をはじめとする審査委員会の御尽力にも感謝いたします。研究全体に対する、日本学術振興会の揺るぎなく手厚い、継続的な支援に対して感謝の念に堪えません。
 この人類進化研究に関しては、日本学術振興会自体も本賞に値するものと考えております。なぜなら、アフリカにおける研究力の強化をはじめ、野外調査や研究室での研究を長く支援してくださったからです。
 この第37回と第38回の合同授賞式を共にされております塚本勝巳教授と御家族に、心からの感謝を申し上げます。
 国際生物学賞は毎年1名の研究者に贈られますが、今回の受賞は私ひとりのものではありません。もし両親が私に「過去」への好奇心を存分に追求させてくれなければ、私はこの場にいなかったでしょう。多くの先生方や友人、同僚の支援や献身がなければ、私はここにいなかったでしょう。社会のいろいろな方々や、私の全ての教育期間にわたってです。皆様がそれぞれの国や文化、研究室、博物館、そしてたびたび家庭にも私を招き入れてくださいました。
 どんな国、どんな文化でも、中心にあるのは家族です。ですから私は、妻のレスリア・ラスコー教授、娘のマドセンと、このたびの受賞を分かち合えることに深く感動いたしております。娘が日本の人々、歴史、文化、そして可能性に触れる機会を与えてくださったことを、大変貴重に感じております。
 それぞれの賞で表彰される業績は、関係する多くの人々の努力があってこそ可能になります。特にこの「ヒト進化の生物学」における受賞に関しては、このことが当てはまります。
 ミドル・アワッシュ調査プロジェクトは、フランスの地質学者、故モリス・タイエブ博士の先駆的な調査に端を発します。タイエブ博士がエチオピアのアファール地域を調査しているとき、私は化石発掘の名手にして偉大なる教師、ケニアの故カモヤ・キメウ博士から野外調査の手法を教わる機会に恵まれました。さらに、カリフォルニア州とミシガン州の優れた公立大学制度が、私の学術研究の支えとなりました。
 博士号を取って間もない若い頃、私は幸運にも、20世紀の古人類学を代表するデズモンド・クラーク博士とクラーク・ハウエル博士から御指導、御支援をいただくことができました。おふたりの学際的なアプローチによって、カリフォルニア大学バークレー校に研究基盤が築かれ、ここから、私の長年の同僚、諏訪元博士とブルハニ・アスフォー博士が輝かしい経歴をスタートさせました。その後も多くの若手研究者たちが巣立ち、独自の重要な発見を重ねています。
 私たちのミドル・アワッシュ調査隊には、17カ国の科学者が参加しています。この40年間、700人を超えるメンバーがその専門スキルを持ち寄って、人類共通の過去を探ってきました。
私たちの研究は数多くの国・大陸の境界を越え、数世代に及び、さまざまな文化を網羅してきました。研究に参加する人は、地質学者、地質年代学者、考古学者、古植物学者、古生物学者、遺跡担当官、学生、運転手、料理人、機械工、警備員、案内人、村民など、多岐にわたります。そうした人々のほとんどが、過酷な、そしてしばしば危険な条件下の現地調査に関わってきました。この賞はまた、エチオピアの人々、とりわけ人類史を解くカギを握る土地、アファール地域の人々のものでもあります。
 国際生物学賞が私たちすべての取り組みを認めてくださり、古生物学という国際的な学問を支援してくださることに対して、深く感謝申し上げます。
この賞は、私たちがこうした研究・教育活動を続けていく励みになります。人類の起源や進化については、まだ多くの知るべきことがあります。私たちの発見がもたらす見解が一助となり、人類がさらに平和で持続可能な未来を築くことを願っております。本当にありがとうございます。

第37回国際生物学賞審査経過報告

国際生物学賞審査委員会委員長 三村 徹郎

第37回国際生物学賞 三村 徹郎委員長の写真

 第37回国際生物学賞審査委員会を代表いたしまして、今回の審査の経緯についてご報告申し上げます。
 審査委員会は、私及び海外の研究者4名を含む20名の委員で構成いたしました。
 審査委員会は、今回の授賞対象分野である「ヒト進化の生物学」にふさわしい受賞者を推薦いただくため、国内外の大学、研究機関、学協会および国際学術団体等に、1,607通の推薦依頼状をお送りしました。その結果、21通の推薦状が届きました。このうち重複を除いた被推薦者の数は10か国・地域の17名でございました。
 審査委員会は、コロナ禍の中、オンラインによって4回の会議を開催し、慎重に候補者の選考を行い、第37回国際生物学賞受賞者として、ティモシー・ダグラス・ホワイト教授を国際生物学賞委員会へ推薦いたしました。
 ホワイト教授は、ミシガン大学で博士号を取得後、長年に亘ってカリフォルニア大学バークレー校で研究・教育にあたってこられました。
ホワイト教授は、エチオピアにおける調査プロジェクトをエチオピアの研究者と共同で主宰され、このプロジェクトによって人類進化における様々な段階の化石の発見に成功されました。これらの化石の分析によって得られた新たな証拠や解釈を提示することで、人類の進化に関する我々の理解に多大な貢献をされてこられました。
 特に顕著な功績として、通称ラミダス猿人として知られる440万年前のアルディピテクス・ラミダス化石の発見が挙げられます。ホワイト教授が国際共同研究チームとともに成し遂げたこの偉業により、それまでは不明であった人類の最も初期の祖先に関する様々な知見が得られ、その結果、人類進化に関する研究が飛躍的に進展いたしました。
 ホワイト教授の業績は、本賞の審査基準である、授賞対象分野への適合性、研究の独創性、当該分野における影響力、および生物学全般への貢献度のいずれをも十分に満たすものであります。
 国際生物学賞委員会は、審査委員会の推薦に基づいて審議を行い、ティモシー・ダグラス・ホワイト教授に対し、第37回国際生物学賞を授与することを決定いたしました。
 以上をもちまして、私の審査経過報告と致します。

第38回国際生物学賞受賞者あいさつ

塚本 勝巳 博士

塚本 勝巳 博士の写真

 この度は、国際生物学賞受賞という栄誉を賜り、大変光栄に存じます。上皇陛下のご研究成果にも接する機会の多い魚類研究者として、本賞を授与されたことに大きな誇りを感じております。まずは、この栄誉を与えていただきました関係者の皆様に厚くお礼を申し上げます。
 子供の頃、ふるさとの小さな川で、水面から背中を出している大きな魚を見つけました。近づくと、その魚は巨体を翻して、盛大な水飛沫と共に緑色の深みの中へ泳ぎ去っていきました。思えば、あれが動物の動く姿や彼らの旅に魅了される研究者としての私の原点でした。
 大学院では、東京大学海洋研究所の梶原武先生のご指導の下、スタミナトンネル実験装置を用いた魚類の遊泳生理に関する研究を行いました。その後、自然の中を泳ぐ魚が見たくて始めたアユの研究を通じ、海と川を行き来する魚の回遊に興味を持ちました。生活史の初期だけを海で過ごすアユに対し、川で生まれて海で成長するサクラマス、逆に海で生まれて川で成長するウナギ。これら3つのタイプを比較することで、通し回遊と呼ばれる彼らの旅の本質を理解できると考えたのです。しかし、研究を進めるうち、当時は産卵の時期や場所すら明らかでなかったウナギの生態解明に惹き込まれていきました。
 耳石を用いた日齢解析により、ウナギの産卵期が夏であることがわかりました。そこで1991年に、それまでの調査航海とは逆の真夏に、新造されたばかりの東京大学海洋研究所の研究船白鳳丸を使って、西部北太平洋を広くカバーする研究航海を実施しました。その結果、ふ化後2週間ほどのニホンウナギのレプトセファルス約1,000尾を採集し、彼らの産卵場がマリアナ諸島西方海域にあることを突き止めたのです。あの時、仲間たちと喜びを分かち合った船上での興奮は今もはっきりと覚えています。しかし、生み出されたばかりの卵や産卵中の親ウナギが見つからない限り、厳密には産卵地点は明らかになっていません。人類が誰も見たことのないものを見たいという好奇心もありました。そこから様々なデータに基づいて構築したのが「海山仮説」と「新月仮説」。すなわち「ウナギは夏の新月の夜にマリアナの海山で産卵する」というものです。これ以降、毎年、初夏の新月の頃はマリアナ諸島周辺の研究船上で過ごす生活が始まりました。そうして、2005年6月の新月には孵化したばかりの仔魚を、さらに2009年5月の新月には世界初となるウナギの卵を、いずれも西マリアナ海嶺南端部で採集することに成功し、新月仮説と海山仮説を証明できたのです。
 現在ではニホンウナギの産卵生態について、かなり正確な理解が進んでいます。思い返せば、ウナギ産卵場調査は、いわゆる科学的なアプローチだけでなく、運や勘が不可欠な科学の冒険だったと考えています。海は広く、まだまだ多くの謎に満ち溢れています。次世代の研究者による新たな冒険を期待してやみません。
 南太平洋やインド洋、インドネシア周辺海域での研究航海を通じ、それまでまったく不明だった熱帯域に生息するウナギ属魚類の産卵回遊の一端を知ることができました。併せて、彼らの旅の進化過程の解明や、近年絶滅が危惧されるニホンウナギの人工種苗生産技術の開発にも取り組みました。私にとって研究とは、極めて個人的な「知りたい」という欲求を満たす行為であり、研究をせずにはいられませんでした。今、改めて研究者になれて良かったと思っています。この幸運に感謝すると共に、その機会を与え、支えてくださったすべての方々に心から御礼を申し上げます。
 本日は誠にありがとうございました。

第38回国際生物学賞審査経過報告

国際生物学賞審査委員会委員長 武田 洋幸

第38回国際生物学賞 武田 洋幸委員長の写真

第38回国際生物学賞審査委員会を代表いたしまして、今回の審査の経緯について御報告申し上げます。
 審査委員会は、私及び海外の研究者4名を含む20名の委員で構成いたしました。
 審査委員会は、今回の授賞対象分野である「魚の生物学」にふさわしい受賞者を推薦いただくため、国内外の大学、研究機関、学協会および国際学術団体等に、1,587通の推薦依頼状を送りました。その結果、58通の推薦状が届きました。このうち重複を除いた被推薦者の数は22か国・地域の49名でございました。
 審査委員会は、4回の会議を開催して、慎重に候補者の選考を行い、第38回国際生物学賞受賞者として、塚本勝巳名誉教授を国際生物学賞委員会へ推薦いたしました。
 塚本名誉教授は、東京大学大学院で博士号を取得後、東京大学海洋研究所、現在の大気海洋研究所で長きに亘り教鞭を執られました。現在は、東京大学の名誉教授でいらっしゃいます。
塚本名誉教授は、海と川を行き来する「通し回遊魚」に関する研究を通じて、魚の回遊現象における基本法則や、回遊行動の進化に関する学術的基盤を構築され、魚の生物学の進展に多大な貢献をされました。更に、広大な海域調査のため新たな手法を導入した航海戦略を立案し、世界で初めて、ニホンウナギの産卵場所が西マリアナ海嶺周辺であることを突き止められました。
こうした偉大な業績に加え、ウナギ資源の安定供給を目指して、シラスウナギ種苗を人工的に大量生産する技術を開発され、また、小学4年生の国語教科書における執筆、“うなぎキャラバン”と題する合計300近くの小学校での授業を通じて子供たちの関心を高める活動など、社会や教育面で多大な貢献を果たされました。
塚本名誉教授の業績は、本賞の審査基準である、授賞対象分野への適合性、研究の独創性、当該分野における影響力、および生物学全般への貢献度のいずれをも十分に満たすものであります。
 国際生物学賞委員会は、審査委員会の推薦に基づいて審議を行い、塚本勝巳名誉教授に対し、第38回国際生物学賞を授与することを決定いたしました。
 以上をもちまして、私の審査経過報告と致します。

第37回、第38回国際生物学賞記念シンポジウム

第37回のホワイト博士、第38回の塚本博士の受賞を記念して、東京大学(第37回)、基礎生物学研究所(第38回)と日本学術振興会の共催により、第37回と第38回の国際生物学賞記念シンポジウムが12月17日(土)と18日(日)の2日間、東京大学及び自然科学研究機構岡崎コンファレンスセンターにて開催されました。


第37回国際生物学賞記念シンポジウム

37回記念シンポジウムの様子

第38回国際生物学賞記念シンポジウム

38回記念シンポジウムの様子

第37回国際生物学賞記念シンポジウムポスター
当日プログラム
第38回国際生物学賞記念シンポジウムポスター
当日プログラム