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国際生物学賞

第36回国際生物学賞 秋篠宮皇嗣殿下おことば

2020年12月16日

昭和天皇の永年にわたる生物学への貢献を顕彰し、1985年のご在位60年の機会に創設され、上皇陛下のご研究を併せて記念する「国際生物学賞」は、本年で36回目を迎えます。その36回目の本賞を受賞された、理化学研究所環境資源科学研究センター特別顧問の篠崎一雄博士に、心からお慶びを申し上げます。

本年は「環境応答の生物学」が贈賞の対象分野となりましたが、篠崎博士は、植物が受ける環境ストレス、乾燥や低温、高塩濃度などに対する耐性獲得とその応答のメカニズムを分子生物学的手法を用いて世界に先駆けて解明し、この分野を先導して来られました。

博士は、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて、植物にとって大きなストレスとなる水分や温度、塩分濃度などの環境変化に応じて発現する遺伝子を多数発見し、それらの制御メカニズムを明らかにされました。特に、乾燥ストレスについては、従来から知られていたアブシジン酸を介した、気孔を閉じ、葉からの蒸散を抑制する仕組みのような経路とは別に、アブシジン酸に依存しない制御系があることを示されました。さらに乾燥ストレス応答において、根から葉への長距離情報伝達因子を確定し、新たなメカニズムを発見されました。

また、シロイヌナズナで発見した環境ストレス耐性に関わる遺伝子を利用して、乾燥耐性の作物への応用に向けて海外の機関との共同研究を進められ、シロイヌナズナの乾燥耐性遺伝子を導入した形質転換イネやダイズにおいて、乾燥耐性の強化や収量の増加を実際の耕作地で証明されています。

篠崎博士のこれらのご研究とその成果は、環境応答の生物学における基礎をなす重要なものであります。そして、応用分野としても、気候変動によって今後懸念される世界の食糧危機克服に向けて大きく貢献することが期待されるものとして、高く評価されるものと申せましょう。

博士のこれまでのご研究によって、基礎植物科学は重要な発展を遂げました。このことは、ひとえに博士が研究者としておさめられた数々の業績によるものであり、ここに深く敬意を表します。

最後になりますが、篠崎博士のご研究が今後さらに発展するとともに、生物学分野が一層深まっていくことを祈念し、お祝いの言葉といたします。