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国際生物学賞

第32回授賞式・受賞者あいさつ・審査経過報告

天皇皇后両陛下のご臨席を仰いで、
第32回国際生物学賞授賞式が挙行されました。

(平成28年11月21日)


第32回国際生物学賞授賞式

   第32回国際生物学賞授賞式は、11月21日に日本学士院において、天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、内閣総理大臣代理として萩生田光一内閣官房副長官、松野文部科学大臣代理として樋口尚也文部科学大臣政務官をはじめ、各界から多数の来賓の参列を得て、盛会のうちに執り行われました。
    式典では、豊島久真男副委員長から、受賞者のスティーブン・フィリップ・ハッベル博士に、賞状と賞金1,000万円及び賞牌が授与され、天皇陛下からの賜品「御紋付銀花瓶」が伝達されました。
    続いて、安倍晋三内閣総理大臣祝辞(代読 萩生田光一内閣官房副長官)、並びに松野文部科学大臣祝辞(代読 樋口尚也文部科学大臣政務官)の後、スティーブン・フィリップ・ハッベル博士が受賞の挨拶を行いました。
    引き続き、天皇皇后両陛下ご臨席の下、受賞者を囲んで記念茶会が行われました。


記念茶会   賜品を手にするハッベル博士夫妻
記念茶会   賜品を手にするハッベル博士夫妻

 

 



第32回国際生物学賞 受賞者あいさつ

スティーブン・フィリップ・ハッベル博士
Dr. Stephen Philip Hubbell

スティーブン・フィリップ・ハッベル博士

天皇皇后両陛下、ご臨席の皆様

   国際生物学賞を賜り、誠に嬉しく光栄に存じます。私の研究を賞に値するものとしてお選びくださったことに対し、謙虚の念を抱かずにはおれません。歴代の受賞者には私が科学界の英雄として尊敬している研究者の方々、つまり私にとって最も身近な学問領域である生態学、進化生物学、系統分類学において多大かつ根本的、永続的な貢献をなさった生物学者の方々も名を連ねていらっしゃいます。そのような偉大で傑出した方々とよもや肩を並べる日が来ようとは夢にも思っておりませんでした。誠にありがたいことと存じております。
   まず、天皇皇后両陛下におかれましては、この賞を通じて長年にわたり生物学をお支え下さっていることに対し、感謝を申し上げます。先ごろニューヨーク・タイムズ紙に、ノーベル賞が現代世界の中で姿を変えつつある科学に対応できていないことを嘆く社説が掲載されました。人類の、そして地球の未来にとって、生態学、保全生物学、進化生物学など、生物学の重要性は増すばかりです。私は、この生物学という領域での功績を称える本賞について、天皇皇后両陛下に感謝申し上げたいと存じます。
   次に、候補者の推薦・選定過程に多くの時間と労力をかけられたであろう日本学術振興会および国際生物学賞審査委員会の皆様にお礼を申し上げたいと存じます。
   そして、私の両親、グレース・グリフィンとセオドア・ハッベルにも感謝いたします。両親はともに科学者で、私に科学と数学から得られる知的喜びと自然を愛する気持ちを教えてくれました。子供の頃、昆虫学者であり進化生物学者でもあった父によく新熱帯区に連れていってもらったのですが、そこで私は熱帯生物の生命力と多様性に魅せられていったのです。
   検証研究にあたっては、類いまれな生物多様性を持つ熱帯林を理解することに献身的に、そして情熱をもって取り組んでくれた多くの教え子と同僚研究者の皆様に感謝いたします。シカゴのフィールド自然史博物館のロビン・フォスター博士とスミソニアン熱帯研究所の前所長であるアイラ・ルビノフ博士には、特に感謝の念に堪えません。ロビンと私は1980年、パナマにあるバロ・コロラド島で世界初となる50ヘクタールの大規模な森林調査区を設定しました。ここからバロ・コロラド島と同じ調査手法による大規模調査区が整備され、世界的なネットワークへと発展しました。アイラはこの森林調査区ネットワークを維持するための国際的なコンソーシアム「熱帯林研究センター」(CTFS)の創設に貢献してくださいました。
   東南アジアの森林と森林監督官を紹介してくださったハーバード大学のピーター・アシュトン博士にも感謝いたします。 ピーターはアジアの同僚とともにCTFSの調査手法に則った調査区の設立に尽力してくれました。その結果、今やアジアは世界最大の調査区集積地域となっています。ピーターはその多大な功績が認められ、2007年に日本国際賞を受賞されています。
   また、25年近くにわたり協力してくださったスミソニアン熱帯研究所の上席スタッフ研究員、リチャード・コンディト博士、イェール大学助教授のライザ・コミタ博士にもお礼申し上げます。本日この会場においでのお二人は、研究面でCTFSに多大な貢献をしてくださっただけでなく、この20年間、CTFSの次世代の研究者育成にも心血を注いでくださいました。
   私の生物多様性と生物地理学における統合中立説の研究については、当時のペンシルベニア州立大学のジャヤンス・バナヴァール、イゴール・ボルコフの両博士、パドヴァ大学のアモス・マリタン博士にも感謝を申し上げなくてはなりません。この方々を始め、十数名の物理学者の方々にも、中立説の範囲を広め、数学的扱いやすさを格段に高めてくださったことに対し、深く感謝いたします。
   最後に、私の妻で、UCLAの生態学・進化生物学卓越教授であるパトリシア・アデール・ゴワティに感謝の気持ちを捧げたいと思います。この20年にわたり、妻は共同研究、見識、倫理面で私を助けてくれたほか、中立説に関する本の草稿に何度も目を通して非常に有益な助言をくれました。
   あらためて、このような素晴らしい栄誉を与えてくださったことに感謝申し上げます。私を支えてくださった多くの研究者仲間とこの喜びを分かち合いたいと存じます。

 

第32回国際生物学賞 審査経過報告

国際生物学賞委員会審査委員長 福田 裕穂

国際生物学賞委員会審査委員長  福田 裕穂氏

   第三十二回国際生物学賞審査委員会を代表いたしまして、今回の審査の経緯について御報告申し上げます。
   審査委員会は、私を含めまして二十人の委員で構成いたしましたが、そのうち四人は特別に委嘱した海外の研究者です。
   審査委員会は、今回の授賞対象分野に定められました「多様性の生物学」に関連する国内外の大学、研究機関、学協会および個人研究者、並びに国際学術団体あてに、千三百三十八通の推薦依頼状を送りましたところ、八十二通の推薦状が届きました。このうち重複を除きますと、被推薦者の実数は七十二件であり、広く二十四か国に亘っておりました。
   審査委員会は、四回の会議を開き、慎重に候補者の選考にあたりました。その結果、第三十二回国際生物学賞受賞者として、スティーブン・フィリップ・ハッベル博士を国際生物学賞委員会へ推薦することに決定いたしました。
   ハッベル博士は、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得後、アイオワ大学准教授、スミソニアン熱帯研究所研究員等を経て、プリンストン大学教授、ジョージア大学教授として活躍され、現在はカリフォルニア大学ロサンゼルス校卓越教授であります。
   ハッベル博士は、「生物多様性と生物地理学における統合中立説」を提唱し、樹木の多様性が高いことで知られる熱帯林に大規模な森林調査区を設けてその群集構造を明らかにするというユニークな手法により、その仮説の検証を行いました。この研究により、生物群集における多様性の成立・維持メカニズムに関して大きな理論的貢献をすると同時に、実際のフィールド研究においても新たな局面を切り開くなど、生物多様性科学の発展におけるハッベル博士の功績は高く評価されています。
   審査委員会は、本賞の審査基準として、受賞対象分野への適合性、研究の独創性、授賞対象分野への影響力、および生物学全般への貢献度を取り上げていますが、ハッベル博士の業績は、そのいずれをも十分に満たすものであることを認め、国際生物学賞を授与するのに最もふさわしい研究者として推薦いたしました。
   国際生物学賞委員会は、審査委員会の推薦を承認し、スティーブン・フィリップ・ハッベル博士に対し、第三十二回国際生物学賞を授与するものであります。
   以上をもちまして、私の審査経過報告と致します。

第32回国際生物学賞記念シンポジウム

   受賞を記念して、東京大学、日本学術振興会との共催により第32回国際生物学賞記念シンポジウム「生物多様性学の最前線」が11月22日(火)、23日(水)の2日間、東京大学本郷キャンパスにて開催されました。受賞者ハッベル博士による特別講演をはじめ、国内外の研究者が、生物多様性における最新の研究成果について講演されました。
   講演は生物多様性の進化、生態系の機能、生物群集の多様性維持機構、生物多様性の保全等、多岐にわたり、一般の方から学生、研究者まで多くの方が参加し、熱心に聴講していました。加えて、発表後の質疑応答や休憩時間には活発な議論が行われました。

   


当日パンフレット