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国際生物学賞

第31回授賞式・受賞者あいさつ・審査経過報告

天皇皇后両陛下のご臨席を仰いで、
第31回国際生物学賞授賞式が挙行されました。

(平成27年12月7日)


第31回国際生物学賞授賞式

   第31回国際生物学賞授賞式は、12月7日に日本学士院において、天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、内閣総理大臣代理として萩生田光一内閣官房副長官、馳浩文部科学大臣をはじめ、各界からの来賓多数の参列を得て、盛会のうちに執り行われました。
    式典では、杉村隆委員長から、受賞者の大隅良典博士に、賞状と賞金1,000万円及び賞牌が授与され、天皇陛下からの賜品「御紋付銀花瓶」が伝達されました。
    続いて、安倍晋三内閣総理大臣祝辞(代読 萩生田光一内閣官房副長官)、並びに馳浩文部科学大臣祝辞の後、大隅良典博士が受賞の挨拶を行いました。
    引き続き、天皇皇后両陛下ご臨席の下、受賞者を囲んで記念茶会が行われました。


記念茶会   賜品を手にする大隅良典博士夫妻
記念茶会   賜品を手にする大隅良典博士夫妻


第31回国際生物学賞 受賞者あいさつ

大隅 良典 博士

大隅 良典 博士

   この度、天皇皇后両陛下御臨席のもと、国際生物学賞の栄誉を賜り、まことに光栄に存じます。私の恩師でもあります毛利秀雄先生が最近出版されました著書「天皇家と生物学」を拝読する機会を得まして、昭和天皇と今上天皇の生物学者としての真摯なお姿とそのご業績を学ばせていただきました。昭和天皇御在位60周年を記念した本賞は、昭和20年に生まれ、まさしく日本の戦後を生きて参りました私にとっては大変感慨深いものがあります。これまで30人の受賞者がおられますが、その中で日本でなされた仕事となりますと、木村資生先生と江橋節郎先生という輝かしい大先輩になります。このような先生方に並んでこのたびの賞を受けることには、私としては身の引き締まる思いが、いたします。

   ご推薦を頂きました先生方、選考の任に当たられました方々に深く御礼申し上げます。

   私はこれまで機会あるごとに述べて参りましたが、私自身、様々な偶然と出会いに助けられて、研究者としての細い細い道を今日まで歩んで参りました。東京大学教養学部の今堀和友先生の下で学び、京都大学、東京大学農学部、ロックフェラー大学留学を経て、東京大学理学部安楽泰宏教授のもとで研究をする機会を得ました。その後、東京大学教養学部、基礎生物学研究所にお世話になり、現在も、東京工業大学で大変恵まれた環境を頂いて研究を続けています。今日科学研究は激烈な競争があるというのも事実ですが、私は元来競争が苦手で、人のやらないことをやりたいという思いで研究を進めて参りました。

   私は細胞内のタンパク質の分解の機構に興味を持ち、1988年以来28年間に亘ってオートファジーと呼ばれる細胞内の分解機構の研究を進めて参りました。生命体は絶えまない合成と分解の平衡によって維持されています。合成に比べて分解の研究は興味を持たれず、なかなか進みませんでした。

   私は一貫して小さな酵母という細胞を用いて、オートファジーの謎の解明を目指し、関わる遺伝子群とその機能を解析して参りました。オートファジーに関わる遺伝子の同定を契機として、今日オートファジーの研究は劇的な広がりを見せ、高等動植物の様々な高次機能に関わっていること、そして、様々な病態にも関係していることが次々と明らかになって参りました。すなわち、分解は合成に劣らず生命活動には重要であるということが次第に認識されて参りました。しかし、まだオートファジーの研究には沢山の基本的な課題が残されています。私は残された研究時間で今一度原点にたちかえって、「オートファジーは何か」ということに向かいたいと思っています。また、近い将来オートファジーのさらなる機構の解明が進み、細胞の一層の理解のもとに、病気の克服や健康の増進などの研究がさらに進むことを心から願っています。

   いうまでもなく現代生物学は一人で進められるものではありません。私のこれまでの仕事も、30年近くに亘る沢山の素晴らしい研究仲間のたゆまぬ努力の賜物でもあります。また素晴らしい共同研究者にも恵まれました。心から彼らに感謝の意を表するとともに、彼らとともにこの栄誉を分かち合いたいと思っております。
   これまで私を支えてくれた今は亡き両親、妻萬里子と家族にも心から感謝をしたいと思います。

最後にこれから生物学を志す若い世代に向けて、
   私達の周りには、まだ沢山の未知の課題が隠されています。素直に自分の眼で現象をみつめ、自分の抱いた疑問を大切にして、流行や様々な外圧に押し流されることなく、自分を信じて生命の論理を明らかにする道を進んで欲しいと申しあげたいと思います。
   私も微力ながら残された時間を、効率や性急に成果が求められる今日の研究者を巡る状況が少しでも改善し、生き物や自然を愛し、人を愛し、豊かな気持ちで研究ができる環境というものの実現に助力したいと思います。
本日はどうも有り難うございました。

 

第31回国際生物学賞 審査経過報告

国際生物学賞委員会審査委員長 藤吉 好則

国際生物学賞委員会審査委員長 藤吉 好則氏

   第31回国際生物学賞審査委員会を代表いたしまして、今回の審査の経緯について御報告申し上げます。
   審査委員会は、私を含めまして20人の委員で構成いたしましたが、そのうち4人は特別に委嘱した海外の研究者です。
   審査委員会は、今回の授賞対象分野に定められました「細胞生物学」に関連する国内外の大学、研究機関、学協会および個人研究者、並びに国際学術団体あてに、1,287通の推薦依頼状を送りましたところ、63通の推薦状が届きました。このうち重複を除きますと、被推薦者の実数は48件であり、広く18か国に亘っておりました。
    審査委員会は、4回の会議を開き、慎重に候補者の選考にあたりました。その結果、第31回国際生物学賞受賞者として、大隅良典博士を国際生物学賞委員会へ推薦することに決定いたしました。
    大隅博士は、東京大学で理学博士号を取得後、米国ロックフェラー大学研究員、東京大学助教授を経て、基礎生物学研究所教授として活躍され、現在は東京工業大学栄誉教授であります。
   大隅博士は、酵母を用いることにより多数のATGと名付けられております遺伝子を同定し、その働きによって細胞の自食作用であるオートファジーが引き起こされる機構を解明いたしました。この成果は、オートファジー研究に大きな変革をもたらしました。また、この機構が生物界に広く保存された重要な一般的な生命現象であることも示し、細胞生物学における新しい研究分野を確立いたしました。今日のオートファジー研究の発展は、大隅博士の研究なくしては実現しえなかったものであり、その功績は世界的にも高く評価されております。
   審査委員会は、本賞の審査基準として、研究の独創性、授賞対象分野への影響力、および生物学全般への貢献度を取り上げていますが、大隅良典博士の業績は、そのいずれをも十分に満たすものであることを認め、国際生物学賞を授与するのに最もふさわしい研究者として推薦いたしました。
   国際生物学賞委員会は、審査委員会の推薦を承認し、大隅良典博士に対して、第31回国際生物学賞を授与するものであります。
   以上をもちまして、私の審査経過報告と致します。