日本学術振興会

第40回授賞式・受賞者あいさつ・審査経過報告・記念シンポジウム

秋篠宮皇嗣同妃両殿下のご臨席を仰いで
第40回国際生物学賞授賞式が挙行されました。

令和6(2024)年12月17日(火)
第40回国際生物学賞記念シンポジウム 受賞者挨拶
授賞式にご臨席された秋篠宮皇嗣同妃両殿下と
受賞の挨拶を行うアンゲリカ・ブラント博士
 令和6(2024)年12月17日(火)、第40回国際生物学賞授賞式が日本学士院において挙行されました。授賞式は、秋篠宮皇嗣同妃両殿下のご臨席を仰ぎ、内閣総理大臣代理として辻󠄀清人内閣府副大臣、文部科学大臣代理として野中厚文部科学副大臣をはじめ、各界から多数の来賓の参列を得て、盛会のうちに執り行われました。

 式典では、藤吉好則国際生物学賞委員会委員長から、第40回受賞者のアンゲリカ・ブラント博士に賞状と賞金1,000万円及び賞牌が授与され、また、秋篠宮皇嗣殿下からの贈呈品「秋篠宮家御紋付銀花瓶」が伝達されました。

 秋篠宮皇嗣殿下からのおことばに続いて、内閣総理大臣祝辞(代読 辻󠄀清人内閣府副大臣)、並びに文部科学大臣祝辞(代読 野中厚文部科学副大臣)が述べられ、最後にブラント博士が受賞の挨拶を行いました。
 引き続き、秋篠宮皇嗣同妃両殿下ご臨席の下、受賞者や関係者との記念茶会が行われました。
第40回国際生物学賞受賞者
贈呈品を手にするブラント博士
第40回国際生物学賞
授賞式後の記念茶会

第40回国際生物学賞受賞者あいさつ

アンゲリカ・ブラント博士

秋篠宮皇嗣同妃両殿下、ご来臨の皆様

 本日の授賞式に秋篠宮皇嗣同妃両殿下のご臨席を賜りましたことは、日本の皇室と研究コミュニティの海洋生物学に対する多大な献身を示すものです。殿下の御父上であられる上皇陛下、および昭和天皇に、心からの感謝をお伝えしたいと思います。一人の科学者として、同僚とすべての科学者を代表し、殿下のご支援とリーダーシップに感謝申し上げます。

 この度、系統・分類を中心とする生物学分野において、国際生物学賞という世界有数の賞をいただき、日本学術振興会の厳正な推薦・選考プロセスを経て選ばれた、世界的な研究者たちに名を連ねる栄誉を賜りましたことに身の引き締まる思いでおります。国際生物学賞委員、審査委員、ならびに日本学術振興会の皆様にも心より御礼申し上げます。

 系統学・分類学の分野で国際生物学賞を賜り、刺胞動物の御研究に励まれた昭和天皇陛下、魚類学の御研究を続けておられる上皇陛下に倣うことができましたことを大変うれしく思っております。

 この数週間、大勢の科学者の一人にすぎない私が、なぜこの賞をいただく栄誉に預かることができたのかと自問を繰り返してまいりました。私は多くのプロジェクトに参加し、優秀な学生や科学者たちと力を合わせることで、海洋動物学者として成長することができました。だからこそ、今回の栄誉を研究グループや国内外の仲間たちと共有したいと思います。私はANDEEPプロジェクト、KuramBio、AleutBio(ibasho)といった海洋調査を主導する一方で、他の研究者たちが立ち上げた海洋調査にも参加し、多くの学生や研究者たちと協力しながら研究を進めてまいりました。東京大学大気海洋研究所(AORI)にお招きいただき、学術研究船「白鳳丸」での調査活動に参加したこともあります。こうした仲間がいなければ、仲間の友情、協力、支援、そして夫の限りない支えと信頼、愛情がなければ、今日この場に立つことはできなかったでしょう。

 私は広範な国際協力活動や多くの海洋調査の経験をもとに、南極域の深海生物調査「ANDEEP(Antarctic Benthic Deep‐Sea Biodiversity: colonization history and recent community patterns)」プロジェクトを主導してきました。この調査を通じて多くの新種を発見し、南極深海域はこれまで考えられてきたよりも豊かな生物多様性を有していることを明らかにすることができました。その後も学術研究船ポーラーシュテルン号、ジェームズ・クラーク・ロス号、ゾンネ号、アカデミックM.A.ラヴレンチェフ号、白鳳丸などに乗り、世界中の科学者たちと海洋調査を続けました。私たちの研究では、さまざまな世代、さまざまな文化を持つ研究者とかかわってきました。大勢の学生たちに囲まれ、教えるだけでなく、多くを学ばせてもらったことも刺激的で重要な経験でした。これまでの研究生活を振り返り、特に幸福だったと感じるのは、研究活動を通じて多くの人々とつながり、力を合わせることができたことです。これは東京大学が開校した明治時代以降、研究活動が果たしてきた役割にほかなりません。

 種はあらゆる生物学研究の基礎です。しかし現在、何百万もの種の健康と安寧、進化、生物地理学、生物群集といったものが、気候変動やその他の人間が引き起こした脅威にさらされています。だからこそ、種に名前を付け、研究し、その保全に取り組むこと、系統学・分類学の研究を続け、若い学生たちを育て、教育していくことが重要なのです。系統学・分類学における私たちの仕事が評価され、この学問領域に対する国際的な支援を賜りましたことは大変な名誉であり、心から感謝申し上げます。

 ドイツのゼンケンベルク自然博物館を拠点に活躍された魚類学者、故ヴォルフガング・クラウゼヴィッツ教授がご存命であれば、今日の授賞式に喜んで参列してくださったに違いありません。教授は上皇陛下のハゼ類に関する研究にも関わっておられたからです。

 国際生物学賞は、私たちが深海をはじめ、世界のあらゆる場所に生息している種とその分布、生態、進化をさらに探求し、地球を生命が存在できる、美しい場所に保つことができるよう鼓舞し、支援し続けてくれています。1969年、人々は宇宙飛行士が宇宙から捉えた地球の姿を目にし、その美しさに言葉を失いました。この惑星は「陸地(Earth)」ではなく、「海(Ocean)」と呼ぶべきだ―そう最初に指摘したのは、作家のアーサー・C・クラークです。私たちは誤って「陸地」と名付けられた星に住んでいるという発見は、長い時を経て、今ようやく人々の意識に浸透し始めたところです。この「海」と呼ぶべき惑星の深海とそこに生息する種について、私たちが火星の表面とその大気よりも知らないということがあり得るでしょうか。

海洋に生息する種についての新たな発見や種の保全が、海洋生物の持続可能な未来を形作り、ひいては私たちすべての未来を切り拓く一助となることを願っています。

 ありがとうございました。Hontoni arigato gozaimasu.

第40回国際生物学賞審査経過報告

国際生物学賞審査委員会委員長 寺島 一郎

  第40回国際生物学賞審査委員会より、今回の審査の経緯について御報告申し上げます。

  審査委員会は、海外の研究者4名を含む20名の委員で構成しました。
  審査委員会は、まず、今回の授賞対象分野である「系統・分類を中心とする生物学」にふさわしい受賞候補者を推薦いただくため、国内外の大学、研究機関、学協会および国際学術団体等に、1,637通の推薦依頼状を送りました。その結果、67通の推薦状が届きました。このうち重複を除いた被推薦者の数は20の国・地域の54名でした。
 審査委員会は、合計5回の会議を開催し、慎重に候補者の選考を行い、第40回国際生物学賞受賞者として、アンゲリカ・ブラント教授を国際生物学賞委員会へ推薦いたしました。

 ブラント教授は、ドイツのオルデンブルク大学で博士号を取得後、キール大学で研究を続けられ、現在はフランクフルトのゼンケンベルク研究所・自然史博物館、およびフランクフルト大学の教授として研究・教育にあたられています。
 ブラント教授は、系統学、分類学、生態学などの研究対象そのものを拡げる大規模な海洋調査を数多く立案・実施されました。特に、13か国50名以上の研究者が参画する南極域の深海生物調査を主導されたことは最も重要な業績です。こうして得られた材料を対象に、系統学、分類学等の観点から研究され、新たな分類群を発見、命名し、等脚目の新分類体系を提唱されました。データのデジタル化も推進されました。

 ブラント教授のこれらの業績が、系統学、分類学を中心とする生物学全般の発展に与えた影響は極めて多大であり、本賞の審査基準である、授賞対象分野への適合性、研究の独創性、当該分野における影響力、および生物学全般への貢献度のいずれをも十分に満たすものです。

  国際生物学賞委員会は、審査委員会の推薦に基づいて審議を行い、アンゲリカ・ブラント教授に対し、第40回国際生物学賞を授与することを決定いたしました。

  以上をもちまして、私の審査経過報告と致します。
 

第40回国際生物学賞記念シンポジウム

 ブラント博士の受賞を記念して、京都大学と日本学術振興会の共催により、第40回国際生物学賞記念シンポジウム「系統学と分類学 - 植物・動物・菌類・藻類・微生物を含む多様な生物の世界 Phylogeny and Taxonomy - World of the diversified organisms including plants, animals, fungi, algae and microbes」が令和6(2024)年12月21日(土)京都大学 芝蘭会館にて開催されました。
 受賞者のブラント博士による特別講演をはじめ、国内外の研究者が、系統・分類学を中心とする生物学に関する最新の研究成果について講演を行いました。
第40回国際生物学賞記念シンポジウム
講演するブラント博士
第40回国際生物学賞記念シンポジウム
会場の様子