日本学術振興会

第39回授賞式・受賞者あいさつ・審査経過報告

秋篠宮皇嗣同妃両殿下のご臨席を仰いで
第39回国際生物学賞授賞式が挙行されました。

(令和5年12月14日)
写真:第39回国際生物学賞 受賞者のリチャード・ダービン博士への受賞の様子
ダービン博士への授賞
 12月14日、第39回国際生物学賞授賞式が明治記念館において挙行されました。授賞式は、秋篠宮皇嗣同妃両殿下のご臨席を仰ぎ、内閣総理大臣代理として森屋宏内閣官房副長官、盛山正仁文部科学大臣をはじめ、各界から多数の来賓の参列を得て、盛会のうちに執り行われました。            

 式典では、藤吉好則国際生物学賞委員会委員長から、第39回受賞者のリチャード・ダービン博士に賞状と賞金1,000万円及び賞牌が授与され、また、秋篠宮皇嗣殿下からの贈呈品「秋篠宮家御紋付銀花瓶」が伝達されました。 

 秋篠宮皇嗣殿下からのおことばに続いて、内閣総理大臣祝辞(代読 森屋宏内閣官房副長官)、並びに文部科学大臣祝辞が述べられ、最後にダービン博士が受賞の挨拶を行いました。 
 引き続き、秋篠宮皇嗣同妃両殿下ご臨席の下、受賞者や関係者との記念茶会が行われました。
写真:贈呈品を手にする第39回国際生物学賞受賞者
贈呈品を手にする受賞者  
写真:第39回国際生物学賞授賞式後 記念茶会
授賞式後の記念茶会

第39回国際生物学賞受賞者あいさつ

リチャード・ダービン博士

両殿下、大臣閣下、お集りの皆様

 本日、第39回国際生物学賞受賞の栄誉を賜り、身の引き締まる思いです。私は皆様とともに、日本国皇室の科学への思いを称えますとともに、基礎科学研究の発展に対する長年のご尽力に敬意を表します。また、国際生物学賞委員会の皆様のご尽力とご配慮に、そして日本学術振興会に深く感謝申し上げます。

 私はこの受賞に2つの意味で感謝しております。まず、ゲノム生物学という私の専門分野を代表して、この分野を本年度の授賞分野に選んでくださった委員会の皆様に心から感謝申し上げます。 

 私たちは今、ゲノム解析の時代という、生物学における驚くべき変化の時期にあります。遺伝子配列に含まれるDNAの「文字」のリストをコンピューターに読み込ませることが可能になったことは、生物学におけるテクノロジーの変革です。これは、元より「デジタル」である遺伝情報と、この「情報」を処理する現代のコンピューターの高まり続ける能力との間の相互作用であり、それがゲノミクス分野を創造しているのです。

 ゲノミクス時代の画期的な出来事とは、ヒトゲノムの配列の決定でした。しかしながら、それはほんの始まりに過ぎませんでした。私たちはさらに、個体間の配列の遺伝的差異の研究を続けました。これにより、遺伝子がどのように機能し、進化するか、多くのことが明らかになりました。今日では、20年以上前に初めてヒトゲノムの配列を決定したときよりも、100万倍も安価にゲノム配列を決定することができるようになりました。そして、この進歩を活用し、「地球バイオゲノムプロジェクト」では、地球上のすべての生物種の参照ゲノム配列を明らかにし、ゲノム生物学の研究対象をすべての生物種に拡大することを目指しています。

 このような進歩により、遺伝医学や生物医学研究、作物育種に変化がもたらされたため、ゲノミクスを応用技術として捉える見方もあります。しかしながら、遺伝情報は生命にとって基本的なものであり、私自身は常に、ゲノムがどのように生命体を構築し、またどのように進化してきたかについての理解を深めたいという思いに駆りたてられ、これまで研究を進めてまいりました。基礎生物学研究の発展に寄与する、この名誉ある賞を受賞したことにより、基礎科学としてのゲノム生物学の評価が高まることを願っています。

 第2に、多くのゲノム生物学者の中から私が受賞者として選ばれたことを光栄に思います。私のこれまでの研究キャリアがゲノミクス時代全体に及んでいること、この分野における進歩で極めて中心的な役割を果たしてきた数学と情報科学の修練から歩み始めたこと、そして最適な場所と人々に恵まれ、この分野の幾つかの重要な発展局面に携わることが出来たことは、私にとって幸運でした。

 何よりも、私は、共に活動し、学んだ全ての人々に感謝しなければなりません。私は生涯を通じて学び続けてきました。科学者としての私にとって最大の喜び、それは、同僚たちの発見や洞察について学ぶこと、また、地球規模での皆の取り組みに貢献することにあります。私は、私自身の業績が同じように他の人々の役に立ち、恩返しできていることを願っています。

 私はMRC分子生物学研究所で博士課程に入った頃、ジョン・サルストン氏に出会いました。彼は線虫C. elegansのマッピングを行っており、私は彼の助手を務めていました。そして、1990年のサンガーセンター(現在のウェルカム・サンガー研究所)設立時にお招きいただきました。ジョンは数年前に癌のため早すぎる死を迎えましたが、私はここで恩師として彼を偲びたいと思います。

 私は、ジョンやほかの国際的なゲノム研究の仲間たちともに、ゲノム生物学において真に協力的な取り組みができるよう、すべてのデータを公開し、すべての科学者が恩恵を受けられるようなソフトウェアやデータベースを開発してきました。最近になって私はケンブリッジ大学に籍を移し、ゲノム生物学と進化生物学をより直接的に連携させるべく、研究を進めております。このような歩みを通じて、私は多くの研究者や学生たちと協同し、多くの友人を作ってまいりました。この賞は私に授与されたものですが、彼ら全員と分かち合うべきものと思っております。

 誠にありがとうございました。Domo arigato gozaimasu.
 

第39回国際生物学賞審査経過報告

国際生物学賞審査委員会委員長 武田 洋幸

 第39回国際生物学賞審査委員会を代表いたしまして、今回の審査の経緯について御報告申し上げます。
 審査委員会は、私及び海外の研究者4名を含む20名の委員で構成いたしました。
 審査委員会は、今回の授賞対象分野である「ゲノム生物学」にふさわしい受賞者を推薦いただくため、国内外の大学、研究機関、学協会および国際学術団体等に、1,659通の推薦依頼状を送りました。その結果、50通の推薦状が届きました。このうち重複を除いた被推薦者の数は23の国・地域の47名でございました。
 審査委員会は、オンラインを活用しながら合計4回の会議を開催して、慎重に候補者の選考を行い、第39回国際生物学賞受賞者として、リチャード・ダービン教授を国際生物学賞委員会へ推薦いたしました。
 ダービン教授は、ケンブリッジ大学MRC分子生物学研究所で博士号を取得後、同大学のキングス・カレッジやスタンフォード大学などで研究を続けられ、現在はケンブリッジ大学遺伝学部門アル・キンディー教授として研究・教育にあたられております。
 ダービン教授は、ゲノム生物学分野における重要な節目となったゲノム解析プロジェクトにおいて、その中核となるデータ解析を主導され、ゲノム生物学の発展に大きく寄与されました。また、ゲノム配列から生物学的情報を読み解くために不可欠な情報解析手法など、生物学のデータサイエンス化を支える基盤的、革新的な技術を次々に開発されました。加えて、多様な生物の網羅的なゲノム配列解析を目指す国際プロジェクトにおいても、強力なリーダーシップを発揮されております。
 ダービン教授のこれら数々の業績がゲノム生物学の発展に与えた影響は極めて多大であり、本賞の審査基準である、授賞対象分野への適合性、研究の独創性、当該分野における影響力、および生物学全般への貢献度のいずれをも十分に満たすものであります。
 国際生物学賞委員会は、審査委員会の推薦に基づいて審議を行い、リチャード・ダービン教授に対し、第39回国際生物学賞を授与することを決定いたしました。
 以上をもちまして、私の審査経過報告と致します。
 

第39回国際生物学賞記念シンポジウム

 ダービン博士の受賞を記念して、総合研究大学院大学と日本学術振興会の共催により、第39回国際生物学賞記念シンポジウム「ゲノム生物学-バイオインフォマティクスとゲノム研究から見えてきた生き物の不思議-」が12月16日(土)、17日(日)の2日間、TKPガーデンシティPREMIUM横浜ランドマークタワーにて開催されました。
 受賞者のダービン博士による特別講演をはじめ、国内外の研究者が、ゲノム生物学に関する最新の研究成果について講演を行いました。
 
講演するダービン博士
シンポジウム会場