私は研究対象となる主体の主観的視座を採る歴史的アプローチを研究において用いている。本会議では同様の手法を用いた研究者はいなかったものの、他のアプローチを知り、それぞれの課題を認識し、相対化することで、自らのアプローチの有効性と限界を知ることができた。大きな学問体系である経済学のなかで、どのような手法が流行り、課題を抱えているのかを知ることで、自らの研究の有用性の伝え方や他分野との分業の捉え方を考察できたのは有意義であった。
既知の参加者はほとんどいない状態で会議に臨んだが、実際に交流してみると共通の知人を持つ人が多く、経済学 PhD の世界の狭さを改めて実感した。また、自分の研究プロジェクトの一つと非常に近いテーマを Next Gen Session で発表している参加者がいたため声をかけ、私自身の研究内容を紹介したところ、分析手法に関する助言や私の知らなかった関連文献を教えてもらうことができた。さらに、開発経済を専攻する参加者は少なかったものの、コーヒーブレイクなどで親しくなった人との会話の中で、私がアクセス可能なデータに興味を持つ人もおり、将来的に共同研究に取り組む可能性について声をかけてもらえた。
5 日間にわたるプログラムでは諸外国の参加者と交流する機会が豊富にあり、みなとても研究熱心で互いを尊重する姿が印象的だった。関連して、今まさに経済学が様々な方向へと発展していることも実感した。また、キャリアの面では、自分の出身国とは異なる国で研究する人が多く、みなそれぞれ自分のキャリアパスを描き、果敢にチャレンジしている姿を見て自分も勇気をもらった。このリンダウ会議で出会えた縁を大切にし、狭い意味での研究にとらわれることなく、様々な形で互いに切磋琢磨し合える関係を続けていきたいと思った。