日本学術振興会

未来社会が直面するであろう諸問題に係る有意義な応答を社会に提示することを目指す研究テーマを掲げ、人文学・社会科学から自然科学などの多様な分野の研究者や社会の多様なステークホルダー(産業界、NGO、マスコミ、行政、公益法人等)が参加して、人文学・社会科学に固有の本質的・根源的な問いを追究する研究を推進することで、その解決に資する研究成果の創出を目指すプログラムです。

課題設定

学術知共創プログラムでは以下の三つの「大きなテーマ」(課題)を設定しており、その中から一つ選択して「研究テーマ」を遂行しています。
 

課題A:将来の人口動態を見据えた社会・人間の在り方

令和元年版高齢社会白書で紹介されている、国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口」において、我が国の人口は2065年には9千万人を割り、高齢化率は38.4%に達するとされ、経済や社会の諸基盤の安定性に大きな影響が生じることになる。また、国連経済社会局の報告書「世界人口予測(World Population Prospects)2019 年度版」によれば、一部の国と地域における急激な人口増加で、現在約77億人の世界人口が2050年には97億人に達するとされる。この間、天然資源と生態系への更なる圧力の強まりや、世界人口の高齢化なども進行するとされ、これらの事象が、SDGsの目標達成、さらにはそれ以降の持続可能な開発にも大きな影響を与えることが考えられる。
このような我が国及び世界の人口動態を見据えながら、いかにして人間中心で多様性のある持続可能な社会を実現していくか。そうした課題に応えようとする探究を期待する。

課題B:分断社会の超克

社会課題解決のためには、多様なステークホルダーの協働による包摂的なアプローチが求められているが、現実には、民意の分断、世代間の分断、階層の分断、宗教や民族による分断など、様々な分断がその協働を阻害している状況がある。
近代的な社会においては、多様な選好から一つの社会的決定を導き出すための民主主義的な方法があり、同時に基本的人権などの概念によって少数者を守ることも尊重されてきた。しかし、現在では、一部の国にみられるように、多数派が少数派の権利を脅かすようなことが起こるなど、社会における様々な対立が先鋭化している。また、経済的な格差による階層の分断、パンデミックに対する政策の対立、大国の行動や国際問題をめぐる国内対立などの課題も指摘されている。
こうした分断は今後ますます様々な形で顕在化していくものと考えられるが、いかにして分断の構造を捉え直し、乗り越えていくための道筋を示すことができるか。こうした課題に応えようとする探究を期待する。

課題C:新たな人類社会を形成する価値の創造

ポスト冷戦も終わり、世界秩序を新たに模索する動きが続いているが、30年~50年後の世界は、人口動態の変化や気候変動、科学技術の更なる進展等により、日々の生活だけでなく、国家像そのものの変容がもたらされ、地球規模での人類社会の価値の見直しと創造が一層進むものと思われる。
特に19世紀以降急速な発展を遂げてきた科学技術の加速度的な進展によりもたらされる様々な社会環境の変化に対し、いかにして人類が向き合っていくか。また、緊迫した地球環境問題として、例えば地質年代区分である完新世に続く新たな区分として提唱されている人新世(Anthropocene)という考え方にあるように、人類の活動と地球環境の関係の均衡をいかに保っていくか。これらは、人類社会の価値の見直しと創造を考えるうえで避けられない課題である。
地球的規模の課題への取り組みにおいて、日本の近代化などの経験を省察しながら、学術知は新たな人類社会を形成する価値の創造にいかに貢献し、どのような役割を担うことができるか。そうした問いかけに応えようとする探究を期待する。
(令和6(2024)年度公募要領より)