日本学術振興会

シンポジウム・セミナー

令和7年度研究公正シンポジウム

令和7年度研究公正シンポジウムバナー
令和7年11月21日(金)、令和7年度研究公正シンポジウム「オープンサイエンス時代における責任ある研究活動について」を開催しました。
主催:日本学術振興会(JSPS)
共催:科学技術振興機構(JST)、日本医療研究開発機構(AMED)、新エネルギー・産業技術総合研究所(NEDO)、農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター(BRAIN)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)

近年、オープンサイエンスの推進がより一層加速しており、その進展は研究不正の防止、研究公正の面からも期待されています。研究者はどのような内容をどのようにオープンにし、責任ある研究活動を行っていくことが求められているのでしょうか。
本シンポジウムでは、有識者による講演及びパネルディスカッションにより、オープンサイエンス時代における責任ある研究活動の在り方について考えました。

シンポジウム当日は、大学や研究機関、企業に所属する研究者や事務担当者の方など、1100名を超える多数の方にご参加いただきありがとうございました。
以下に、講演資料、講演概要を掲載しましたので、是非ご覧ください。

来賓挨拶・講演「公正な研究活動の推進に向けて~研究倫理教育・研究不正の状況等~」

須藤室長

須藤 正幸 文部科学省 科学技術・学術政策局 参事官(研究環境担当) 研究公正推進室長

須藤室長からは、「研究活動における不正行為への対応に関するガイドライン」(平成26年8月文部科学大臣決定)を中心に研究公正の枠組みと、文部科学省および関係機関の取り組みについて講演いただきました。
同ガイドラインでは、不正行為の事前防止のための取組として定期的な研究倫理教育の実施、研究データ等の保存・開示の義務付け、また組織の管理責任の明確化として、研究機関における規程・体制の整備・公表等が定められています。不正に対する対応は、研究者自らの規律や研究機関、科学コミュニティの自律的な自浄作用に基づいて行われるべきであり、これは学問の自由にも通じる重要な原則であると述べられました。
また、文部科学省による各研究機関における研究倫理教育の調査結果として、研究者に加え、博士課程・修士課程・学部学生まで幅広く研究倫理教育が実施されていることが示されました。さらに、JSPS、JST、AMEDにおける研究公正に関する取り組みとして、JSPSにおけるeラーニングeL CoREやグリーンブック、JSTにおける映像教材、AMEDにおける医療分野に特化したヒヤリハット集、適正な画像処理の方法を紹介した教材の提供などが紹介されました。

講演1「オープンサイエンス、生成AI、データサイエンスで研究公正はどう変わるか」

林先生1

林 和弘 文部科学省 科学技術学術政策研究所 上席フェロー
データ解析政策研究所室長

林先生からは、「オープンサイエンス、生成AI、データサイエンスの進展によって研究公正がどのように変化するのか」をテーマに講演いただきました。
オープンサイエンスの本質を歴史から紐解くと、研究メディアの革新による知の開放であるといえます。これはグーテンベルクによる大量印刷の発明が情報爆発を起こし、宗教・科学・教育を変えたのと同様に、現在はまさに、インターネットとデジタル技術が科学と社会の関係を再構成する過程にあると説明されました。
現在は、学術情報がデジタル化・ネットワーク化され、双方向に流通することで、研究活動そのものが可視化されつつある過渡期にあります。一方で、著作権や知的財産を含む法制度は依然として印刷時代の枠組みに依拠しており、デジタルネイティブな制度設計が今後の課題であると指摘されました。
この変化は、学術ジャーナルや学会といった既存の学術コミュニケーションの仕組みにも及んでいます。17世紀に誕生した学会や学術ジャーナルが、当時の情報流通の制約を解決するための制度であったように、現在もプレプリント、研究データ共有、学術ソーシャルメディアなど、新たな仕組みが登場しています。これらは従来の研究スタイルを否定するものではなく、既存の研究活動の上に新たな価値を付加するものとして位置付けられました。具体例として、COVID-19下において、オープンデータとプレプリント、SNSを活用した研究が、分野横断的な国際協力につながった事例を紹介され、オープンサイエンスがもたらす新しい研究スピードと社会的インパクトが示されました。
このような環境では、研究活動のあらゆる段階がデジタルログとして取得可能となり、論文発表後ではなく、着想やデータ作成の段階から研究を把握・評価することが可能になります。その結果、研究評価は論文数や被引用数といった単一指標から、多次元的・多面的な評価へと移行しつつあります。研究者は「著者」から「貢献者(コントリビューター)」へと位置付けが変わり、データ作成や研究プロセスそのものが評価される方向に進んでいます。
一方で、生成AIにより、フェイク論文の大量生成や査読システムへの負荷など、従来の学術システムが揺らいでいる現状も指摘されました。
今後は、短期的には研究プロセスの透明化、AI利用の明示、研究倫理教育のアップデートが重要となると同時に、中長期的にはAIと共生する研究活動を前提に、研究者の定義や評価、科学と社会の信頼関係そのものを再構築する必要があります。
研究公正は研究者を罰するためのものではなく、研究者を守り、科学の健全な発展を支えるための基盤です。オープンサイエンス時代において、「平時は研究者を正当に評価し、非常時には適切に対応できる仕組み」として再設計されるべきである、という点が示され、研究者に対して、「Behave yourself(これまでどおり)お行儀よく研究活動を」というメッセージが伝えられました。

講演2「オープンサイエンスと研究データ管理-広がる研究公正の範囲-」

船守先生

船守 美穂 国立情報学研究所 情報社会相関研究系 准教授
      鹿児島大学 附属図書館 オープンサイエンス研究開発部門
      部門長

船守先生からは、研究データ管理がどのように位置付けられ、どのように発展してきたのかを、大学の具体的な取組事例を交えながら講演いただきました。
研究公正はこれまで研究不正防止と結び付けられ、否定的なイメージで語られがちでしたが、近年は「責任ある研究活動」や「オープンサイエンス」の文脈の中で、すべての研究者に関わる前向きな概念として捉え直されるようになっています。その背景として、世界大学ランキングやトップ10%論文数など、定量的指標に偏った研究評価が研究不正の温床になってきたという国際的な反省があります。
サンフランシスコ研究評価宣言(DORA)やライデン声明では、指標は参考情報にすぎず、それ自体を目的化すべきではないとされました。さらに2019年の香港原則では、「責任ある研究評価」という考え方が示され、研究の質、透明性、再現性、チームへの貢献などを含めた評価が重視されるようになっています。
オープンサイエンスの分野でも、当初は論文のオープンアクセスや研究データ公開に対するインセンティブ付与が中心でしたが、次第に研究をチームで進める「チームサイエンス」へと議論が発展しました。例えば、データ収集、解析、管理、社会実装など、多様な役割を担う研究者全員が評価される必要があり、ファーストオーサー中心の評価体系では不十分であることが明らかになってきました。オランダでは「Room for Everyone’s Talent」という全国的な研究評価改革が進められ、教育、社会貢献、チームへの貢献なども含めた質的評価が導入されています。
オープンサイエンス政策と研究評価改革を一体的に進めるため、2022年に設立された研究評価促進連合(CoARA)という国際的枠組みが設立されました。現在では800機関以上が参加し、各機関が5年程度の行程表を共有しながら、研究評価改革の実践を進めています。
日本の研究現場では、研究データ管理やDMPに関する要請に、目的が不明確なまま対応している場面もあります。研究データには個人情報、機密情報、外為法やライセンス上の制約があり、すべてを公開することは現実的ではありません。そのため国際的には「As open as possible, as closed as necessary」という考え方や、FAIR原則(見つけられる、アクセス可能、相互運用可能、再利用可能)が採用されています。重要なのは、必ずしもデータを公開することではなく、どこにあり、誰に問い合わせれば利用できるかが分かる状態、すなわちメタデータの整備です。
講演では特に、研究データ管理は研究者個人の責任ではなく、機関の責務である点が強調されました。海外の大学、例えばオックスフォード大学やハーバード大学では、大学が研究データのオーナーシップを持ち、PIや研究者は管理責任者として役割を果たすという整理が明確になっています。これは、不正や事故が起きた際に、大学が説明責任を果たすために不可欠です。
また、鹿児島大学では、有体物の研究成果(試料、マウス、試薬など)を管理・共有する「研究成果有体物管理システム」を構築し、契約、外為法、ライセンス処理を組み込んだ形で、他大学との研究資源共有を実現しています。これにより、研究成果の利活用が促進されると同時に、研究コンプライアンスの確保にも繋がります。
さらに、オーストラリアでは、DMPを単なる提出書類ではなく、大学が将来必要となるストレージや計算資源を見積もるための経営ツールとして活用しています。研究費では賄えない規模の計算資源が必要な場合、研究申請段階でDMPを集約することで、大学として事前に準備を行う取り組みが進んでいます。
講演全体を通じて、研究公正を「不正防止」から「責任ある研究データ管理と利活用」へと転換し、大学が主体的にガバナンス、インフラ、評価制度を整備することの重要性を示されました。

講演3「オープンサイエンスが拓く研究の公正と未来-透明性・再現性・信頼性の新時代-」

札野先生からは、オープンサイエンスが研究公正をどのような仕組みで支え、促進しているのかについて、具体例を交えながら講演いただきました。
まずオープンサイエンスの定義として、2021年にユネスコが示した「Recommendation on Open Science」が紹介されました。この定義は、単なる論文のオープンアクセスにとどまらず、研究計画の事前登録、レジスタードリポート、オープン査読など、研究のプロセス全体を透明化する取り組みが含まれる点が示されました。
次に、研究公正がもつ、研究不正防止と結び付いたネガティブなイメージについて触れられました。これまでは過去の研究不正事件を契機に、「不正を起こさないための倫理」、すなわち予防倫理が中心となってきました。しかし近年では、「どのようにすれば良い研究ができるのか」「良い研究者とは何か」を考える志向倫理の重要性が認識されるようになっています。研究公正の目的は、不正を取り締まることではなく、質の高い、信頼される研究を実現することにある、という点が強調されました。
オープンサイエンスが研究公正に寄与する一つ目のメカニズムとして、「抑止と検証」が挙げられました。具体例として、オランダの研究不正事件が紹介されました。この事件では、研究データを本人しか閲覧できない状況が不正を長期間見逃す原因となっていました。これを受けて、データ共有や管理のルール整備が進み、国際的なデータ管理にもつながり、不正の抑止と第三者による検証を可能にする仕組みとして機能すると述べられました。
二つ目のメカニズムは、「再現性の向上と研究の質の改善」です。心理学や医学分野で問題となった再現性危機を背景に、事前登録やレジスタードリポートの有効性が示されました。例えば、米国心肺血液研究所の臨床研究では、研究計画の事前登録が義務化された2000年以降、肯定的な結果の割合が大幅に減少しました。これは、データを見てから仮説を作る行為や、都合の良い結果だけを公表するバイアスが抑制されたことを示しています。同様に、心理学分野でも、レジスタードリポート導入後は、仮説どおりの結果を示す論文の割合が大きく低下し、否定的結果も公表されるようになりました。
三つ目のメカニズムは、「社会的信頼性の向上」です。研究成果やデータが市民からもアクセス可能になることで、一般市民が科学に参加するシビリアンサイエンスが促進されます。研究プロセスが透明になることで、科学と社会の距離が縮まり、科学リテラシーの向上にも寄与することが示されました。
総じて、オープンサイエンスは、不正の抑止、再現性の向上、社会的信頼(透明性)という三位一体の仕組みを通じて、研究公正を推進する重要な基盤であることが示されました。

パネルディスカッション 「オープンサイエンス時代における責任ある研究活動の在り方と今後の展望について」

JSPS水本哲弥上席参与をモデレーターとしてパネルディスカッションを行いました。パネリストは講演をいただいた3名の先生方に務めていただき、講演内容やこれまでのご経験を踏まえたディスカッションが行われたほか、オンライン参加者からも質問を募り、活発なディスカッションが行われました。

開催概要

日時:令和7年11月21日(金) 13:00~16:30
開催方法:オンライン(Zoomウェビナー)
主催:独立行政法人日本学術振興会(JSPS)
定員:1000名
参加費:無料
対象者:
・研究室を主宰する研究者の方
・研究現場における公正な研究活動に関心のある研究者の方
・研究機関の研究倫理教育を担当している方
・研究公正活動に関心のある方
参加申込み:
令和7年度研究公正シンポジウムの申込みは締め切りました。   
※申込み締切:11月17日(月)