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国際生物学賞

国際生物学賞 歴代受賞者

第32回国際生物学賞 受賞者について


スティーブン・フィリップ・ハッベル博士
(Dr. Stephen Philip Hubbell)

生年月日 1942年2月17日(74歳)
国籍 米国
現職 カリフォルニア大学ロサンゼルス校 卓越教授
   
略歴 1969年 カリフォルニア大学バークレー校修了(Ph. D.)
1969年-1974年 ミシガン大学 助教
1974年-1975年 ミシガン大学 准教授
1975年-1980年 アイオワ大学 准教授
1980年-1988年 アイオワ大学 教授
1982年-1988年 スミソニアン熱帯研究所 スタッフ研究員
1988年-1999年 プリンストン大学 教授
1999年-2002年 ジョージア大学 教授
2000年-現在 スミソニアン熱帯研究所 上席スタッフ研究員
2003年-2007年 ジョージア大学 卓越研究教授
2007年-現在 カリフォルニア大学ロサンゼルス校 卓越教授
栄誉歴 2003年 米国芸術科学アカデミー会員
2004年 英国生態学会マーシュ金賞
2006年 ラマー・ドッド創造的研究賞
2006年 米国生態学会W. S. クーパー賞
2008年 ケンペ地球生態学賞
2009年 米国生態学会傑出生態学者賞
2013年 英国生態学会生涯成果賞
2014年 国際林業研究機関連合科学業績賞
受賞理由

   スティーブン・フィリップ・ハッベル博士は,「生物多様性と生物地理学における統合中立説」を提唱し,樹木の多様性が高いことで知られる熱帯林に大規模な森林調査区を設けてその群集構造を明らかにするというユニークな手法により,その仮説の検証を行うことで、生物多様性研究に大きな功績をあげた。
    樹木など同じ資源を利用する生物どうしが同じ群集で共存するメカニズムは,従来,群集を構成する種の生態的地位(ニッチェ)の違いによって説明されてきた。つまり,群集を構成する種には種特性の違いがあり,群集内にその特性が有利に働く環境と不利に働く環境があることによって,共存が可能となると考えられてきた。しかし,ハッベル博士の中立説は,群集の生物多様性が,種の生態的地位の違いや種の特性を無視しても,その場所で進化したり移入したりする種と絶滅あるいは移出する種のバランスという確率的なプロセスを考えることで十分説明できるとするものである。
    実際に,マッカーサー博士とウィルソン博士の島嶼生物地理学では,種の特性を考えなくても,島の大きさや大陸からの距離といった要因からその島の生物多様性が説明できる。また,ハッベル博士らはパナマのバロ・コロラド島に50ヘクタールという従来の森林調査の常識を超える大規模な調査区を設け,その樹木群集構造について詳細に解析した。この研究で得られた樹種数-個体数分布は,種特性を無視し,ランダムなプロセスを仮定したシミュレーション結果と一致した。これらの結果は中立説によって多様性が説明できる可能性を示すものとして,大きな注目をあびた。これらの研究が発表されると,世界中に大きな論争が巻き起こり,さまざまな検証が行われた。現在までに,中立説だけでは説明できない例も知られているが,生物多様性の維持メカニズムにおいて確率的なプロセスや,さまざまな空間スケールでの生物の移動の重要性を提唱したという点で,その先駆性が高く評価されている。
    ハッベル博士らの研究が発表された後,世界各地の熱帯林にバロ・コロラド島と同様の大規模調査区が作られ,熱帯林の樹木多様性に関する検証研究が行われた。現在,こうした調査区は温帯林にも拡大され,スミソニアン熱帯研究所を中心とする国際的ネットワークとなっている。また,こうした研究が進むことにより,生物多様性を考慮した生態系の管理や希少種の保全など,応用面でも大きな示唆が得られている。
    以上のように,ハッベル博士の研究は,生物群集における多様性の成立・維持メカニズムに関して大きな理論的貢献をすると同時に,実際のフィールド研究においても新たな局面を切り開くなど,生物多様性科学の発展において高く評価されるものである。

代表的な論文および著書

  1. Hubbell, S. P. 1979. Tree dispersion, abundance and diversity in a tropical dry forest. Science 203: 1299-1309.
  2. Hansen, S. R. and S. P. Hubbell. 1980. Single-nutrient microbial competition: qualitative agreement between experimental and theoretically forecast outcomes. Science 207: 1491-1493.
  3. Hubbell, S. P. and R. B. Foster. 1983. Diversity of canopy trees in a Neotropical forest and implications for the conservation of tropical trees. pp. 25-41. in Sutton, S. J., Whitmore, T. C. and Chadwick, A. C. eds. Tropical Rain Forest: Ecology and Management. Blackwell, Oxford, U.K.
  4. Hubbell, S. P. and R. B. Foster. 1986. Biology, chance and history and the structure of tropical rain forest tree communities. Chapter 19, pp. 314-329. in Diamond, J. and Case, T. J. eds. Community Ecology. Harper and Row, NY.
  5. Hubbell, S. P. and R. B. Foster. 1986. Canopy gaps and the dynamics of a Neotropical forest.  Chapter 3, pp. 77-95. in Crawley, M. ed. Plant Ecology. Blackwell, Oxford, U.K.
  6. Hubbell, S. P. and R. B. Foster. l986. Commonness and rarity in a Neotropical forest:  implications for tropical tree conservation. Chapter 10, pp. 205-231. in Soulé, M. ed. Conservation Biology: Science of Scarcity and Diversity. Sinauer Associates, Sunderland, MA.
  7. Hubbell, S. P., R. B. Foster, S. O'Brien, B. Wechsler, R. Condit, K. Harms, S. J. Wright, and S. Loo de Lau. 1999. Light gaps, recruitment limitation and tree diversity in a Neotropical forest.  Science 283: 554-557.
  8. Hubbell, S. P. 2001. The unified neutral theory of biodiversity and biogeography. Princeton University Press.
  9. Hubbell, S. P., J. A. Ahumada, R. Condit, and R. B. Foster. 2001. Local neighborhood effects on long-term survival of individual trees in a Neotropical forest. Ecological Research 16: S45-S61.
  10. Condit, R., N. Pitman, E. G. Leigh, Jr., J. Chave, J. Terborgh, R. B. Foster, P. Nuñez V., S. Aguilar, R. Valencia, G. Villa, H. C. Muller-Landau, E. Losos, and S. P. Hubbell. 2002. Beta diversity in tropical forest trees. Science 295: 666-669.
  11. Volkov, I., J. R. Banavar, S. P. Hubbell, and A. Maritan. 2003. Neutral theory and the relative abundance of species in ecology. Nature 424: 1035-1037.
  12. Satake, A., Y. Iwasa, H. Hakoyama, and S. P. Hubbell. 2004. Estimating local interaction from spatiotemporal forest data, and Monte Carlo bias correction. Journal of Theoretical Biology 226: 225-235.
  13. Hubbell, S. P. 2005. Neutral theory in ecology and the hypothesis of functional equivalence.  Functional Ecology 19: 166-177.