国際生物学賞
International Prize for Biology第42回国際生物学賞 受賞者について
シャロン・ルーゲル・ロング (Dr. Sharon Rugel Long)
生年 1951年
国籍 米国
現職 スタンフォード大学生物学部 スティア=ファイザー生物学教授
生年 1951年
国籍 米国
現職 スタンフォード大学生物学部 スティア=ファイザー生物学教授
1973年 カリフォルニア工科大学 卒業(優等学位)
1979年 イェール大学大学院 修了 細胞・発生生物学 博士号取得
1979~1981年 ハーバード大学 博士研究員
1982~1992年 スタンフォード大学 生物学部 助教授・准教授
1992年~現在 スタンフォード大学 生物学部 教授
1994~2001年 ハワード・ヒューズ医学研究所 研究員
2000年~現在 スタンフォード大学 Wm. C. スティア Jr. ファイザー社 生物科学寄附教授
2001~2007年 スタンフォード大学 人文・理学部 学部長
2018年~現在 Exopolymer Inc. 共同創業 兼 科学諮問委員会議長
1979年 イェール大学大学院 修了 細胞・発生生物学 博士号取得
1979~1981年 ハーバード大学 博士研究員
1982~1992年 スタンフォード大学 生物学部 助教授・准教授
1992年~現在 スタンフォード大学 生物学部 教授
1994~2001年 ハワード・ヒューズ医学研究所 研究員
2000年~現在 スタンフォード大学 Wm. C. スティア Jr. ファイザー社 生物科学寄附教授
2001~2007年 スタンフォード大学 人文・理学部 学部長
2018年~現在 Exopolymer Inc. 共同創業 兼 科学諮問委員会議長
1984年 米国国立科学財団Presidential Young Investigator Award
1988年、1992年 スタンフォード大学 Dean's Award for Teaching Excellence
1992~1997年 マッカーサー財団 MacArthur Fellowship
1993年~現在 米国科学アカデミー 会員
1994年 米国芸術科学アカデミー フェロー
1997~2000年 スタンフォード大学 Bing Teaching Fellow
1998年 フランス国立農業研究所(INRA) George Morel Memorial Fellowship
1998年 カリフォルニア工科大学 Distinguished Alumni Award
1999年 女性科学者協会 フェロー
2000年 米国哲学協会 フェロー
2002年 イェール大学 Wilbur Cross Medal
2007年 米国植物生物学会 フェロー
2016年 国際植物–微生物相互作用学会 Lifetime Research Award
2019年 米国科学アカデミー Selman A. Waksman Award in Microbiology
1988年、1992年 スタンフォード大学 Dean's Award for Teaching Excellence
1992~1997年 マッカーサー財団 MacArthur Fellowship
1993年~現在 米国科学アカデミー 会員
1994年 米国芸術科学アカデミー フェロー
1997~2000年 スタンフォード大学 Bing Teaching Fellow
1998年 フランス国立農業研究所(INRA) George Morel Memorial Fellowship
1998年 カリフォルニア工科大学 Distinguished Alumni Award
1999年 女性科学者協会 フェロー
2000年 米国哲学協会 フェロー
2002年 イェール大学 Wilbur Cross Medal
2007年 米国植物生物学会 フェロー
2016年 国際植物–微生物相互作用学会 Lifetime Research Award
2019年 米国科学アカデミー Selman A. Waksman Award in Microbiology
1980年代初頭、根粒菌とマメ科植物による根粒共生は厳密な宿主特異性を有し、その成立には多段階の遺伝子制御過程が関与することが示唆されていたものの、その分子メカニズムは未解明であった。シャロン・ルーゲル・ロング博士は、根粒菌と宿主植物の双方を対象とした分子遺伝学・生化学・細胞生物学的解析により、根粒菌と宿主植物の間で交わされる化学シグナルによる「分子対話」に着目し、宿主特異性の成立機構と、それに続く根粒共生の分子メカニズムの解明に大きく貢献した。
1982年、ロング博士は、根粒共生の成立に必要な根粒菌の遺伝子領域を同定し、その領域に存在するnod遺伝子群を世界で初めて報告した(文献1)。これを端緒に、根粒菌間で保存されている共通nod遺伝子群に加え、根粒菌株特異的なnod遺伝子群が次々と同定され、それらの機能解明に向けた研究競争の火ぶたが切って落とされた。
1985~1986年、ロング博士は、アルファルファの根から分泌されるフラボノイドであるルテオリンがアルファルファ根粒菌のnod遺伝子群の発現を誘導することを明らかにした(文献2,3)。この発見は、宿主植物から根粒菌への化学シグナルを介した生物間コミュニケーションの実在を示すとともに、宿主植物がフラボノイドを介して根粒菌との共生を積極的に制御していることを明らかにした。
ロング博士を中心とする一連の研究によって、フラボノイドによって発現誘導されるnod遺伝子群がコードする酵素群により、キチンオリゴ糖からなる根粒菌の感染シグナル分子「Nod factor」が合成されることが明らかとなった。1990年、ロング博士は、アルファルファ根粒菌の宿主特異性に関与するnodPおよびnodQ遺伝子産物がNod factorのキチンオリゴ糖骨格を化学的に修飾することで、宿主特異的なNod factorが合成されることを提唱した(文献4)。Nod factorの構造の違いは、適合する宿主植物においてのみ、根毛の変形や根粒形成につながる皮層細胞の分裂などの形態変化、ならびに共生関連遺伝子の発現を誘導するという観察結果とよく対応していた。
そして1996年、ロング博士は、宿主特異的なNod factorのみが宿主植物の根毛細胞に「カルシウムスパイキング」を誘導することを見いだした(文献7)。さらに、共生能力を失った宿主植物の共生変異体の一部では、カルシウムスパイキングが誘導されないことを示し、共生成立にはカルシウムスパイキングが必要であること、さらに、それら共生変異体の原因遺伝子がカルシウムスパイキングの誘導に関与していることを明らかにした。これは、根粒菌側から宿主植物への化学シグナルを介した生物間コミュニケーションの存在と、その化学シグナルがカルシウムスパイキングを介して、宿主細胞内のシグナルに変換される機構の存在を示すものであった。この発見は根粒共生研究史における最大の転換点の一つとなり、以後、宿主植物の共生制御遺伝子はカルシウムスパイキングを基軸として、カルシウムスパイキングの誘導に関わる遺伝子群、および、その下流で機能するシグナル伝達遺伝子群として位置づけられ、それらの同定と機能解明が急速に進展した。
上記の業績に加え、ロング博士の研究グループは、1990年代後半から、宿主植物であるタルウマゴヤシの発現遺伝子データベースを構築・提供することで、宿主植物の分子遺伝学的解析の加速化に貢献した(文献8)。さらに、2001年にアルファルファ根粒菌の全ゲノム解読を行った(文献10,11)。これらのゲノムデータに基づき、ロング博士は、宿主植物と根粒菌の両遺伝子を含むGeneChip(遺伝子を高密度に配置した遺伝子発現解析基板)を世界で初めて構築し、それを用いた遺伝子発現解析から、根粒共生は両共生パートナーの遺伝子発現の大規模な変容を伴う発生プログラムであることを提唱した(文献15)。さらに、ロング博士は、GeneChipシステムと宿主植物の共生変異体を組み合わせ、共生変異体で発現が著しく減衰する遺伝子の探索から、根粒共生に必須なDMI3(カルシウム・カルモデュリン依存型キナーゼ)遺伝子を発見した(文献14)。DMI3は、カルシウムおよびカルモデュリン(カルシウム結合タンパク質)によって活性化され、標的タンパク質をリン酸化する酵素である。カルシウムスパイキングにより活性化されたDMI3は、下流のシグナル伝達経路を活性化する共生成立の中枢因子であることが後に明らかとなった。
根粒菌の感染に伴い変形した根毛細胞には、根粒菌の感染経路となる「感染糸」が形成され、根粒菌は感染糸を経由して根粒の内部に共生する。2010年代、ロング博士のグループは、根粒菌が感染していない状態では、根毛細胞の細胞膜上に散在しているNod factor受容体を含む細胞膜領域が、根粒菌の感染に呼応して、感染糸が形成される領域に再編成されることで、感染糸が形成され、根粒菌の感染が促進されることを明らかにした(文献18)。
ロング博士のこれらの研究により、根粒共生の成立初期過程が明らかとなった。宿主植物が放出するフラボノイドを感知した根粒菌は、宿主特異的なNod factorを合成し、それが宿主植物においてカルシウムスパイキングを誘導することで根粒共生が開始される。Nod factorを受容した宿主細胞で誘導されたカルシウムスパイキングはDMI3を介して下流の共生制御機構へ伝達される。さらに、根毛細胞では、Nod factor依存的な細胞膜領域の再編成により感染糸が形成され、根粒菌の感染を促す。根粒共生を支えるこれらの動的なメカニズムは根粒共生成立の基本原理として、数々の書籍やレビューに記載されている。
ロング博士は、フラボノイドとNod factorを介した、宿主植物と根粒菌の双方向の「分子対話」が、宿主特異性に基づく根粒共生の成立を制御するメカニズムを解明した。さらに、カルシウムスパイキングの発見により、生物間の化学的コミュニケーションを細胞内シグナル伝達へと結び付ける根本原理を明らかにし、根粒共生研究の理論的基盤を築いた。その成果は数十年にわたり本分野の発展を牽引し、現在の植物-微生物相互作用研究の方向性に大きな影響を与え続けている。
1982年、ロング博士は、根粒共生の成立に必要な根粒菌の遺伝子領域を同定し、その領域に存在するnod遺伝子群を世界で初めて報告した(文献1)。これを端緒に、根粒菌間で保存されている共通nod遺伝子群に加え、根粒菌株特異的なnod遺伝子群が次々と同定され、それらの機能解明に向けた研究競争の火ぶたが切って落とされた。
1985~1986年、ロング博士は、アルファルファの根から分泌されるフラボノイドであるルテオリンがアルファルファ根粒菌のnod遺伝子群の発現を誘導することを明らかにした(文献2,3)。この発見は、宿主植物から根粒菌への化学シグナルを介した生物間コミュニケーションの実在を示すとともに、宿主植物がフラボノイドを介して根粒菌との共生を積極的に制御していることを明らかにした。
ロング博士を中心とする一連の研究によって、フラボノイドによって発現誘導されるnod遺伝子群がコードする酵素群により、キチンオリゴ糖からなる根粒菌の感染シグナル分子「Nod factor」が合成されることが明らかとなった。1990年、ロング博士は、アルファルファ根粒菌の宿主特異性に関与するnodPおよびnodQ遺伝子産物がNod factorのキチンオリゴ糖骨格を化学的に修飾することで、宿主特異的なNod factorが合成されることを提唱した(文献4)。Nod factorの構造の違いは、適合する宿主植物においてのみ、根毛の変形や根粒形成につながる皮層細胞の分裂などの形態変化、ならびに共生関連遺伝子の発現を誘導するという観察結果とよく対応していた。
そして1996年、ロング博士は、宿主特異的なNod factorのみが宿主植物の根毛細胞に「カルシウムスパイキング」を誘導することを見いだした(文献7)。さらに、共生能力を失った宿主植物の共生変異体の一部では、カルシウムスパイキングが誘導されないことを示し、共生成立にはカルシウムスパイキングが必要であること、さらに、それら共生変異体の原因遺伝子がカルシウムスパイキングの誘導に関与していることを明らかにした。これは、根粒菌側から宿主植物への化学シグナルを介した生物間コミュニケーションの存在と、その化学シグナルがカルシウムスパイキングを介して、宿主細胞内のシグナルに変換される機構の存在を示すものであった。この発見は根粒共生研究史における最大の転換点の一つとなり、以後、宿主植物の共生制御遺伝子はカルシウムスパイキングを基軸として、カルシウムスパイキングの誘導に関わる遺伝子群、および、その下流で機能するシグナル伝達遺伝子群として位置づけられ、それらの同定と機能解明が急速に進展した。
上記の業績に加え、ロング博士の研究グループは、1990年代後半から、宿主植物であるタルウマゴヤシの発現遺伝子データベースを構築・提供することで、宿主植物の分子遺伝学的解析の加速化に貢献した(文献8)。さらに、2001年にアルファルファ根粒菌の全ゲノム解読を行った(文献10,11)。これらのゲノムデータに基づき、ロング博士は、宿主植物と根粒菌の両遺伝子を含むGeneChip(遺伝子を高密度に配置した遺伝子発現解析基板)を世界で初めて構築し、それを用いた遺伝子発現解析から、根粒共生は両共生パートナーの遺伝子発現の大規模な変容を伴う発生プログラムであることを提唱した(文献15)。さらに、ロング博士は、GeneChipシステムと宿主植物の共生変異体を組み合わせ、共生変異体で発現が著しく減衰する遺伝子の探索から、根粒共生に必須なDMI3(カルシウム・カルモデュリン依存型キナーゼ)遺伝子を発見した(文献14)。DMI3は、カルシウムおよびカルモデュリン(カルシウム結合タンパク質)によって活性化され、標的タンパク質をリン酸化する酵素である。カルシウムスパイキングにより活性化されたDMI3は、下流のシグナル伝達経路を活性化する共生成立の中枢因子であることが後に明らかとなった。
根粒菌の感染に伴い変形した根毛細胞には、根粒菌の感染経路となる「感染糸」が形成され、根粒菌は感染糸を経由して根粒の内部に共生する。2010年代、ロング博士のグループは、根粒菌が感染していない状態では、根毛細胞の細胞膜上に散在しているNod factor受容体を含む細胞膜領域が、根粒菌の感染に呼応して、感染糸が形成される領域に再編成されることで、感染糸が形成され、根粒菌の感染が促進されることを明らかにした(文献18)。
ロング博士のこれらの研究により、根粒共生の成立初期過程が明らかとなった。宿主植物が放出するフラボノイドを感知した根粒菌は、宿主特異的なNod factorを合成し、それが宿主植物においてカルシウムスパイキングを誘導することで根粒共生が開始される。Nod factorを受容した宿主細胞で誘導されたカルシウムスパイキングはDMI3を介して下流の共生制御機構へ伝達される。さらに、根毛細胞では、Nod factor依存的な細胞膜領域の再編成により感染糸が形成され、根粒菌の感染を促す。根粒共生を支えるこれらの動的なメカニズムは根粒共生成立の基本原理として、数々の書籍やレビューに記載されている。
ロング博士は、フラボノイドとNod factorを介した、宿主植物と根粒菌の双方向の「分子対話」が、宿主特異性に基づく根粒共生の成立を制御するメカニズムを解明した。さらに、カルシウムスパイキングの発見により、生物間の化学的コミュニケーションを細胞内シグナル伝達へと結び付ける根本原理を明らかにし、根粒共生研究の理論的基盤を築いた。その成果は数十年にわたり本分野の発展を牽引し、現在の植物-微生物相互作用研究の方向性に大きな影響を与え続けている。
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