日本学術振興会

先端科学シンポジウム

FoS Alumni Messages No.14

「FoSの精神「好奇心」」

中家 剛

京都大学 大学院理学研究科 教授
HP:https://www-he.scphys.kyoto-u.ac.jp/

FoS参加歴:

8th Japanese-German Frontiers of Science (JGFoS) symposium スピーカー
9th Japanese-German Frontiers of Science (JGFoS) symposium PGM
10th Japanese-German Frontiers of Science (JGFoS) symposium PGM


   先端科学(FoS: Frontiers of Science)シンポジウムは、その名の通り「最先端科学について分野を超えて国内外の研究者と議論する」とてもユニークなシンポジウムである。多くの科学者が「分野を超えて」、「国際的に」議論することの重要性を説くが、その企画と実行の困難さから、類似のシンポジウムはあまり見かけない。その困難な企画に果敢に挑戦し成功させてきた、FoSの精神について私の感想を述べる。

   私とFoS(JGFoS:日独先端科学シンポジウム)の出会いは、2011年8月の事前検討会に始まる。最初は、「なぜわざわざ事前に打ち合わせをする必要があるのだろう?発表時間も約半分で、非専門家向けの講演の仕方を確認するのかな?」とちょっと面倒だと考えていた。しかし、この最初のJGFoS事前検討会が、私をFoSの虜にした。とにかく、他の分野の話題が「新鮮で」、「最先端で」、「面白い」のだ。生物・生命分野では「光信号で脳の働きを制御」、化学・材料は「人工光合成」、地球科学では「太平洋に鉄分をまく壮大な実験」、工学・情報では「コンピュータの中で雲を作る」、社会科学では「実験をベースにした経済学」といった、科学者でなくても大いに興味が湧く話題で満載であった。私が担当した物理は「素粒子の標準模型を超えて」で、「ヒッグス粒子」と「ニュートリノ」の講演であった。なんと、このトピックス(ヒッグスとニュートリノ)は2013年と2015年のノーベル物理学賞に輝き、FoSの先進性を示すことになった。さらに、2015年のノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章さんはFoS参加者で、1999年のJAFoSで講演し、2003年はチェアをしている。今後も、FoSメンバーが世界的な業績をあげていくと実感する、嬉しい報せである。
   次に私のFoSでもっとも思い出深い体験は、FoS Alumni Messages No. 9(2015年7月版)に山中由里子さんも書かれているポツダムの夜のバーでの議論である。物理学者が観る世界観(宇宙観)と、人類学者が観る世界観について熱く議論した。物理学者はいつしか、一つの理論で世界(宇宙)の真理すべてがわかると思い込み、研究している。人類学者はそれぞれの世界に、それぞれの理(ことわり)があると考えていたと思う。その、科学的価値観を議論している時に、ドイツ人の伝統的放浪職人が現れ「我々は学ぶために旅をし続ける」という深遠な言葉を残していった(山中由里子さんの記事から抜粋)。物理学者も人類学者も、自然の理を見つけたいという共通の思いをもって、我々は今日も時間の流れの中を旅している。

   「分野を超えた最先端科学のシンポジウム」を成功させた、FoSの精神は何であろうか?この点に関して、歴代のFoSメンバーがすばらしいコメントを書いているので、ぜひFoS Alumni Messagesを読んでもらいたい。私が考えるFoSの精神とは、「好奇心」、つまり「面白いこと」である。「好奇心」をかき立てる「面白い」話題の数々、その科学的価値観や発想は、分野に限定されたものではない。逆に、分野を超えた先端研究の内容は、刺激的である。分野を超える視点から自らの研究を眺めることが、自由な発想を生む。好奇心が、科学の真髄であり、FoSの精神である。

   日本経済新聞の取材で、山中伸弥京都大学iPS細胞研究所所長・教授が、米国に毎月行っている理由と「日本と違い米国ではなぜ新しいアイデアが次々に生まれるのか?」の質問に対して、以下の通り答えているので紹介したい。

   【山中談:2015年11月1日付、日本経済新聞「日曜に考える」より】「日本との最大の違いは研究者に自由な時間が多いことだ。考えたり議論したり、他分野の人の話を聞きにいったりする。・・(途中略)・・日本は学部間の垣根が高いし、研究者は書類作りで忙しく疲弊し、学内で酒を飲み交わす機会もない。集中してクリエーティブなことをするのに必要なエネルギーを、別なことで吸い取られる。」
   FoSはこの、「日本の・・・」に果敢に挑戦し、「シンポジウムを通じて、自由な時間を確保し、他分野の人の話を聞き、大いに議論し考え、クリエーティブなことをするのに必要なエネルギーを充填する」企画である。FoSを経験した科学者はきっと、この「クリエーティブなことをするエネルギー」を充填し、科学のより高見を目指していく。

   最後に、これからFoSに参加する若い研究者は、そのチャンスを積極的に活かし、自らの科学的価値観を作り上げていってもらいたい。私は、2011年がスピーカー、2012年が物理のプランニング・グループ・メンバー(PGM)、2013年はPGM主査としてFoSに参加した。FoSの成功にはプログラム立案と新進気鋭の研究者の発掘が重要で、これがPGMの役割である。PGM会議が、まず分野を超えた科学の議論であり、最新の国際的な研究状況を聞いて、他分野の興味あるテーマを提案できる絶好の機会である。FoSに参加される方は、ぜひPGMを目指してもらいたいと思う。

   とにかく、FoSは面白い。FoSは日本の科学の発展にとって必要不可欠なシンポジウムである。また、日本の科学と世界の科学をつなげる橋でもある。FoSを通じ、科学者が新しい価値観を育み、その世界観が広がり、その果実が将来社会に還元されるであろう。FoSの更なる発展を期待している。   


 
 

【第9回JGFoS:Stefan Böschen社会科学セッションPGM(当時)と中家PGM(当時)】

   

【第10回JGFoS:レセプションでの日独両主査】

 

【第10回JGFoS:PGM主査挨拶】

 

【第10回JGFoS:物理学セッション】