日本学術振興会

先端科学シンポジウム

FoS Alumni Messages No.13

「JAFoSの思い出、FoSについて思うこと」

久保 義弘

自然科学研究機構生理学研究所 神経機能素子研究部門 教授
HP:http://www.nips.ac.jp/biophys/

FoS参加歴:

7th JAFoS 参加研究者
8th JAFoS PGM
9th JAFoS PGM
10th JAFoS PGM
2008年より FoS事業委員会JAFoS専門委員


   私は、日米先端科学(JAFoS)シンポジウムの第7回 (2004) に参加研究者として、第8, 9回 (2005, 2006) に PGMとして、第10回 (2007) に PGM主査として、それぞれ参加させていただきました。また、第11, 12, 13, 14 回 (2008, 2010, 2012, 2014) に、立場を変えて、専門委員として陪席させていただきました。気がつくと、全部で8回出席し、なんと既に10年超のご縁となります。ちなみに、JAFoS以外のFoSには、出席したことはありません。

   初めてUC Irvine でのJAFoSに出席した時に受けたインパクトは、未だに忘れることができません。「Precise measurements」*1、「ComputerとJazz作曲」*2、「Carbon nanotubes」*3、「Stem cells」*4 等のセッションが、今も思い出されます。
   JAFoSと関わりを持たせていただいて、数多くの先端科学のトピックスに触れ、また、この機会でなければお会いすることのなかった様々な分野の日米の多くの優れた研究者の方々とお話しさせていただくことができて、実り多かったなあ、本当に楽しかったなあと、つくづく思います。

   特に記憶に残っているセッション
   たくさんあるのですが、一番記憶に残っているのは、西成 活裕先生(東京大学)らがスピーカーを務められた「Jamology 渋滞学」*5かもしれません。初めて拝聴した西成先生のご研究が斬新だっただけでなく、self-driven particle の群れが起こす諸現象といった物理化学と社会学にまたがるセッション全体が非常に興味深く、まさにFoS的だなあと感じたことを鮮明に覚えています。もう一つは、岡ノ谷 一夫先生(理化学研究所 脳科学総合研究センター)がチェアーを務められた「Origins of human speech 言語の起源」*6でしょうか。これは、話題提供者3人が(敢えて?)明確に異なる立場に立って議論したものでした。セッションの構成が巧みで、また、3人の周到な事前の打ち合わせが感じられるもので、議論が大いに盛り上がりました。後は、Lene Vestergaard Hau 先生(現Harvard大学) が講演された「Slow light」*7でしょうか? これ以外にも、物理分野の話題は、自分自身の知識が乏しいこともあって、FoS的であったといえるかどうかは別の問題として、非常に新鮮で強く惹かれるものが多かったです。自分の属する生命科学分野をベースとするセッションに関しては、よりよく理解でき、面白いと感じるものが多くありました。その中で、最近(第14回)の「Human Microbiome」*8は、一見地味かと思いきや斬新な話題で、講演者の福田 真嗣先生(慶應義塾大学)の奮闘が光る良いセッションだったと思います。強く記憶に残っているセッションの多くは、トピックスの内容だけではなく、話題提供者3人の工夫した仕掛けやパフォーマーぶりが優れていたように思います。
   ところで、JAFoSの醍醐味は、ふんだんに時間が確保されている徹底した質疑応答、討論にもあります。異分野のトピックスに対し、前もっての知識があるわけではないが、極めて優秀な研究者達が投げかける質問は、往々にして、素朴ではあっても本質的で、はっとすることが多々ありました。そのような想定外の質問に対して、話題提供者3人が協力して答える風景は、忘れがたいものです。

   PGMの活動
   FoSにおいて、PGMとしての活動は特に思い出深いです。視野を広く持って、FoS的であり、今、実施する価値があるというテーマを発掘して、PGM会議で、なぜ、それがトピックとしてふさわしいかを説明して相手を納得させるというプロセスは、それまであまり体験したことのない特別なものでした。何が真実かを求めて行う科学の議論とは異なり、正しい正しくないの議論ではありません。この行為を外国語で行うのは、稀有な経験でした。また、自分の提案が採択されたからといって、何かの得になるわけでもないのに、なぜ、皆それぞれにがんばるのが不思議といえば不思議です。日本側は、話術で説得するというより、魅力をアピールするプレゼンで用いる根拠資料等を用意周到に準備することにより、支持を勝ち得るケースが多かったように思います。甲乙つけがたい提案が拮抗している最後のところで、異分野のPGMの専門外だけどポイントをついた率直な意見が鍵となって最終決定がなされるシーンも多く、とても印象的でした。
   それから、ひとつのプログラムを作り上げる日米16人のチームといった連帯意識が自然に生まれるところも好きでした。競合する提案者で、いわばライバルではあっても、プログラムを作り上げるという作業においては、間違いなくチームメートです。アメリカ側は、いかにも個性的な人が多そうですが、日本側のPGMにも、それに劣らず個性的な方がいらっしゃって、楽しかったです。

   ああ、面白かったで、よいのか?
   普段なじみのない分野の最先端の研究に関する、一般向けではなく異分野研究者向けの、本格的な解説を聞くことができるのは大変な喜びです。ただ、私の尊敬する研究者が、「面白いけど、一回きりの参加でもういいという感じ」とコメントされていました。また、専門委員になってから「ゴールがよくわからない」というコメントや、「異分野の話が聞けて面白かっただけで構わないのですか?」というご質問もいただきました。
   新規の実質的な異分野連携の共同研究は簡単ではないのですが、JAFoSの同じセッションでの出会いがきっかけとなって共同研究を開始し、その成果がNature誌に発表された、濡木 理先生(東京大学)らによるチャネルロドプシンの結晶構造解析等の際立ったケースもあります。また、例えば、生命科学者にとっては、化学分野、材料科学分野等の与える新しい方法論や材料が参考になったり、big dataの処理という点で、思いがけず、社会科学分野に直接の接点があったりします。また、地球環境と生物の相互作用による共進化、極限環境や太陽系外地球型惑星における生命の存在の可能性といった、近未来の重要な研究のシーズを強く体感したりします。よって、優れた若手研究者の方が3日間を共に過ごすことには、直接的とは言えないものを含めて、やはり大きな意義があると思います。
   また、各研究分野の研究者に対し、直接の接点が現時点では期待できないような話題がそれぞれ有ることも事実だと思いますが、それでも、例えば、今後、学術全体を俯瞰するリーダーを輩出するためには、FoSでの経験は貴重なものだと考えます。さらに、日本で閉じることなく、国際的に異分野の研究者との出会いを与える機会は、真に稀有だと思います。
   FoSの意義として「先端科学シンポジウム事業は、新進気鋭の若手研究者(45歳以下)による異分野間での最先端科学についての討議を通じて、新しい学問領域の開拓に貢献するとともに、次世代のリーダーを育成することを目的としています。」と記されていますが、まさにその通りだと改めて思います。

   今後の課題
   JAFoSの場合、米国側の(限られた予算の中で、実施する相手国数を増やすといった?)事情によって、2008年以降は、隔年開催となっています。今後も、現行の他のFoSについても流動的な変化はあるのかもしれないと思います。JAFoSが隔年開催となったことは、JAFoSラバーとしては、とても残念なことなのですが、他の国との開催を模索するという米国の行き方には、共感できる気もします。実際、例えば、英国は、FoSと同種のプログラムにおいて、同じ国との連綿とした開催は実施せず、たくさんの国とごく少ない回数を実施しているとうかがいました。確かに、研究者人口や規模がそれほど大きくないけれど興味深い科学のバックグラウンドを持っている国々と、予算や事務局の負担の許す範囲で実施してみるという試みも面白いのかもしれないと、個人的には思っています。思いがけない新しいシーズや展開が待ち受けているかもしれません。
   いずれにせよ、「最先端科学、若手研究者、異分野連携、国際連携」をキーワードとするFoSプログラムは、学術の未来に大きな意義を有し、また、自分にとっては強いインパクトを持つ大切な思い出であり、今後も、さらなる発展を遂げてほしいと、切に願っています。


 

【第8回JAFoS: PGMへの記念品贈呈】

 

【第10回JAFoS: プレゼンテーション】

 

【第10回JAFoS: 集合写真 (久保PGM主査(当時)は最前列中央)】

 

【第14回JAFoS: PGMと久保専門委員】

文中に登場した「テーマ」のセッショントピックは以下のとおりです。

*1

「Precise measurements」:Ultra-high Precise Measurements (7th JAFoS: Physics/Astrophysicsセッション)

*2

「ComputerとJazz作曲」:Algorithmic Approaches to Music Composition and Performance (7th JAFoS: Mathematics/Applied Mathematics/Informaticsセッション)

*3

「Carbon nanotubes」:Carbon Nanotubes and Nanowires (7th JAFoS: Chemistry/Biochemistryセッション)

*4

「Stem cells」:Stem Cells and Genetic Reprogramming (7th JAFoS: Biology/Life scienceセッション)

*5

「Jamology 渋滞学」:Bayesian Statistics and Massive Data Streams (11th JAFoS: Mathematics/Applied Mathematics/Informaticsセッション)

*6

「Slow light」:Slow Light (9th JAFoS: Physics/Astrophysicsセッション)

*7

「Origins of human speech 言語の起源」:Origins of Human Speech (10th JAFoS: Social Sciencesセッション)

*8

「Human Microbiome」:Human Microbiome – Links to Health and Disease (14th JAFoS: Medical/ Neuroscienceセッション)