日本学術振興会

先端科学シンポジウム

FoS Alumni Messages No.11

「Fostering by FoS, Fostering with FoS (FoSで育み、FoSと育む)」

谷本 浩志

国立環境研究所 地球環境研究センター 地球大気化学研究室 室長
HP:http://www.nies.go.jp/researchers/100116.html
       https://www-lidar.nies.go.jp/~gac/

FoS参加歴:

6th Japanese-German Frontiers of Science (JGFoS) symposium 参加研究者
7th Japanese-German Frontiers of Science (JGFoS) symposium PGM
8th Japanese-German Frontiers of Science (JGFoS) symposium PGM主査
9th Japanese-German Frontiers of Science (JGFoS) symposium PGM


ポツダムふたたび・・・
   今、私はパリから帰国する飛行機の中でこの原稿を書いている。現在務めている、地球大気化学国際協同研究計画(International Global Atmospheric Chemistry)、略して IGAC(アイギャック)という国際プロジェクトの科学推進委員会(Scientific Steering Committee, SSCと略す)の会議でポツダムを訪れた帰路である。ポツダムは2009年から2012年まで4年間にわたる私のFoSライフのうち、2回目と最後に訪れた地である(詳しくは2011年JGFoS実施報告参照)。実は、今年のSSC会議はギリシャかポツダムが開催地候補となって、投票の末に僅差でポツダムになった経緯があり、2回もポツダムに行った私はギリシャに投票したので(笑)、当時は「ギリシャが良かったよね〜」とSSC同僚と愚痴ったものである。しかし今回、偶然にも当時泊まったホテルの隣でディナーをすることになり、当時歩いたショッピングストリートを歩いたり、慰労会となったホテルのバーを覗くと、もともと涙もろい質だし、もうウルウル来てしまった。

   科学者のインタビューでは「子ども時代から○○に夢中だった」「理科が得意だった」「科学者になりたかった」という記事が定番であるが、私には子どもの頃から特に何か夢中になる自然現象があった訳でもなく、大学生になり、理学部化学科に進学しても科学者になりたいという内なる思いは全く湧いてこなかったクチである。それがどういう訳か、まあみんな行くしなあと大学院に進学し、修士課程の最後で研究が上手くいったので博士課程に進学し、首尾よく原著論文も出てドクターとなり、その後国立研究所で研究員として働き始めて今年で15年目になる。そんな私であるが、今、科学者としての人生も悪くない、と思っている。

FoSの思い出
   いや、むしろ面白い人生である。なぜか・・・?私が思う科学者の醍醐味は「人との出会い」である。人というよりは、個性との出会いかもしれない。だから、醍醐味というより特権と言っても良いかもしれない。そしてFoS、特にJGFoSは「愉快な出会い」の宝庫だ。実は、この後帰国してすぐ子どもの誕生日なのだが、2015年のFoSが京都であるので同窓会(というか、FoS卒業生が押しかける会)をやります!という連絡が来て困っている。何を困るの?と思われるだろうが、なんとか子どもの誕生会をずらせないか?と悩んでいるのである。それほど、FoSに愛着を持ち、FoSを大事に思っているFoS卒業生は多い(特にJG!)。

   FoSを振り返ってみた時に思い出される出来事といえば・・・ポツダムでの初日夜のことであろうか。JGFoSでは、会議終了後に現地で次回のトピックスを選定するPGM会議を行うのが通例となっており、日本側PGMでその準備的な打ち合わせを初日の夜に行っている。ディナーも終盤に差し掛かり、PGMで打ち合わせを始めかけたとき、あるメンバーが「税金を使ってドイツまで来てこの会議やる意味あるんですかね?」と言い出した。おいおいおい・・・私はPGM主査だったので、顔面蒼白。なんとか場をまとめて打ち合わせをした。しかし、この先生、納得するとバリバリ働き、PGMとして面白く工夫を凝らしたセッションになった(笑)。今となってはFoS同窓会の笑い話であるが、と同時に、本質的な鋭い質問であり、私は彼に生粋の科学者魂を見た気がしたことも付け加えておきたい。彼もFoSにおけるキャラクター(強烈な個性の持ち主)の一人である。

   FoSでの数々の質問のうち、最も印象に残っている質問は、「What’s new?」である。これは未だに私の頭から離れない。この先生は、トップクラスの研究をしている人に「どこがなぜ最先端なのか?」と臆面もなく聞く。広い視野を持つ意義を再認識し、専門分野のコンフォートゾーンを超えてチャレンジする重要性を思い出させてくれる名言である。

   個人としてキャラが立っている人ばかりではない。人間味あふれる人も多い。2011年に私がPGM主査を務めた際、「チーム・タニモト」と命名してFoSの雰囲気を盛り上げてくれたのは若宮淳志先生。山中由里子先生は私のことを「ミスターJGFoS」と呼んでくれる(笑)。日浦先生の、熱く語った後の「知らんけど」(笑)はFoS語録の一つだ。その他、ここには書ききれないが、みんな一生懸命で、前向きで、よくしゃべる。そして、何を隠そう、事業委員や専門委員の先生方にもキャラクターが勢揃いだ。

   どうだろうか。FoSって面白そうだな、行ってみたいな、と思われただろうか?そうでない方には、FoSの経験は科学者として重要であることをお伝えしたい。冒頭でIGACのSSCの話を少し書いた。実は、FoSでやっていることは、こうした国際的な研究推進のやり方と重なることが多い。科学の世界、特に国際協同で研究を推進する分野では、世界はこうやって回っているのである。一方、日本ではなかなかこうしたやり方は一般的ではない。FoSでグローバルスタンダードのサイエンススティアリングを垣間みることは実利的にも悪くない。

フォスターって?
   やや話がそれるが、機内で読んだ新聞に「東大の世界大学ランキングが、昨年の23位から43位に落ち、シンガポール国立大学や北京大学に抜かれて、アジア首位でもなくなった」という記事があった。たかがランキング、されどランキング。「成果」=「能力×時間×効率+運」だが、科学や研究は決して無機質なものではなく非常に人間的な所作であり、その成功は思いがけない偶然の産物であることが多い。そして、その偶然性には人と人との出会いも含まれる。私が思うに、FoS事業はそういった偶然性の確率(つまり、運)を上げるべく行われている。今後、日本が「単なる科学技術立国」ではなく、すぐに役立たない科学も長期にわたって継続することの価値が分かる国になり、世界に伍する一流の科学者が多く育つかどうかは、FoSをはじめとするこうした事業の継続的な実施によるところが大きいことは、疑う余地がない。タイトルにある「foster」は英語で「育てる、育成する」といった意味で、IGACでも、そのミッションの一つである大気化学者コミュニティを育てるといった意味で使っている。FoSという経験で成長し、そしてFoSを卒業した後もFoSの精神とともに成長する科学者が大勢いる。FoSは、日本の科学者コミュニティを育てるのにすでに大きな役割を果たしているし、その果実は今後もっと広まってほしい。

やるならPGM!
   特に、これからFoS世代になる若手研究者の方には、自らFoSに応募して、参加して、経験して、こうした肌感覚を持ってほしいと思う。また、科学者として世界観を養ってほしい。そして、どうせやるならPGMをされたら良い。存分に楽しめることは請け合いである。そして・・・ぜひJGFoS卒業生の同窓会でお会いしましょう!

   FoSは私の科学者人生に一つの大きな潤いを与えてくれた。やっぱり、科学者としての人生は悪くない。


【第9回JGFoS: 2012PGM卒業(泣)】

【第9回JGFoS: 2012PGM卒業(泣)】
ポツダム最後の夜、PGM卒業(泣)の記念写真。左から、若宮、日浦、谷本。

【第9回JGFoS: 2012ポツダムで最後のディナー】

【第9回JGFoS: 2012ポツダムで最後のディナー】

【第8回JGFoS: 2011浅草ツアー】

【第8回JGFoS: 2011浅草ツアー】
浅草へのツアー。日独PGM主査でおみくじをひく。大吉の私と凶のシュテファニー・グロンド。
(詳細は2011年JGFoS実施報告参照)

【第8回JGFoS: 2011PGM】
2011年PGMで。左から、谷本、日浦、川口、馬奈木、土居(若宮先生が撮影していて写っていない)

【第8回JGFoS: 2011PGM主査交代】

【第8回JGFoS: 2011PGM主査交代】
2011年PGM主査の谷本・グロンド(中央)と2012年PGM主査の若宮・モーザー(両端)の交代フォト

【第7回JGFoS: 2010ポツダムでの慰労会】

【第7回JGFoS: 2010ポツダムでの慰労会】
2010年会議終了後、当時PGM主査の大井先生を囲んで。2011年に向けて改善策を話し合った。
左から、馬奈木、大井、土居、谷本、若宮