日本学術振興会

先端科学シンポジウム

FoS Alumni Messages No.2

「構造化された異分野交流と異文化交流」

藤垣 裕子

東京大学大学院
総合文化研究科 教授

FoS参加歴:
6th JAFoS 参加者
1st  JFFoS PGM
2nd JFFoS PGM
FoS事業委員会 専門委員(JFFoS 担当)


私は 2003年に第6回の日米先端科学シンポジウム(JAFoS)に一般参加者として参加したのを皮切りに、2005年末の日仏先端科学シンポジウム(JFFoS)の立ち上げにPlanning Group Member(PGM)として参加し、現在は事業委員会専門委員を務めているので、もうかれこれ10年もFoSとおつきあいしていることになる。何故10年もかかわっているのか。単純に、FoSが面白いからである。その理由を 5つにまとめてみよう。

第一に、異分野交流である。「構造化された異分野交流」というのは、第1回JFFoSのPGM主査を務めた入來先生の言であるが、FoSに参加するだけで、本当にいろいろなことが学べる。朝はRNAとウィルスの話、午後一番は隕石と太陽系の起源、次は次世代燃料としての生物燃料(第7回 JFFoS の例)など、座っているだけで最先端の話に触れ、第一線の若い研究者と丁々発止できる幸せな機会はそうないのである。学会ではツーカーの議論も、他分野の人に理解できるように話すにはどういうコツが必要なのか、ということも学べる。これは最先端の研究を納税者である一般市民にわかりやすく説明する技術にも役立つ。これがFoSの魅力の第一である。

次に、「セッションを作り上げる達成感」がある。第1回のJFFoS で人文社会科学は「科学技術と民主主義」を扱ったが、これは私の専門分野である科学技術社会論でも最先端の話題であった。プロポーザルの作成、日本国内自然科学PGMとの準備会合、フランス側との交渉、どれも気が遠くなるほどやりがいのある仕事だった。国内準備会合で、自然科学系PGMから、「科学者に、このテーマはおまえたち自身の問題なんだよ、と訴えかけるようなセッションにしてほしい」と言われ、思わぬサポートを得たことも忘れがたい。第2回JFFoSでは、フランス側PGMの提案した「音楽の普遍性と文化多様性」のテーマとな った。フランス側の発表者が認知科学の側面から「音楽の文化によらない不変項」を示し、 日本側の発表者が民族音楽学の側面から「文化依存性」を示し、司会者はその両者をつないでこれまでの音楽についての諸学問の多様性を示した。会場の自然科学者を巻き込み、 多くの興味深い質問がでて、大好評だった。終了直後に、PGM 主査と化学PGMの先生から「セッション成功おめでとう!」と握手を求められ、フランス側PGMと私は握手だけでは足りず、抱きしめ合って成功を喜んだ。第1回でのPGM経験をもとに、若い弟のようなフランスPGM相手に手取り足取りアドバイスした結果、とてもよいセッションができ、自らの予想を上回って達成感が感じられた瞬間だった。

第三に、異文化交流がある。日米(JA)と日仏(JF)で同じ場所である鎌倉へのカルチュアル・ツアーに行ったのだが、彼らの行動は全く異なっていた。地元のボランティアによるツアーコンダクターの旗のもと、ちゃんとついていくのが米国人で、まったく無視するのがフランス人。バスのなかでの昼食に米国人は文句を言わなかったが、フランス人は「食事は車のなかで 10 分でするものはない」「コーヒーが飲みたい」と大ブーイング。分刻みの観光計画にも「観光というのは、こうやって決められた時間に済ますものではなく、 いいと思ったらその場所に何時間でもいるものだ。」とコメント。さらにPGM会議でフランス側は、「第1回のPGM会議で学んだとおりにやっているのに、そんなに文句をいうなら私たちはストライキをする」と主張。いやはや、同じ場所で同じプロセスを踏んでFoSをやっているはずなのに、なんでこんなにも違うのだろう、と感嘆した。それ以外にも、 第7回大津でのJFFoSでフランス人と一緒に座禅を組んだ経験であるとか、仏教と神道の違いを英語で説明する新鮮さであるとか、他ではできない異文化交流をたくさん味わった。 第1回のPGM会議でJFFoSの調印式に参加して、フランス語の美しい響きに感動を覚えた私は44歳でラジオでのフランス語の独学をはじめ、47歳のときに仏検準2級に合格した。事業委員会専門委員としての挨拶のなかでフランス語を用いての挨拶も級があがるにつれ複雑になった。このフランス語は、2013年9月に出版する研究書の翻訳『数値と客観性』(T.ポーター著、みすず書房)でもたいへん役だったので感謝している。

FoSの4つめの魅力は人脈が増えることである。実際、FoSで出会った人と、政府の審議会で再会したり、日本学術会議で再会したり、総長補佐合宿で再会したりして旧交を深 めた。本当にFoSは将来の日本の学術を担う若手の集まりなのだと実感した。なお、FoSの同窓会としてFoS-Clubというものも2009年より発足しているので、ご紹介しておく。

さて今年度は、所属する大学の総長補佐として総合的教育改革にかかわる身であるが、 後期教養教育の設計をするのに、FoSでの経験が役だっている。また日本学術会議での教養教育の議論にもFoSの経験が役だっている。つまりFoSでの経験は、学術における異分野交流、セッションを作る達成感、異文化交流、人脈形成に加えて、学内外でのアドミニストレーションにも役立つのである。もともと科学アカデミー(NAS)で作られたときも「構造化された異分野交流」は将来学術政策を牽引するリーダーの養成をもとに考案されたと聞いている。そのような技術を楽しみながら身につけられるのがFoSの隠された最後の魅力なのである。