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拠点大学交流事業

関連資料

拠点大学方式による日中国際交流-都市環境の保全から循環型社会の形成へ-

武田 信生

はじめに

日本学術振興会(JSPS)と中華人民共和国教育部(MOE)の支援を得て、京都大学と清華大学を拠点校とする、「都市環境」をテーマとした拠点大学交流は2001年度からはじまり4年余が経ちました。紙面をお借りしてこの交流事業の内容や成果を紹介するとともに、その課題や将来への展望を述べさせていただきます。

背景と目的

京都大学と清華大学の間の公式交流は、1998年5月、当時の長尾眞京都大学総長と王大中(Dazhong WANG)清華大学学長が北京において学術交流のための覚書に調印した時にはじまりました。その際、具体的な交流について話し合われ、「環境工学」は協力すべき有力な分野であることが合意されました。これに基づいて、両大学はこの分野での協力促進のための努力を開始し、その結果、日本学術振興会はこのプロジェクトに予算を振り向けることを決定し、都市環境拠点大学交流がはじまったのであります。この時、日本側では18大学が(現在は、29大学)中国側では7大学が協力校となりました。
この交流事業の分野は「都市環境の管理と制御」でありますが、これは、便利で効率的な物質文明社会の中で生活と生産の場近くに副次的に発生した公害問題、環境破壊に対して技術的な方策を提示するとともに、人の行動規範として省資源・省エネルギーが強く意識され、自然との共生を図り得る資源循環型社会の実現可能性を検討することを目的としています。

交流事業の内容

現在、京都大学では筆者が、清華大学ではハオ吉明(Jiming HAO)教授がコーディネータを務め、四つの研究グループを構成して事業を実施しています。四つの研究グループは、(G-1)都市水環境制御・管理に関する研究、(G-2)大気汚染制御・管理に関する研究、(G-3)廃棄物制御管理と資源化に関する研究、(G-4)都市基盤施設(インフラストラクチャー)の管理・制御に関する研究、であり、それぞれの研究グループでは日中各1名の教授がグループリーダーを務めています。
事業の柱は、セミナーの開催と研究者交流・共同研究です。G-1とG-4が合同で、またG-2とG-3が合同で毎年1回、セミナーを開催していますが、このセミナーは中国で1回、日本で1回開催することを原則としており、各グループの研究者は2年に1回は相手国で開催されるセミナーに参加する機会を得ることになります。セミナーでは両国の研究者から平均30件程度の研究発表があり、参加者は50名内外です。当初は相手国研究者の研究分野や関心事を知ることに重点が置かれていましたが、現在では、共同研究テーマに昇華していくことが重要であると認識されており、活発な意見交換がなされるようになってきました。研究者交流・共同研究では、毎年10名程度がそれぞれ数日間程度日本から中国へ派遣され、また、30名程度がそれぞれ10日間程度中国から来日して研究活動を行っています。これらの交流の中では小規模セミナーを開催し、研究者同士の討論を行うことのほか、互いの国の環境条件、技術開発や普及のレベルを理解できるように都市施設や企業などの訪問も積極的に進めております。

写真1 セミナーの様子
写真1 セミナーの様子
 
写真2 セミナー後の交流会を楽しむ若い研究者たち
写真2 セミナー後の交流会を楽しむ若い研究者たち

課題と展望

2004年10月には両コーディネータおよび全グループリーダーが集まり「包括セミナー」を開催し、過去4年間の活動をレビューするとともに今後の進め方について討論しました。その結果、(1)セミナー中に特定のテーマについて深い議論ができるような特別セッションを設けること、(2)各大学の教育システムについて紹介し議論する機会をセミナー中に設けること、(3)特に若い研究者が共同研究者の研究室に比較的長期に滞在できるようにし、研究の融合化を図ること、(4)特定の分野での研究を進めるために、研究資金の共同申請を促進すること、などが重要な課題として提起されました。拠点大学交流事業では、具体的な共同研究を推進する経済的基盤までを支援されているわけではありません。一方、共通の認識や相補的知見を活用して国際共同研究を推進していくことは都市環境研究にとって極めて重要なことであります。いくぶん息の長いこの拠点大学交流事業は、互いの相手国の研究者を理解し協働していける研究者を発見し、切磋琢磨し合える環境を提供するのには大いに役立っているといえます。つまり、この交流が一つのプラットホームとしての役割を果たしているといえるのです。その成果は、このプラットホームを基盤として、いかに優れた共同研究が孵化してくるのか、いかに若い研究者が触発されて活性化されていくかにかかってくるといえると考えております。

写真3 現地見学の様子
写真3 現地見学の様子

拠点大学交流に基づいた発展

拠点大学交流を土台とした新たな展開として以下のような事業が次々と生まれてきていることはまことに喜ばしいことであります。 この交流事業を機縁として、中国における廃棄物最終処分場の改善を目的とした清華大学-福岡市-福岡大学による廃棄物処分技術「福岡方式」の普及を含めた環境分野の技術協力協定の締結(2003年度)、国際協力銀行「中国環境円借款貢献度評価に係る調査」の受託(2004年度から)などのほか、協力大学間で学術交流協定の締結などがなされています。
また、京都大学では2004年度からマラヤ大学、清華大学、京都大学の3大学間での地球・環境科学に関する同時講義を開設する計画を進めています。この事業は文部科学省の「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」によるものですが、拠点大学交流事業で築いた協力関係があってはじめて実現したものです。京都大学で蓄積された基盤的研究実績とマラヤ大学および清華大学が持つ現地に則した研究成果を補完的に統合することにより、極めてレベルの高い講義内容を構築し、その講義をネットワーク事情が悪い地域に対しても有効に機能する新しい遠隔教育実施手段(ハイブリッド型eラーニング)を使って正規授業として開講しようとするものです。
環境技術の普及や一層の技術開発を促進するためには、人材の育成やオンサイトの研究開発を発展させる拠点が必要です。そこで京都大学では寄附講座「日中環境技術研究講座」を設置し、清華大学深セン研究生院(深センキャンパス)において2005年10月1日から研究室を開設することを計画しています。この研究室では、京都大学と清華大学が研究・教育・実務を共同で実施し、学術交流・環境技術普及・新技術開発・人材育成を発展させる拠点となることが期待されています。この協力関係も数年にわたる研究交流の成果の一つであると考えております。

おわりに

地理、経済、文化など多くの点での異なりや歴史的経緯など、困難な局面に立たされることはあるものの、長い交流の歴史に思いをいたす時に、それらの困難は越えられるものであり、また越えなければならないものであると感じています。東アジア地域、ひいては地球規模の環境を考えれば、日中が環境の分野で協働すべきことは疑いの余地がないところであり、この拠点大学交流がその一端を担えるのであれば、これほど意義深く栄誉なことはないというのが正直な実感であります。


武田 信生(たけだ・のぶお)
京都大学大学院工学研究科 教授
本記事は「学術月報Vol.58 No.8」に掲載されたものである。