日独先端科学シンポジウム

実施報告

   
 

第6回日独先端科学(JGFoS)シンポジウム実施報告


Planning Group Member 日本側主査
北海道大学・低温科学研究所・教授 渡部直樹


 2009年度のJGFoSは私にとって3回目の参加となり、今回はPGM主査を仰せ付かった。前任者の菅裕明先生(東京大学・先端科学技術研究センター・教授:2008年度PGM主査)のインパクトがあまりに強かったため、当初は就任を躊躇したが、得意の開き直りで結局お引き受けした。さすがに3回目ともなると、JGFoS事業そのものについてある程度考える時間と心の余裕を持つことができた。JGFoSは2009年で6回目の開催になり、会議の形式や流れは洗練され、ある程度定着した感がある。これも過去のPGMの方々の弛まぬ努力とJSPS、フンボルト財団のご支援の賜物だろう。これまでのJGFoSの変遷は昨年、一昨年の菅、掛川両先生の実施報告に詳しく書かれているので、そちらを参照して頂くとして、ここでは今年の会議を中心に、私なりにJGFoSを振り返ってみたい。
 今年のJGFoSは10月29日から11月1日まで東京晴海で行われた。これまでの日本側開催地・湘南国際村センターを初めて離れての開催だった。今回が初来日だったドイツ側参加者にとっては東京ど真ん中を肌で感じる良い機会だったと想像するし、実際そういった意見も聞かれた。日本側参加者にとっては交通の便がよく会場集合の負担は少なかった反面、良い意味での「缶詰感(閉じこめられ感)」が少なく、若干一体感に欠けてしまったようにも感じた。また、宿泊部屋で無料インターネットが使えたのは非常に助かった。JGFoSは異なる学術分野からなる6つのセッションで構成され、今年のセッショントピックス(学振HP参照のこと)は、昨年マインツで行われたJGFoS期間中のPGM会議で決定された。過去の実施報告書でも触れられているが、トピックスの選定は極めて民主的に、各セッション5つ以上の候補からPGM全員の合議・投票で決められた。この決定プロセスは、専門分野のPGMの指向に偏ることを避け、分野外の人が興味を持ちやすい、「食いつき」の良いトピックスを選び出すには非常に適している。一方で、専門分野のPGMが考える"フロンティア"の順位付けとは必ずしも一致しない場合も出てくる。しかし、私の経験では、このことは必ずしも大きな問題にはならない。語弊を恐れずあえて言えば、そもそも候補に挙がるトピックスに大きなハズレは無いし、会議の成否はトピックスの善し悪しというより、PGMによるスピーカー選定と、PGMと(特に)スピーカーの会議本番に向けての努力に大きく依存する。2009年は全体的に応用科学的なトピックスに偏った感があり(これも現在の科学の趨勢を反映しているとも言える)、バリバリの基礎科学的なトピックスを期待していた私は、正直なところ当初少し物足りないものを感じていた。しかし蓋を開けてみると、スピーカーの方々はいずれも入念な準備の上に、最先端の研究成果のエッセンスと意義を丁寧に発表して頂き、例年に勝るとも劣らないくらい活発な議論が行われた。JGFoSにおける参加者の役割は大きい。いわゆる素人質問は大歓迎だ。スピーカーと参加者がお互い刺激し合い、普段の専門分野の学会では到底見られない議論が展開する。例えば私がPGMをしていたGeosciencesのセッションで印象に残った質疑は、「地球科学者が地球の歴史を語るとき、以前考えられていたシナリオを否定する場合がよくある。その繰り返しだ。いつになったら真実が確定するんだ?」というような趣旨だった。こういう質問もJGFoSでは「有り」なのだ。最先端の研究に対し、分野外の者がその研究に直接役立つような質問・コメントをすることは、一流の研究者にとっても容易ではない。しかし、参加者にとっての第一義はスピーカーの研究に直接有益なアイデアを提起することではなく、他分野の最先端の研究に触れ理解することにより、自身の研究をより客観的・多角的に深く見つめ直すことだと個人的には考えている。その過程で、時にはその科学分野の存在意義に関わるようなシビアな議論があってもいいし、今まで気づかなかった新たな研究の切り口が見えてくるかもしれない。もちろん、他分野からの鋭い質問が研究展開の大きなきっかけになることがあれば素敵なことだ。私は把握していないが、そういった事例があれば是非何らかの形で公にして欲しい。会期中は参加者のほぼ全員が3日間寝食を共にするので、セッション以外の時間でも、議論をする参加者の姿を今年もまた幾度も見ることができた。そんな中から、ひとつでも新しい科学の芽が育ってくれれば言うことはない。
 JGFoSの醍醐味はいわゆる学問的なセッションにだけでなく、エクスカーションやバンケットにおける参加者との国籍・分野を超えた交流にもある。科学者として飛び抜けた人が、人としても突き抜けている(?)ことは分野を問わずよくあることだ。私は科学を離れてこういった人達と語り合うことが大好きだ。さて、今回の会期2日目に行われたエクスカーションだが、個人的には私がこれまで経験した中でも屈指のものだった。特に最初に訪れた「盆栽美術館」は出色だった。一鉢5千万円もする素晴らしい盆栽(もちろん高価であれば良いという訳ではないが、私には輝いて見えた)を前に一堂(いろいろな意味の)ため息とともに携帯カメラのシャッターを押していた。今や日本が世界に誇る芸術である盆栽をドイツ側参加者も大いに堪能していた。盆栽見学の後で行われた和楽器(三味線、尺八、琴)の演奏とそれに続く「さくらさくら」の合唱も参加者に強く印象を残したに違いない。日本人でも普段あまり耳にすることのない心地よい音色が今も耳に残っている。リラックスした雰囲気の中、日独参加者がお互いの文化について語り合う良いきっかけになっていた。
 日本側参加者にとって、JGFoSとは本番の会議だけではなく、事前検討会を含めて(PGMにとってはトピックスの選定から)JGFoSだったと確信する。夏に行われる事前検討会は、秋の本会議の言うなれば予行練習だ。PGM以外の参加者は初めてここで顔を合わせる。参加者の多くが「他分野の最先端科学の研究について議論なんてできるのだろうか?しかも英語で」という心配を多かれ少なかれ持っていたことは想像に難くない。しかし事前検討会を通して、それは杞憂であろうことに多くの人が気づいたはずだ。事前検討会は楽しいのだ。よくまとめられた発表、さすがに選りすぐりの参加者による活発な議論、初対面にもかかわらず何を聞いても許されそうな雰囲気(そういう雰囲気を作るのもPGMの役割だ)が、分野を超えた緩やかな連帯感を生み、本会議に繋がっていく。事前検討会はそれだけでも参加の価値がある不思議な魅力を持っている。
 JGFoSは6回目を終え安定期に入ったと言ってもいいだろう。私が参加した最近3回の会議の運営形式は、過去の経験が生かされてひとつの完成形に近づいている。しかし、決して満足することなく、ここを出発点として今後もさらに良いものを目指して欲しい。PGMとして感じた若干の課題は、JGFoSを続けて行く中で、各分野(セッション)のPGMの専門をいかに広く振れるかということだろうか。同じ分野といえども、その幅は広い。 PGMが近い専門の方に受け継がれると、PGM会議による選定があるとはいえ、どうしてもトピックスが似たようなものになる傾向がある。あえて遠い専門の方にPGMを引き継ぐようなシステムが必要かもしれない。
 私にとってJGFoSは、異なる専門分野の最先端を知り、広い視野から自身の研究を見直す絶好の機会だった。様々な分野のすぐれた若手研究者と知り合うことができたのは私の何よりの宝だ。JGFoSは特別な場所だった。最後に、JSPSとフンボルト財団のご支援に感謝するとともに、第6回JGFoS参加者の益々のご活躍を祈念する。JGFoSでの議論や、新たに築かれた人脈が、将来一人でも多くの参加者に生かされることを期待したい。それがJGFoSの何よりの成功を意味する。




開会式で渡部主査がJGFoSの概要を説明
開会式で渡部主査がJGFoSの概要を説明

セッションでのディスカッション
セッションでのディスカッション

ポスターセッション
ポスターセッション

集合写真
集合写真