事業の成果

教授:椎名 勇

教授:椎名 勇

医薬品の不純物を有効成分に変化させる方法の開発
(純度は2倍、効果は3〜4倍!)

東京理科大学 理学部 教授 椎名 勇

研究の背景

薬などに使われる有機化合物には、右手と左手のように鏡に映すと重ね合わせられる構造を持つものがあります(図1)。これらを鏡像異性体と呼びます。鏡像異性体の片方には薬効がないものが多いのですが、合成の過程でその両方が半分ずつ同時にできてしまう問題がありました。
  消炎鎮痛剤「イブプロフェン」や「ロキソプロフェン(ロキソニン)」などに代表される薬剤は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれ、頭痛薬などとして世界各国で大量に製造・販売されています。しかし、一般的にNSAIDsは鏡像異性体の等量混合物(ラセミ混合物)が用いられていて、有効成分は実は半分しか含まれていません。例えば、従来処方されていた「イブプロフェン」は左手型(S型)と右手型(R型)のラセミ混合物で、有効成分の純度は50%ということになります。

図1 イブプロフェンの鏡像異性体(有効成分と不純物)

図1 イブプロフェンの鏡像異性体(有効成分と不純物)

研究の成果

我々の研究チームは、半分の不純物を含むNSAIDsを純粋にする方法の開発に取り組みました。まず、2010年にラセミ混合物から一方の鏡像異性体のみを取り出す触媒反応「不斉エステル合成法」を開発しました。その後、新たな触媒反応として「混合酸無水物ラセミ化法」を開発しました。こちらは鏡像異性体の一方を他方に変化させる技術(R型⇄S型)で、最終的にはこれら二つの触媒反応を組み合わせた「動的な速度論的光学分割法」を2012年に確立して、ラセミ混合物から100%に近い収率でS型化合物を取り出すことに成功しました(図2)。これにより、従来と比べて純度が2倍になったNSAIDsを合成することが可能になりました。今までは分離したとしても捨てなければいけなかった不純物(R型)が、有効成分(S型)に変換できるのです。純度は2倍になり、不純物の副作用が無くなるので鎮痛効果は3〜4倍にもなります(図3)。
  今回の研究成果は画期的なものとして国内外で高く評価され、2012年10月29日の朝日新聞朝刊の科学面でも紹介されています。新たな試みとして、研究成果を一般の方々にも知っていただこうと、“論文の概要を動画共有サイトのYouTubeでも公開”しましたので是非ご覧下さい。(椎名研究室ホームページにリンクが貼ってあります。)
http://www.youtube.com/watch?v=fy_Zy8hKzDc(日本語版)
http://www.youtube.com/watch?v=3vKArZh8d4g(英語版)

図2 触媒反応の進行により不純物(R型)が減って有効成分(S型)が増えていく

図2 触媒反応の進行により不純物(R型)が減って有効成分(S型)が増えていく

図3 鎮痛効果の比較 (S型)≫(ラセミ混合物)>(R型)

図3 鎮痛効果の比較 (S型)≫(ラセミ混合物)>(R型)

今後の展望

今回開発した技術については、2012年11月に東京理科大学と国内化学メーカーとの間でサブライセンス契約が締結され、既に実用化に向けた合成工程の開発が始まっています。早い段階でS型化合物のみを含むNSAIDsが製品化され、少量の消炎鎮痛剤で患者さんの治療が行えるようになることを願っています。

関連する科研費

  • 平成22−26年度 基盤研究(B)「酵素機能を凌駕した人工脱水縮合反応の設計と薬理活性有機分子構築への応用」

(記事制作協力:日本科学未来館 科学コミュニケーター 寺村 たから)