事業の成果

写真:今津節生課長

課長: 今津 節生

X線CTを用いた国宝阿修羅像の健康状態調査と製作技術の解明

国立文化財機構 九州国立博物館 博物館科学課長 今津 節生

研究の背景

天平の美少年、阿修羅像をはじめとする奈良・興福寺の八部衆・十大弟子は天平彫刻の最高傑作として知られています。この彫刻群が57年ぶりに奈良を離れ、東京と九州の国立博物館での特別展で165万人を超える方々に披露されました。展覧会を契機に九州国立博物館に設置した文化財専用の大型X線CTスキャナを使って、諸像の健康診断を兼ねた科学調査を実施しました。さらに、それまでに2年間の歳月をかけて三次元データの解析を行いながら研究の準備を進めてきました。

研究の成果

本研究は興福寺の特別な許可を得て、X線CT調査で得られた国宝 阿修羅像をはじめとする十大弟子像4躯、八部衆像5躯の高精細三次元データを、美術史・工芸史・修復技術・文化財科学・博物館学の専門家が一同に集まって解析するものです。X線CTによって得られた三次元画像を外面・内面・断面を問わず自由に拡大・縮小しながら、研究者たちが白熱した議論を進めていきます。こうして、各分野の専門知識を集め、1270年あまり前に製作された脱活乾漆像の構造や技法、過去の修復履歴などを明らかにしています。
 これまでの研究で、阿修羅像の心木は虫食が無い良好な状態であり、胸部に見える亀裂も表面に留まっていることが判りました。また、鎌倉時代と明治時代に実施された修理の痕跡も明瞭に把握することができました。さらに、三次元データから阿修羅像の塑土原型像を復元することに成功しました。麻布と漆で作られた像内面の凹凸を反転することで原型像を復元したのです。そこから、この原型像は現在の阿修羅像よりも厳しい表情をしていたこと、衣や装身具は原型の段階では表現されていなかったことがわかりました。
 また、阿修羅像の3つの顔をそれぞれ3Dプリンタで出力して実物大のデジタル複製品を製作しました。表面だけではなく、麻布と漆を重ねて作った内部構造までも忠実に再現したデジタル複製品です。このような最新技術を使って、見えない部分まで可視化して観察・理解できる新しい展示品の試作も進めています。

図1 X線CTデータから作成した三次元画像(正面・断面・原型)

図1 X線CTデータから作成した三次元画像(正面・断面・原型)

図2 阿修羅像顔面のデジタル複製品

図2 阿修羅像顔面のデジタル複製品

図3 布目や縫目まで正確に表現した阿修羅像の頭部複製品

図3 布目や縫目まで正確に表現した阿修羅像の頭部複製品

今後の展望

本研究は、日本彫刻史上に阿修羅像をはじめとする興福寺の天平彫刻の作風を、科学調査を踏まえて正確に位置づけることを目標にしています。研究の成果は日本彫刻研究の新しい研究基盤になることでしょう。また、研究で得られる具体的な成果として、デジタル複製品を製作し、実物展示だけでは得ることのできない斬新な展示方法を提案します。さらに、研究の成果が一目で判るように、膨大な画像データを掲載した図録の出版をめざしています。

関連する科研費

  • 平成21-23年度 基盤研究(B)「X線CTスキャナによる中国古代青銅器の構造技法解析」

  • 平成23-26年度 基盤研究(A)「九州における対外交流文化財の保存と活用に向けた研究基盤の創設」(研究分担者)研究代表者:伊藤嘉章(国立文化財機構九州国立博物館)

(記事制作協力:日本科学未来館 科学コミュニケーター 田端 萌子)