事業の成果

写真:中垣俊之准教授

教授:中垣 俊之

ハーバー・ボッシュ法に代わる次世代型窒素固定法の開発
―常温常圧の温和な反応条件下でアンモニアを合成―



東京大学 大学院工学系研究科 総合研究機構 
准教授 西林仁昭

研究の背景

ハーバー・ボッシュ法は、これまで困難であった空気中の窒素を固定する画期的な技術です。これにより人類は大量の窒素肥料を手に入れ、今日に至るまで高い食料生産を維持することができています。窒素ガスと水素ガスを合成してアンモニアを作り出すこの方法は、しかしながら鉄系触媒存在下で高温高圧(400-600℃、200-400気圧)のエネルギーを大量に消費することが欠点です。化石燃料から合成する水素ガスの製造も含めると、全人類の消費エネルギー数パーセント以上がこのアンモニア合成に使用されているとの指摘もあります。それ故、より温和な反応条件下で、化学的に不活性な窒素分子をアンモニアへと変換する反応の開発は、化学者が達成すべき最重要検討課題の一つであると言っても過言ではありません。

研究の成果

我々の研究グループでは、PNP型ピンサー配位子という、りん—窒素—りん原子が錯体を中心として三座で配位結合する化合物を有した、窒素分子架橋二核モリブデン錯体を新しく分子設計・合成を行い、これを触媒として用いることで常温常圧の極めて温和な反応条件下で窒素ガスをアンモニアへと変換する反応を開発することに成功しました(K. Arashiba et al, Nature Chemistry, 2011, 3, 125-130,図1)。非常に単純で市販されている配位子を有するモリブデン錯体を用いて触媒的なアンモニア合成が可能になったことは大変興味深い研究成果です(図2)。この新規な窒素錯体存在下、窒素ガスを還元するのに必要な還元剤として比較的安価な有機金属化合物の一種であるコバルトセンとプロトン源とを組み合わせて反応を行うことで、効率的な窒素ガスからのアンモニア合成プロセスを達成しました。

図1 常温常圧下での触媒的アンモニア合成法

図1 常温常圧下での触媒的アンモニア合成法

図2 触媒として働くピンサー配位子を有する窒素架橋2核モリブデン窒素錯体

図2 触媒として働くピンサー配位子を有する窒素架橋2核モリブデン窒素錯体

今後の展望

本法は現法のハーバー・ボッシュ法に代わる潜在能力の極めて高い次世代型窒素固定法です。本法を使用することで、大量の二酸化炭素の発生源である化石燃料を使用せず二酸化炭素排出量を大幅削減するアンモニア合成のプロセス開発と、大幅なコストダウンが大いに期待できる画期的な研究成果です。この成果はクリーンなアンモニアをエネルギー媒体として利用する「アンモニア社会」を実現する重要なものです。  今後はより高活性な触媒の開発や、化石燃料を大量に使用する水素ガスの代わりに水をプロトン源として利用した反応系の開発を検討し、ハーバー・ボッシュ法に代わる次世代型窒素固定法を実用化したいと考えています。

関連する科研費

  • 平成19年度 萌芽研究 「窒素分子の触媒的な分子変換反応への挑戦」

  • 平成19-23年度 若手研究(S) 「複数の金属の相乗効果を利用した革新的分子変換反応の開発 」

(記事制作協力:日本科学未来館科学コミュニケーター 水野壮)