事業の成果

写真:長岡朋人講師

講師: 長岡 朋人

縄文時代人骨のライフヒストリーの解明



聖マリアンナ医科大学 医学部 


講師 長岡 朋人

研究の背景

古人口学は、古人骨に基づき過去における人口現象(死亡率、性年齢構成など)を復元することを目的とします。従来の縄文人骨の研究では、 15歳時の平均余命は約16年で、65歳以上の高齢個体が全くありませんでした。しかし、人骨の死亡年齢の推定方法が信頼に足るものであったのか、また、人骨標本がその時代の人々の人口構成を反映しているのか、問題点がありました。狩猟採集民の民族学的調査の結果や宗門改帳に記録された江戸時代人など、近代以前の社会で高齢個体が皆無という集団は存在しないからです。また、従来の古人口学的研究では、高齢者の年齢を若く見積もるため、その割合が過小評価されるという批判がありました。

研究の成果

縄文人が何歳で死亡していたかを解明するために、ベイズ推定に基づいて縄文人骨の死亡年齢分布を求めました。ベイズ推定は、あらかじめ分かっている情報に基づいて未知のデータを分析する方法です。観察したのは骨盤の関節の腸骨耳状面です(図1)。その部位は若年個体では滑らかですが、高齢になると骨棘や孔が多く現れます。千葉県の貝塚などから出土した15歳以上の縄文人骨の死亡年齢分布を求めたところ、15歳以上の個体の中で65歳以上の個体が占める割合が32.5%(図2)、15歳時点での平均余命は31.5年と意外に長生きという結果でした。この結果は、従来短命と考えられてきた縄文人のライフヒストリーに再考を迫るものでした。

図1 縄文人骨の腸骨耳状面。骨棘や孔が認められる。加齢しつつある個体である。

図1 縄文人骨の腸骨耳状面。骨棘や孔が認められる。加齢しつつある個体である

図2 縄文人骨の死亡年齢分布。本研究による結果と先行研究を比較した。

図2 縄文人骨の死亡年齢分布。本研究による結果と先行研究を比較した。

今後の展望

 本研究は、文字資料が残っていない古人骨でも人口構造の研究ができることを証明しました。今回の方法論は、例えば化石や野生霊長類の骨格や狩猟採集民の人口研究にも応用でき、古代人の生老病死のみならず、ライフヒストリーから見たヒトの進化史の解明に資すると期待できます。

関連する科研費

  • 平成20-22年度 若手研究(B) 「ヒトのライフヒストリーの進化史の解明:人骨研究からの新しいアプローチ」

(記事制作協力:日本科学未来館科学コミュニケーター 五十嵐海央)