事業の成果

写真:吉田 久美教授

教授:吉田 久美

青色の花の発色の仕組み

名古屋大学大学院情報科学研究科 准教授 吉田 久美

研究の背景

身近な花の色の仕組みは、19世紀から研究されています。それでもまだ、なぜ「バラは赤でスミレは青く」、「アジサイの色が変わるのか」などわからないことが沢山残っています。花の色はほとんどがアントシアニンというポリフェノール色素によります。この色素は、薄めた水溶液中では不安定で、色を保つことができません。しかし花弁細胞の中では、色素分子を安定化し色を変化させる仕組みが備わっているのです。私たちは花弁の着色細胞だけを取り出して解析することにより花色の研究を進めてきました。

研究の成果

空色アサガオの花弁は、ツボミの時には赤色で、花が開くにつれ青色へと変化します(図1)。細胞に含まれるアントシアニン(Heavenly Blue Anthocyanin, HBA)には全く違いが無いため、何らか、細胞の生理条件の変化によると考えられてきました。しかし、花弁を搾ると色はすぐさま紫色になってしまい、これを証明することができません。そこで、一個の細胞に刺して測定できる微小pH電極を作り、これを用いて顕微鏡で観察しながら、細胞の中にある液胞(色素がある部分)のpHを測定しました。すると、普通は弱酸性であるはずの液胞のpHが開花時に7.7まで上昇していることがわかりました。
 このような異常な液胞のアルカリ化は何のためにおきるのでしょうか。液胞pHの制御に関与する膜タンパク質の解析を行ったところ、開花の6時間前くらいから急激にナトリウムイオン-水素イオン対向輸送体(NHX1) が増加し、実際に花弁ではカリウムイオン(K+)を液胞に運び、水素イオン(プロトン, H+)を排出することがわかりました。そしてこれは、カリウムイオンを浸透圧物質として使うことで水を呼び込み細胞の体積を増大させて(24時間で3倍以上になります)花を開かせるために必須の仕組みであることが明らかにできました(図2)。


図2

図2:アサガオの花が青くなる仕組み。 ツボミの時には
液胞のpHは弱酸性であるため、アントシアニンは赤紫色
を示す。咲くときにはNHX1が出現して液胞内にK+を
運び浸透圧が上がる。すると水が液胞内へと流入し、
細胞体積が増大する。液胞内はK+濃度が上がり水素
イオンが減るのでpHは上昇して、アントシアニンは
青色を示す。

図1

図1:空色西洋アサガオの開花の経過。
写真左から24時間前、6時間前、開花時で上が花、下が花弁切片の顕微鏡
写真。花弁組織では、着色した細胞は表と裏の両表層細胞だけで中心部分
は無色である。

今後の展望

“Blue Rose”には「実現不可能」という意味があります。昨秋、遺伝子組換えによる青バラが発売されましたが、ツユクサやアサガオほどには青くありません。今回の研究の成果を応用すれば、青いバラも夢でなくなる可能性があります。それはともかく、私たちは身近にある生物現象の「なぜ?」や「謎」を解き明かすために、生きた細胞を化学の目で眺め、その中ではどんな分子がどのように働いているかを明らかにしたいと考えています。

関連する科研費

  • 平成16-19年度 基盤研究(B)「花弁細胞の液胞膜輸送と花色発現に関する研究」
  • 平成20-22年度 基盤研究(C)「アントシアニンの合成化学を基盤とした花色発現機構のケミカルバイオロジー」