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リンダウ・ノーベル賞受賞者会議派遣事業

参加者の声

第61回(医学・生理学)参加者


参加者アンケート結果(PDF)

第61回リンダウ・ノーベル賞受賞者会議(医学・生理学) 報告書

日本学術振興会の支援による参加者の報告書より抜粋

 

氏名 新田 英之
所属 理化学研究所・基幹研究所・特別研究員

ノーベル賞受賞者の講演―Harold W. Kroto:
  ノーベル賞をもらったC60の発見は自分の一番の研究成果ではなく、偶然の産物であったことを強調されていた。専門的な議論はほぼ皆無であった。どのトピックが重要であるかではなく、とにかく自分の興味を持ったテーマに取り組むよう何度も繰り返し述べられた。

我が国からの参加者との意見交換・討議:
  寝食を共にしながら、時にはお酒を飲みながら、お互いの研究内容についてごく自然に語り合うことができ、異なる分野の知見を広げるとともに、大変な刺激をうけた。異なる分野の研究者が集まっていたため、専門外の分野における国内でのキャリアパスや、プライベートの話題などで親睦を深めることができた。

会議への参加全体を通じて自分の中で変わった点、変わるきっかけとなった点など:
  以前から理解していたことであるが、研究者にとって極めて重要であるが、日本国内では重要であると建前上言えない技量に、「喋りの上手さ」と「ネットワークをつくる能力」がある。今回ノーベル賞受賞者達と接することにより、これらの技量が本当に重要であることを再認識した。

今後研究を進めていく上で参考となる点:
  「今注目を集めている分野で優秀な人がどんなに頑張ってもビッグマン が成果と栄誉をさらっていってしまうため、今後注目される分野をいち早く見つけ、開拓者になることが研究者としての成功への秘訣である。あなたがビッグマンでないのなら。」とどなたかがご教授頂いた(おそらくBlackburn先生であったと記憶している)。これは一生をかけるかもしれない研究テーマを探し求める際に極めて参考になる点である。



氏名 大須賀 覚
所属 筑波大学・人間総合科学・博士課程大学院生

ノーベル賞受賞者の講演―全体の印象:
  日本にいてノーベル賞受賞者の講演が聞ける機会というのは、極めて少ないです。そのため、私自身は今まで数人しか聞いたことがありませんでした。それが今回、20人を超える大変な数の講演を一度に聞けたこと自体が、素直に興奮する体験でした。
  受賞者の講演内容は様々でした。ノーベル賞を受賞した研究について話す人もいれば、現在進行中の研究内容について話す人、研究者としての心得などに重点をおいて話す人もいました。そのバリエーションの広さもまた面白いところでした。特になかなか学術会議では話すことのない、研究者として成功するためにはどうするかという話にフォーカスして聞けたのは、貴重な機会となりました。
  講演を聞いた率直な感想としては、受賞者全員がとても熱意を持って講演されているのが印象的でした。世界的な仕事をした人の白熱した講演を聞けることは、単に講演内容から勉強するということだけではない、研究への情熱などを肌で感じることで、自分自身の今後の生活や研究スタイルにも影響を及ぼすほどの大きな体験となりました。

ノーベル賞受賞者の講演―Ei-ichi Negishi:
  根岸先生は、今回参加されているノーベル賞受賞者の中で、唯一の日本人参加者でした。講演はノーベル賞受賞した根岸カップリングについてのお話を中心に、研究内容に関して丁寧に解説をしてくれました。
  講演内容も勉強になりましたが、私自体は根岸先生自身の状況より様々な感慨を覚えました。特に、日本で育った日本人が海外に出ていき、そしてノーベル賞受賞まで仕事を完成させて、このような会議で堂々と講演している姿というのは、純粋に感動を感じましたし、他のノーベル賞受賞者と違い、とても親近感を得ることができました。我々日本人参加者への強いエールになった気がしました。

諸外国の参加者との意見交換・討議:
  この会議はとてもインフォーマルな雰囲気であり、なおかつ他国の参加者との交流ができやすいように、様々なイベントが設定されています。そのおかげで、すぐに他国の参加者とも打ち解けて意見交換することができました。世代や環境が似ている人達が集まっていますので、お互い似た悩みを抱えていることもあるので、それらに関しての意見や答えを聞けたことは大変参考になりました。研究者の労働環境や、上司との関係、将来の夢など、普段はなかなか詳しく聞けない内容まで踏み込んで聞くことができました。さらに、多くの人は海外の一流研究機関から来ていたので、それらの研究機関での研究環境などを直に知ることができたのは、大きな財産になりました。
  また、普段の学会ではなかなか会うことのない、アフリカの国の人などとも意見を交わすことができたのも貴重な経験でした。それらの発展途上国の人々の抱える問題などは独特ですが、我々先進国にいる人たちもよく考えていかなければいけないと思うものばかりでした。

今後研究を進めていく上で参考となる点:
参考になった点は多数ありますが、いくつか箇条書きで列挙します。
1、自分自身が抱いていた日本と世界との心理的な垣根をとりさることができた。
2、海外の研究機関での研究環境・手法を知ることができた。
3、ノーベル賞受賞者が考えていること、行ったことを直に感じることができた。
4、他分野の研究内容を聞くことで、自分の研究に対しての新たなインスピレーションを得られた。
5、海外留学に向けての準備や対策を詳しく知れた。
6、他国の研究者と積極的に交流することに自信がついた。
7、海外の研究者と共同研究を行っていくことの礎ができた。
8、発展途上国で抱える問題(これは世界の問題)などを直に知ることができ、研究の意義などに関しての視 点が広がった。



氏名 大園 瑛子
所属 東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科・博士課程大学院生

ノーベル賞受賞者の講演―全体の印象:
  参加なさった全てのノーベル賞受賞者が、受賞につながった御自身の研究に加え、研究が如何に面白いものであるかを熱く語って下さいました。研究を続けるための原動力は、やはり好奇心であると多くの先生が強調されていたことが強く印象に残っています。そして、社会還元するためにどのように働きかけるか、研究を続けて行く上での心構えなど、Scientistとして社会の中で如何に存在するのかという点について言及される先生もいらっしゃいました。
  また広い会場全体を包み込むような力強い先生方のプレゼンテーションは、抑揚の付け方、上半身の使い方、スライド構成など全ての面で、今後研究の内容を伝える際に役立つポイントがいくつもあり、非常に勉強になりました。

ノーベル賞受賞者の講演―Avram Hershko:
  前半では、生物の恒常性を保つユビキチンプロテアソーム経路を如何に解明したかについての話がありました。「タンパク質の状態・状況に応じて、タンパク質を分解する」という、このメカニズムに異常が生じた時、癌をはじめとした様々な疾患が起きることが今では明らかにされています。
  後半では、若手研究者へのメッセージとして、良きメンターに出会い、真摯にサイエンスを進めて行くことを学ぶことの重要性や、予想外の結果の中にこそ大きな発見があることを話していらっしゃいました。そして好奇心を大切にすること、研究推進能力の高い研究室・人が目をつけていない分野を開拓すること、雑用に追われるようになっても現場で実験を続けることが大きな楽しみになるため、自分の手で実験を続けることを勧めていらっしゃいました。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッションー全体の印象
  午前中の講演で、仕事内容の話に加え、Scientistとしてどの様に生きるかなど、より一般的な話をした先生のディスカッションに人が集中しました。特に最終日に講演をなさったde Duve先生は講演後Standing ovationが起きるほど大盛況だったため、個別のディスカッション会場が満杯になり、立ち見でも構わないと交渉したものの参加は叶いませんでした。
  質問は各人の研究と関連したものが多く、分野が異なるとその内容を把握できなかった部分もありましたが、先生方が少しでも多くの参加者の参考になるよう、質問された範囲を超えて丁寧に分かりやすく解答して下さったのはありがたいことでした。
  質問者に関しては、アメリカ、インド、そして中国からの参加者に目を瞠る勢いを感じました。日本人にはない独特な積極性には舌を巻かざるを得ず、国際社会で生き抜くためにはこのような姿勢が大切であることを痛感しました。同時に、日本人ならではの、全体の調和を取りながら自身の振舞いを考える部分は、個々の個性がぶつかり合う社会における調整役として重要になるとも思いました。

会議への参加全体を通じて自分の中で変わった点、変わるきっかけとなった点など:
  会議参加前は、限られた期間の中で最大限の結果を残すために全力疾走せねばと、焦燥感に駆られていました。興味対象の真実を自分の手で明らかにしたいと強く思いつつも、迫ってくる様々な期限を感じては、自由な気分で研究を楽しむのは今の段階では難しいと思っていたのが本音です。
  何人もの受賞者の先生方が好奇心を原動力にと話されるのを聞き、そして根岸先生のディスカッション・セッションで、論文のインパクトファクターに固執しすぎずに状況を冷静に判断しながら着実に真実を追い求めて行くのが大切という内容のお話を聞き、気分が楽になりました。いずれのことも真っ当にサイエンスを進めて行く上で、基本的かつ大切なことだと頭では理解しているつもりですが、時に目先の事柄にとらわれ過ぎて忘れがちになるので気をつけねばと再認識した次第です。また研究者として着実にキャリアを積んでいる先輩方のお話を沢山聞き、躊躇せずにもっと積極的に道を切り開いて行く必要性を改めて感じました。



氏名 大竹 義人
所属 ジョンズホプキンス大学・コンピュータサイエンス学部・ポスドク研究員

ノーベル賞受賞者の講演―Ada E. Yonath:
  イスラエル出身の女性の受賞者で、リボソームの構造解析という私にとっては聞きなれないテーマだが、基礎から順を追った説明が非常にわかりやすく、受賞につながった業績の具体的な部分が理解できた。
  先生ご自身のScienceに対する姿勢についての以下の言葉が心に残った。
          Science is something that we desire, not believe.
「ずっと一つの研究テーマを信じて(believe)続けてきたからノーベル賞を受賞できたのですね。」とよく言われるが、何かを信じてきたわけではない、いくつかの周辺知識から推測して、その他の未知の事柄も、「こうであったら良いな」と望み(desire)続けるのがScienceである、というのが先生の持論であった。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッションーPeter Agre:
  “Grill & Chill”という火曜日のディナーパーティーの席で個人的にお話をさせていただく機会があった。自分も先生と同じJohns Hopkins大学で研究をしているため、少し親しみを持ってお話をして頂いたように感じた。ノーベル賞受賞後にどのような事が変わったかと質問したところ、自分自身何も変えないように努力した、このように知り合いがたくさん増えたのは良い変化だった、というお答えを頂いた。講演の中でも自身のご家族の写真をスライドの所々に挟む事で人々の注意を持続させるなど、ユーモアのある先生だった。また、自身のAquaporinの研究成果についてお母さんが「初めてお前の研究が世の役に立った」と言ったのが、クリスチャン・ディオールとの共同研究で新しい化粧品が生まれた事を知らせた時だった、というお話もウィットに富んだ先生の人柄が感じられた。

諸外国の参加者との意見交換・討議:
  今回の会議では、特にスイス、ドイツ、アメリカ、日本、インド、リトアニア、エストニア、ベルギー、から来ている同世代の研究者らと個人的に意見交換をする機会が得られ、非常に興味深く貴重な経験であった。討議の内容は、互いの研究内容とともに、各国アカデミアの教育の現状や、若手の研究者らが置かれている状況、将来的な共同研究の可能性についても話をすることができた。それぞれの国の若手研究者が置かれている状況を知ることができたと同時に、それぞれの研究者の将来の研究に対する意欲的な態度に刺激を受けた。

会議への参加全体を通じて自分の中で変わった点、変わるきっかけとなった点など:
  本会議では、日頃参加している自身の専門分野の国際学会と異なり、異なる専門分野の研究者らとの意見交換や討議の機会が多くあったために、自分の研究内容について分かりやすく説明することが求められた。本会議中に繰り返し自分の研究をいろいろな角度から見直し、様々なバックグラウンドを持つ方々に説明を繰り返す事で、比較的わかりやすく説明することができるようになったのではないかと感じている。自分の研究や成果を、社会に還元する際にも、非常に重要な技術であると思う。



氏名 大塚 正太郎
所属 欧州分子生物学研究所・細胞生物学・生物物理学ユニット・博士研究員

ノーベル賞受賞者の講演―全体の印象:
  受賞者は総じて受賞のきっかけとなった発見に至るまでのプロセスや、重要な発見をするために科学者として大事にすべきこと等を話してくれたので、大変勉強になった。多くの受賞者が共通して強調していたのは、何が根本的に解決しなければならない問題かを他人ではなく自分自身で考えることや、世間では信じられている事を疑い自身の研究結果を信じること、また良い指導者・共同研究者を見つけ学際的な研究を行うこと、がブレイクスルーを生む原動力になるということであった。多くの受賞者は発表の際にユーモアを交えたり、有名な映画をモチーフにしたビデオを用いるなど、自身の研究について活き活きと発表しており、心からサイエンスを楽しんでいるようであった。受賞者の講演を通して、研究を楽しむという基本的なことの重要性を再認識した。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッションー全体の印象:
  私が参加したディスカッション・セッションは、どの受賞者も聴衆の質問に答えるという形で行われたため、ポスドク先の選び方や子育てと研究の両立のさせ方などの参加者の身近な悩みから、科学者として社会・地球環境保全にどう貢献すべきかといったことにも議論が及び、興味深かった。総じて、受賞者の人柄や研究に対する信念・哲学をより深く知ることができ、大変有意義なものであった。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッションーOliver Smithies:
  Smithies氏は参加者の質問に対して、常にジョークを交えながら嬉しそうに回答されており、研究活動を心の底から楽しんでいるようであった。私自身、忙しいあまり研究の楽しさをつい忘れがちになるが、科学者本来のあるべき姿を見たような気がして心が洗われた。良い科学者になるためには何かを暗記して知識を増やすのではなく、何故かを考え、どのようにしたらそれを解明できるかを考えることが重要だ、とSmithies氏は強調されていたが、もし私が将来学生を指導するような立場に立った際には、このSmithies氏の教えを下に学生を育てていきたいと思った。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッションーPeter Agre:
  印象的であったのは、Agre氏のような研究だけでなく政治にも携わる多忙な人でも、家族・友人との時間を十分に取り、大切にしているということだった。また、他のノーベル賞受賞者が受賞のきっかけとなった研究をしたのが25歳から40歳くらいまでの時であることを紹介し、独創性や創造力の重要性を語っておられ、自分がその年代であることを実感し身の引き締まる思いであった。


氏名 細田 將太郎
所属 九州大学・生体防御医学研究所・博士課程大学院生

ノーベル賞受賞者の講演―Roger Tsien:
  ノーベル賞受賞者の発表はそれぞれ素晴らしく感銘を受けるものだったが、中でもTsien先生の発表はとても素晴らしく上手でとても印象に残っている。GFPタンパク質の発見と開発でノーベル賞を受賞されているので、細胞や組織を利用したきれいな画像・動画を盛りだくさんに使っている為に印象に残っているということもあるが、美しくスライドを見せる心得をもっていてプレゼン能力の高さにとても驚いた。研究は決して自己満足ではいけなくて、他人に分かってもらう必要がある。それを伝える方法として最も多くとられる手段はプレゼンである。プレゼンが上手い=良い研究者とも言えるので今後は先生の発表に少しでも近づけるように努力したい。

ノーベル賞受賞者の講演―Avram Hershko, Aaron Ciechanover:
  Hershko先生はユビキチンの発見者で、今回は同時受賞者で師弟関係にあるCiechanover先生との連続発表だった。ユビキチンの発見は当初、タンパク質の合成にしか目がいっていなかった研究者達に、分解経路の示唆という新しい概念を与えた素晴らしい発見だと思う。彼らの発表から、お互いに尊敬し合い、そして幾度もディスカッションして研究を洗練し受賞内容の発見に至ったのだということが伝わってきた。つまり、研究を行う上で(もちろん一般社会でもだが)、良い上司あるいは良い弟子を持つことはとても素晴らしい成果を生み出すということだ。今回のお二人はそのお手本のような師弟関係であると感じた。彼らの姿勢を見習い、今後も研究を続けていきたい。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッションーRoger Tsien:
  個別の受賞者講演の際にもトップに名前を挙げたがRoger Tsien先生の個別のディスカッションはとても印象に残っており驚くべきものだった。Tsien先生の個別のディスカッションは、他の先生達のものとは少し異なり、Master Classというyoung researcherが講演し、その発表内容にTsien先生がアドバイスし、他の聞き手であるyoung researcherが質問するというものだった。発表者は各国から全員で5人いたがTsien先生はそれぞれの発表者の最後のスライドに研究内容に対するコメントとアドバイスを自作で持ってこられていた。つまり発表者のスライドを前もって読んできて考察し、今後の研究方針を考え指導するということをやってのけたのだ!それはノーベル賞受賞者と言わず、通常のPIが自分以外のラボのメンバーにそういった指導をすることは時間の余裕と人格がないとできないことであるのにも関わらず、Tsien先生はそれをやってのけた。こういった精神がノーベル賞受賞者のラボからノーベル賞受賞者が輩出される傾向を生み出すのであろう。私も今後Tsien先生のような研究者・指導者を目指して頑張っていきたいと思う。

諸外国の参加者との意見交換・討議:
  特に話をしたメンバーとして、アメリカ・カナダ・ドイツ・インド・中国・ネパール・ナイジェリア出身の人が挙げられる。気がついた点として、彼らは各国を代表するスーパーエリートだということだ。研究の環境は違うにせよ、彼らに共通することとしては積極性・社交性が非常に富んでいると言うことだ。しかし日本のメンバーも決して負けているとは思わず、日本人研究者はそれに加え独創性が富んでいるように感じた。彼らの優れている点は取り入れ成長し、我々の優れている点はどんどん生かして伸ばしていければと思う。


氏名 佐藤 千尋
所属 ワシントン大学セントルイス校・医学校・ポストドクトラルフェロー

ノーベル賞受賞者の講演―全体の印象:
  講演については大別して、自分の研究内容についてサイエンティフィックにストレートに語るものと、若手研究者に向けてのメッセージを主眼に置いたものの2種類のスタイルがあった。個人的には後者から、通常の学術会議では得られないようなより深い感銘を受けたが、いずれにせよ講演者に共通して感じられたのは、サイエンスへの純粋な情熱だった。
  複数のノーベル賞受賞者が共通して発信していたメッセージとしては、(1)curiosity-drivenの研究を行え、(2)失敗は避けられない(stick with your research)、(3)現実として最大のcreativityは30代、遅くとも40前に達成されるため、actionを起こすなら今だ、などが挙げられる。
  また受賞者たちはこのような会議の場や名声を最大限に利用して、global healthや環境問題などに関する重要なメッセージを社会に発信しており、特に高齢の科学者に関しては、科学者としての責任感、使命感の感じられるメッセージが多く感銘を受けた。リンダウ会議にこれまで複数回参加している講演者も何人かおり、本会議にかける意気込みの感じられる素晴らしい講義が多かった。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッションー全体の印象:
  パネルディスカッションが司会者の進行の元である程度テーマに沿った秩序を保っていたのに対して、午後の個別セッションは司会者のいない全くのフリーなディスカッションだったため、若手研究者の質問によっては議論が収集のつかない方向へ進んだこともあったが、受賞者たちはどんな変化球にもうまく受け答えをしており、感心させられた。
  ディスカッションでの収穫は主に、(1)受賞者の研究に対するモチベーションや情熱をより近くで個人的に感じることができたこと、(2) curiosity-drivenの研究を行う隙間のある、もう少しゆったりとした時代に育って来た受賞者たちの考えに時代の差を感じながらも、古き良き時代の巨人たちの考えについて学ぶ事が出来たこと、(3)現代のサイエンスおよび世界の問題点について、特に発展途上国や女性の声を多く聞く事ができ、考えさせられたこと、の3点である。

会議への参加全体を通じて自分の中で変わった点、変わるきっかけとなった点など:
  本会議に参加して得た最も大きかったことは、人生をサイエンスに捧げる科学者たちへの心から尊敬の気持ちと、自分の初心を思い出す事ができたことだ。特にここ数年、アメリカで研究を行い、研究費確保や様々なコンペティションに追われ、「グラントの切れ目が縁の切れ目」というような現実を目にしてきた中で、いつのまにかサイエンスをビジネスのように感じるようになってしまった気がする。しかしリンダウ会議はサイエンスに情熱を注ぐ人間を大切にする、人間と人間が出会うことによって産まれるケミストリーを推奨する心温まる会議だった。熾烈な競争的資金獲得争いが避けられない現代のサイエンスの社会で、今回受賞者たちが強調していたcuriosity drivenを行う事は、一昔前よりも格段に難しくなっている。しかし真に社会を劇的に変えるような発見はcuriosity drivenな研究からしか産まれないことは今も昔も変わらない。今回思い出したこのようなことを今後決して忘れないようにしたい。
  また本会議では 発展途上国、女性の参加者の声を多く聞く事ができたのが貴重だった。これは通常の学術的な国際学会ではありえない比率で、世界の真の若手の研究人口を反映しているのだと感じた。例えば世界の人口問題、Global healthについてのパネルディスカッションでは、途上国に今後溢れる科学者の卵をいかに育てていくかなどが議論され、今後もし自分のラボを持ったときに発展途上国から人材をリクルートすることを想像すると興味深かった。また特に女性にとってfamily-workバランスは世界のどこでも同じ重要な課題であることを再認識したと共に、既にmother scientistとして日々格闘している多くの研究者たちには心から勇気づけられた。
  最後に、本会議で得た世界中の若手研究者とのネットワークはかけがえのない財産である。同志が世界中にいるのは非常に心強いことであり、また今後研究のコラボレーションを考えるときに、日本やアメリカだけでなく、ドイツやヨーロッパ、他の国にももっと気軽にアプローチしようと思った。世界は広い。

今後研究を進めていく上で参考となる点:
  既に何度か述べたが、複数のノーベル賞受賞者が強調していた、面白いと思う事をやれ、ポスドクでは分野を変えろ、競争はしてもしなくてもいいが、do not follow the crowd、失敗をたくさんしよう、研究をしていると必ずつらいときがやってくるが自分の考えを貫け、家族や人生を大切にしてenjoy lifeなどのメッセージは、今後研究を進める上で肝に銘じておきたいと思った。
  また自由な発想を擁護するcuriosity drivenな研究とは一見矛盾するが、ただ質の高い研究をするだけでなく、それがどのように社会に還元されていくかもっとよく考え、貢献できるかということを真剣に考えて討論することの大切さも学んだ。この議論をしてこそサイエンスの社会での場所が確保され、その中で自由な発想を育み守っていくことができると感じた。



氏名 塩田 真己
所属 ブリティッシュコロンビア大学バンクーバー前立腺センター・博士研究員

ノーベル賞受賞者の講演―全体の印象:
  ノーベル賞受賞者の講演は、どの講演も非常にエキサイティングで興味深いものであった。また、聴衆をひきつけて離さないプレゼンテーションには目を見張るものがあった。いずれの受賞者も世の中を変える大きな発見をした方々ばかりであったが、それぞれの大発見へのストーリーは、千差万別であった。また、発見までのストーリーを聞くと、大発見には、多くの場合、特に天才的なひらめきや才能が必要なわけではないことに気づかされた。しかし、一方、継続した努力や強い精神力が必要ということに改めて気づいた。また、新たな考え方や理念・概念を提唱するということは、既成の概念を否定することがあり、抵抗や批判に屈しない信念も必要であると感じられた。また、多くの受賞者のモチベーションが、社会貢献にあることを知り、感動および共感を覚えた。

ノーベル賞受賞者の講演―Ei-ichi Negishi:
  根岸博士は、2010年のノーベル化学賞の受賞者で、今回参加されたノーベル賞受賞者のなかで、唯一の日本人であった。化学は専門外のため、講演内容は正直よく分からなかったが、根岸博士の発見された根岸カップリングという技術の素晴らしさと、それを生み出すまでの苦労は非常によく理解できた。世の中から必要とされている技術があってもそれを開発することは、容易なことではない。それが出来たのも、根岸博士の社会貢献に対する姿勢と化学そのものに対する愛情によるものだと感じられる講演であった。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッション―全体の印象:
  これまでは、ノーベル賞受賞者というと雲の上の存在というイメージで、自分とは別次元の存在だと思っていたが、ノーベル賞受賞者の方々と直接話してみると、実際は普通の人間であると感じられた。一方、ノーベル賞受賞者の方々は、研究や人生に対する姿勢や考え方に見習うべき点が多くあると感じられた。具体的には、①自らの研究分野への興味や好奇心が旺盛である。②確固とした自らの見解や考え方を持っている。などである。と同時に、ノーベル賞受賞者の残した業績を考えるとそれを生み出すまでの労力ははかり知れないものであろうと容易に想像できた。

会議への参加全体を通じて自分の中で変わった点、変わるきっかけとなった点など:
  今回の会議で、同世代の研究者がどのように考えて行動しているかということを知り、非常に刺激になった。専門分野やキャリアの違いのためか、これまでの自分の周囲の研究者とは、大きく異なった考え方をしているように感じた。今後の研究において、協力関係や人間関係を構築する上で、大きな財産になると思う。
  また、今回の会議を通じて、世界の中なかで日本の科学のおかれている現状を伺い知ることが出来た。近年、世界経済において中国やインドといった新興国の台頭が目覚しい。今回の会議でも中国やインドの若手研究者の存在が目立っていた。日本は、天然資源が少なく、科学技術や人材が大きな資源である。将来的に、日本が国際社会に貢献するためには、これらを最大限に生かすことが重要と思われる。



氏名 関田 洋一
所属 ケンブリッジ大学・産婦人科・ポスドク

ノーベル賞受賞者の講演―全体の印象:
  講演者によって、ノーベル賞の受賞理由となった研究についての発表であったり、現在進行形の最新情報の発表であったり、または社会の中での科学のはたす役割についてであったりと、多様な発表であった。そのような中でもどの発表者にも共通していたことは、自分の興味をとことん追求する真摯な態度であり、学ぶところが多かった。何人かの講演者は、ノーベル賞受賞はたまたまであり、各人の興味を追求することの大切さを強調していたことは印象深い。

ノーベル賞受賞者の講演―Oliver Smithies:
  ノーベル賞受賞理由は、 遺伝子相同組換え法の開発であるが、彼はゲル電気泳動法を開発したり、ピペットマンの開発に取り組んだりと、自分の実験の遂行に必要なものを自分で作り出す創作力に感銘を受けた。彼の「I am still a child of science」という言葉と、いつになってもきちんとノートを取る(本人にしか解読することはできなさそうだが)姿勢は、見習わなければいけないと思った。

諸外国の参加者との意見交換・討議:
  世界80カ国という多様性の中で議論する機会はなかなかないので、大変有意義であった。たとえば、本会議のテーマであった「Global Health」という観点では、個人的にザンビア出身の方やバングラディシュから来られたか方々とface to faceで会話をして、今まであまり真剣に考えたことのないマラリアの深刻さを知れたことは自分の中で良い経験となった。また、そういった発展途上国の国でも、特に大都市部では、肥満や2型糖尿病が大きな問題となっているという事実は、目から鱗が落ちる思いがした。
  また、多くの人々と会話をしていると、たまに自分の研究領域と近い分野の方と話をすることもあり、そのような中で自分達の実験について考えを交換し、自分の考えていることを改めて整理するきっかけとなり良かった。さらに、自分が計画している特定の実験計画をすでに行っているという方からは、詳細なアドバイスをもらうことができて、良かった。

今後研究を進めていく上で参考となる点:
  まず、自分が問題だと思うことや不思議だと思う現象で、その解決にすべてをつぎ込む覚悟(セカンドエフォートではない取り組み)が持てるほどのものをみつけることが大切である。良い科学者とは、問題解決能力に優れているのではなく、問題発見能力に優れている、という言葉を思い出した。仮説を立てる時には、決めつけるようなことはせずに、多くの可能性を考えておくことが大切である。
  世界には様々な問題があり、必ずしもそれらの問題に関わるような研究をしなくてはいけないということはないが、多くの問題を知り、頭の片隅に置いておけば、研究領域が広がったり、思わぬ解決策につながったりすることがある。
  ノーベル賞受賞者であっても一人で出来ることは限られており、共同研究者とうまく付き合って行くことは、研究の推進にとって重要である。
  また科学者には社会に対する責任があることも忘れてはいけない。自分の携わる研究の負の側面も常に考え、場合によってはその研究を打ち切るだけの覚悟を持たなくてはいけない。



氏名 田中 敦
所属 東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科・助教

ノーベル賞受賞者の講演―全体の印象:
  講演の内容は各々の受賞者に一任されるらしく、研究の歴史を紐解く内容や、現在進行形の研究をメインに紹介するもの、自身の研究哲学を披露するなど、多岐に渡るものであった。その中でも共通して繰り返し示されたメッセージは、如何に将来発展すると思われるような研究対象を見つけるべきか、また如何に若手研究者の時点で良いメンター(研究指導者)を見つけるか、であった。この会議の参加者の多くが博士課程在学中の学生もしくはキャリアをスタートさせたばかりの若手研究者であることを考えるに、受賞者からのメッセージは彼らの心に熱く響いたに違いない。多くの受賞者が講演後に開かれるディスカッションの時間に、若手の質問に真摯に答える姿も印象に残った。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッション―Aaron Ciechanover:
  私自身の研究分野であるオートファジーは、ユビキチン・プロテアソーム分解系と共に細胞内の分解、自浄作用を促す系であり、Ciechanover 博士にオートファジーについての展望をどう考えているかを問うたところ、近年明らかにされつつあるユビキチン系とオートファジー系の密接な関係性が注目されるところであり、それぞれの分子機構や標的を区別するシステムに興味があるとのことであった。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッション―Christian De Duve:
  参加者の多くは学生であり、良いメンターを見つけることに興味が終始していたが、「助教として学生を教育、またはスタッフを率いる立場となった自分に、Mentoring についての秘訣を教えて下さい。」と問うたところ、「常にサイエンスは実験ベンチの上で進むものであり、勉強机では進むものではない。自分のスタッフ、学生と共にでき得るだけベンチサイドで指導をしなさい。」との言葉を頂いた。サイエンスを追求する喜びや苦労を、自分の学生やスタッフと共に味わうことがMentor として最も大切にすべきであることと学んだ。

今後研究を進めていく上で参考となる点:
  前述のように、メンターとしての指針、キャリア展開の上での各国の情報を得ることの重要さ、そして何より受賞者の講演とディスカッションから感じた、サイエンスに携わることの純粋な喜びを、この会議で得られたように思う。
  今回のようなたくさんの受賞者に一度に邂逅できる機会は、人生を通してめったにないことであり、そのような場に自分の身を置けたことを幸運に思うと共に、今後の研究生活におけるモチベーションとしていけたらと思う。
  研究をすすめる上では、各々の受賞者が独自に確立した“研究哲学”といったものを、自分の研究哲学として昇華することができたらと考えている。常に世界を意識し、その中での自分の研究の立ち位置、意義を意識することが最重要であると考えられるようになった。



氏名 津野 祐輔
所属 ボストン大学・心理学部・博士研究員

ノーベル賞受賞者の講演―Ferid Murad:
  彼は、Nitric Oxide(NO)が生体内でシグナルとして用いられていることを発見した。彼こそ、まぎれもなく強靭なる精神の持ち主である。どんなに回りから馬鹿にされようと、誰からも信じられなくても、全く構わず自分の信じる道を進んだ結果が、ノーベル賞である。感動で涙が出そうであった。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッションー全体の印象:
  会によって参加者数がまちまちであった。人数の少ないセッションでは、ノーベル賞受賞者と密なやりとりができ、身近に感じることができた。人数の多いセッションでも、興味深い議論が展開された。議論は大変活発であった。

今後研究を進めていく上で参考となる点:
  ひたすら、自分の信じる道を進むことが重要であることを、再確認することができた。私は記憶のメカニズムに興味を持っており、特にアセチルコリン系を調べていくことに決めている。ノーベル賞受賞者たちを見て、ある一点に集中してひたすら攻めることが、研究を行う上で正しい道であることを再確認し、今のまま進んで行けばよいという自信が持てた。ノーベル賞は決して雲の上の存在ではなく、我々の手の届くところにあるのだと確信した。地道にいい研究を行うよう心がけていきたいと思う。

今回の派遣を通じて得た成果を今後如何に日本国内で還元できると思いますか?:
  いい研究を行う哲学「やりたいことをやる」「知りたいことをとことん突き詰める」を再確認できたことで、今後自信を持って研究を進めていくことができると思う。ノーベル賞は目的ではなく結果であり、質の高い研究を行うことが最も肝要であると教わった。この会議で得た人との関係性により、世界各国の人とつながりを持つことができ、将来の共同研究へと発展する可能性もある。このかけがえのない経験と関係性は、地道な所で、日本のサイエンスのレベルの上昇につながると確信する。日本は島国であり、日常生活において他国の人との直接的なインタラクションを必要とせず、国際的感覚から取り残される傾向が強い。そこで、他国との関係性を作ることが急務である。それこそが、我が国に決定的に欠けている所である。このような機会を設け、日本の若手研究者が他国の人とインタラクションし関係性を作ることは、大変意義のあることであり、推進すべきであると思う。



氏名 中村 修一
所属 東北大学・大学院工学研究科・助教

ノーベル賞受賞者の講演―全体の印象:
  ノーベル賞受賞者の講演は、研究内容の紹介を行ったり、自らの研究生活を振り返ったりとスタイルは様々であったが、数々の講演を行ってきた受賞者のスピーチは、どれも聴衆を惹きつけるエキサイティングなもので、若手研究者への大きな期待と、全人類の健康と平和への願いをすべての受賞者の講演から感じた。印象的であったのは、多くの受賞者が、ノーベル賞受賞そのものより、これまでの研究生活における人との関わりや共同研究に関するストーリーを実に楽しげに語っていたことである。ノーベル賞受賞に至るまでに、多くの研究者のサポートや努力があったのだろう。
  若手研究者の席はメインホールの前部に設けられ、受賞者の近くで聴講できるよう、配慮されていた。各国から選ばれた参加者が熱心に聞き入る姿が印象的であった。
         
ノーベル賞受賞者の講演―Ada E.Yonath:
  Yonath博士が構造解析を行ったリボソームは、蛋白質の翻訳という生物共通の重要機能を担う分子機械である。複数のサブユニットが集合して作られる分子内トンネルにメッセンジャーRNAをはめ込み、次から次へとトランスファーRNAを呼び込んでスムーズな転写反応を行う仕組みは、その複雑な構造と分子間相互作用によって生み出されるものである。抗生物質の中にはリボソームの転写反応を阻害するものも多くある。Yonath博士によって解かれたリボソームの構造は、抗生物質の作用機序の解明や新薬開発の基盤知識となるものである。博士は、リボソームの結晶構造を解明するまでの道のりを、頂上に近づくほど、より困難な問題が立ちはだかるエベレスト登山に例えられた。これから多くの高いサイエンスの山々に立ち向かうであろう若手研究者を激励する力強い講演であった。

諸外国の参加者との意見交換・討議:
  今回の会議が医学生理学賞の集会ということもあり、私が話した多くは、癌、糖尿病、高血圧などの疾病に関する研究、幹細胞の研究、神経細胞の研究を行う学生やポスドクであった。私は生物物理学を専門とし、生体分子モーターの動態計測を行っているため、日頃参加する学会とは異なる研究内容に興味を持った。高血圧に関わるアンジオテンシンの機能解析をラットで行っているスペインの大学院生や、フローサイトメトリーやPCRを使って癌の治療薬に関する研究を行っているドイツのポスドクなど、手法もテーマも様々であった。私がテーマとする分子モーターや将来のナノマシン開発に関する話は、医学分野の学生にとって逆に興味深いものであったようで、病原細菌の運動(私はサルモネラ菌の運動機能に関する研究を行っている)が感染に重要である話などで盛り上がった。研究以外にも、学位取得後の進路や、プライベートな時間の過ごし方などについて話し合った。

会議への参加全体を通じて自分の中で変わった点、変わるきっかけとなった点など:
  リンダウ会議では、参加者同士が触れ合う時間が多く設けられている。各国で精力的に研究活動を行う同世代の研究者とともに過ごすことは、特に海外留学等を考える学生や研究者にとっては非常に貴重な情報収集の機会ともなる。現在、東北大学で助教の職につく私も、海外で働いてみたいと思うほどであった。
  ノーベル賞受賞者が私たちに贈るメッセージは、どれも「とにかく研究を楽しみなさい」ということである。数十年の間、本気でサイエンスを楽しみ続け、受賞者という立場になってその存在や発言が世界を動かすものとなっても子供のような好奇心を忘れない大人たちを、この会議中にたくさん見た気がする。未だにベンチの前でピペットを持ち続けるO.Smithies博士はその典型である。誰も見たことがない現象を初めて見て、そのしくみを自分の手で解き明かすことができるという研究者の特権を楽しみながら、研究者としての責務を果たすとはどういうことか、真剣に考えるきっかけとなった。


氏名 藤本 美智子
所属 米国立衛生研究所・国立薬物乱用研究所・ポスドク

ノーベル賞受賞者の講演―全体の印象:
  本会議の理念は”Educate. Inspire. Connect”であり、講演は各ノーベル賞受賞者の研究成果のみに留まらず、研究を進める上で大切な考え方やモットー、どのような試行錯誤を経て結果を出したのか、など我々と同年代の頃を想像できる興味深い内容が盛り沢山であった。またノーベル賞受賞後の科学の啓蒙活動や、研究者としてのライフスタイルに至るまで、研究および人生の先輩に学ぶことが多々あった。
  1週間にわたって行われた各受賞者からのPlenary Lectureの数は20を超え、直接聴講することで、一人一人の受賞者の研究人生がより鮮明に記憶に残った。知識や経験を伝えようとされている気持ちが伝わってくる講演であった。自分もいつかこのように研究を通して自身の経験を伝え、誰かの役に立てれば幸いである。
研究を続けることに対し、いずれの受賞者も我々若手研究者に希望を持たせて下さったと感じる。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッションー全体の印象:
  午前中に行われたパネルディスカッションでの質疑応答に加え、午後には連日各ノーベル賞受賞者と一室で討論する機会があり、一緒に食事をしながら歓談するチャンスが訪れることもあった。各受賞者から生の意見を聞くことができたのは、その思考過程を同じ空間で共有することができたという点で貴重な経験であった。他の若手研究者からの良質な質問を聞く機会も多く、自分と異なる視点で課題を捉えており大変参考になった。幸い、自分の興味ある分野の討論に参加することができ、同じ疑問を感じている仲間がいることを知り、漠然とではあるが自分の研究の方向性について少し自信を持つことができた。日頃の実験では予想通りの結果が得られないことも多いが、多くの研究者と意見を交わすことで研究へのモチベーションが上がることを実感した。

ノーベル賞受賞者とのディスカッション・セッションーHarald zur Hausen:
  朝食をご一緒させて頂く機会があり、本会議の印象や現在の研究内容、また今後の進路について、他の若手研究者と共に歓談を満喫した。近年注目されているトランスレーショナルリサーチ(基礎と臨床の橋渡し研究)について、子宮頸癌の病態解明からワクチン開発に至るまでをご存知の受賞者からは、基礎研究なくして研究の発展はなく、まずは基礎研究を行うことの大切さを教えて頂いた。私は現在基礎研究を行っているが、予想通りに実験結果が出るものではなく、研究成果を臨床に繋げるまでの長期にわたる受賞者のご苦労は計り知れない。受賞者からご経験をふまえ直接ご意見を聞かせて頂くことが、私の財産となった。

諸外国の参加者との意見交換・討議:
  今回77カ国から500名以上の若手研究者が参加し、聴講時の隣の席は毎日新しい顔ぶれで、夕食時のイベントでも毎回異なるメンバーでテーブルを囲む状況であった。居住地や研究の話をすると、いつも新鮮な情報を耳にすることができ、仲間と出会うことで知識も視野も広がったように思う。今年は医学・生理学分野対象の会であったため、若手研究者同士、程良く似ていて程良く異なっている各々の研究について会話ができたように感じる。例えば、私は細胞内の小胞体に多く存在する受容体について、神経精神疾患との関連を研究しているが、別の受容体の機能を研究している仲間から研究手法を聞いたり、小胞体機能について自分とは別の疾患との関連を研究していることを知ったり、神経内科分野での臨床研究を教えてもらったりと、共通点を持ちながら研究についての会話を楽しむことができた。
  また、自分が訪れたことのない国について、その国出身の人と初めて出会うという経験もした。日常生活で2種類以上の言語を使用している仲間との会話では、どのようにそれらを使い分けているのかという話題が興味深く、他国の文化を知ることができた。
  進路について、海外からの参加者の中には、MD/PhDコースに在籍中の者も少なくなかった。私が出会った中では、アメリカ在住もしくはアメリカ留学により学位を取得している研究者が多かった。本コースでは、医師として研究を始めるまでの期間が最短であり、医学知識も身につけて研究できることが利点だという意見を聞いた。日本ではMD/PhDコースへの入学者がさほど多くはないが、本会議にて経験者からの意見を聞く機会が持てたことは有意義であった。