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リンダウ・ノーベル賞受賞者会議派遣事業

参加者の声

第59回参加者

第59回リンダウ・ノーベル賞受賞者会議 報告書

日本学術振興会の支援による参加者の報告書より抜粋

氏名 石川 紫
所属 The University of Queensland
専攻 分析化学
リンダウ会議領域 化学

今回参加させて頂いた会議の中で、最も印象的だった講演は、急な代講で可能となったMolina教授による講演です。Molina教授は、大気化学、特にオゾンの生成と分解に関する研究によって、Rowland教授ならびにCrutzen教授と共に1995年にノーベル化学賞を受賞されました。Molina教授の講演が行われた前日には、Rowland教授ならびにCrutzen教授による地球温暖化問題に関する講演が行われていましたので、今回のMolina教授による急な代講により、私にとっては、非常に幸運なことに、1995年の受賞者全員の講演が聴けることとなりました。幸運といいますのも、オゾン層破壊と温暖化現象というトピックは、周囲に研究者など全くいない、環境科学に関する最新情報などめったに届かないような片田舎の中学生だった私が、環境研究者を志したきっかけであり、前述の教授方は、私にとって非常に特別な存在だったからです。

今回の会議への参加を通じ、私がずっと自身に問い続けてきた問題をクリアにすることが出来たように感じています。これまでの20年弱、環境問題を追い続けてきましたが、追いかけても、追いかけても、追い付かず、ますます大きく膨張してく環境問題に、焦燥感や絶望感を感じ、慢性的に追い詰められた苦しさを感じながら研究している自分がありました。
「環境研究者が見ている対象と、社会が見ている対象のギャップを感じるか?」「それに対し、失望をすることはあるか?」「私たちは科学者としてなにができると思われるか?」など、これまで、誰かに問いたくて、しかし、誰に問いたらよいのか分からずにいた、自分の中の大きな疑問に対し、ノーベル賞受賞者の方々に直接質問し、意見を頂けたことは、私自身の精神の根幹に大きな強さを与えて下さったように感じています。

今回の会議では、受賞者の方々が、環境問題の解決のためには、エネルギー問題の解消と科学教育が重要であること、研究者と政治がもっと近い存在になっていく必要があることを、強く訴えられていました。私自身、科学情報が政策にもっと強く入り込んでいく必要があるのだろうと考え、今後はより政策対応型の研究者になっていきたいと思っていたところでしたので、今回の会議で得られた情報や、受賞者の先生方から頂いたコメントは、自分の考えと今後の自分の方向を強く支えてくれるものになると感じています。



氏名 金城 玲
所属 University of California, Riverside
専攻 有機化学
リンダウ会議領域 化学

これまで参加してきたどの学会のディスカッションスタイルとも異質なものであり、分野や年齢を問わず、どの研究者にとっても有意義になる貴重な時間であった。基本的には、午前の講演で話した内容に沿って、学生との質疑応答からディスカッションが始まったが、質疑の内容は専門的な化学の内容に留まらず、研究哲学から社会貢献の方法にまで多岐に渡るものであった。受賞者は、いずれの質問に対しても、丁寧かつ、学生聴者全体の為になるような返答へと展開しており、限られた時間の中で「研究者とは」「研究に向き合う姿勢とは」という若手研究者にとって今後の鍵となる研究の基盤を多く伝えており、密度の濃いディスカッション・セッションであった。

本会議全体を通して、「研究と教育」の関わりの重要性を学ぶことが出来た。科学研究はそれ自身が目的ではなく、研究を通して科学技術面だけではなく人類の想像力・創造性の質を向上すべき手段の一つであることを知った。その為には、目先の成果や論文に固執して研究を行うのではなく、その過程で常に人との関わり合いを尊重し、現代社会への貢献や次世代へ教授を意識しながら、真摯に研究に取り組むことこそが最も重要である。その結果として得られた成果を社会へ還元する責任を持って今後研究を進めていくべきだと感じた。この研究哲学を基盤に、基礎研究から応用への展開を目指したい。
一方、本会議で二度行われたパネルディスカッションの様子から、幅広い知識の重要性を感じることが出来た。受賞者は、自分の専門とは異なる分野のテーマに関しても、科学的視点からそれぞれの意見を持っており、自分が携わる研究以外の科学テーマ(環境問題や地球温暖化等)に関しても常時真剣に考えていることが分かった。科学者は研究だけを行えばいいと言うわけではなく、科学で如何に社会に貢献しようとしているか科学者の責任を考えた時、その手段の一つとして科学があることを理解し、科学的アプローチ以外にも関心を向け、それを研究にフィードバックさせる柔軟性と積極性が必要であると感じた。



氏名 髙根澤 和子
所属 東京大学
専攻 環境関連化学
リンダウ会議領域 化学

受賞者の先生方は、受賞のきっかけとなった研究の講演をされる方から、その後、何を目指して研究をやっているのかを話す先生もいた。受賞のきっかけとなる研究は、現在は広く世間に知られているものだが、それに行き着くまでのストーリや、失敗を繰り返しながらも前へ進んでいき、成功した話などを聞けてとても、新鮮だった。一般的な講演と違い、受賞者の先生方の講演には1フレーズごとに重みを感じた。

Molina先生とは、Officialなディスカッションの場以外にも、個人的にお話をさせていただいた。環境問題は、「問題が大きすぎ、政治的や経済的な比重が大きすぎる」という点について話をした。地球が危機的状況にあるにも関わらず、各国の政府政策により、問題がクローズアップされたり、経済発展を何よりも最優先にする政策に変わったりすることは非常に問題であるという事を話し合った。
環境問題は個人個人の認識が一番大切であるが、我々研究者は、自分の専門知識を生かしてその問題に取り組んでいくことができる。Molina先生とのディスカッションで研究者として自分のできる事を、意識してこれから生活していきたいと決めた。

リンダウ会議では、一般的な学術学会とは違い、サイエンスの領域だけでなく、研究に対するモチベーション考え方について多く学んだ。良い研究をするためには知識の他に、良い仲間や良いライバル、高いモチベーションが必要である。それらの必要性を再認識すると共に、これからの研究を担っていく若手研究者とのつながりを作る事ができた。 世界中に研究者の友人がおり、相談や話ができる事は非常に大きな財産だと思う。それらのつながりを生かし、研究や開発を行っていきたいと思う。また、今回の会議で、日本のエコロジーに対する認識の高さを再認識した。日本国内にいると、日本の良さを感じるのは難しいが、今回改めて、日本の太陽電池や、低エネルギーの公共交通機関、その他のエネルギー技術の高さに気づいた。それらを世界中へ広め、リーダーシップをとっていきたいと感じた。



氏名 谷口 透
所属 Harvard University
専攻 生物分子科学
リンダウ会議領域 化学

講演者の多くは、受賞対象の研究について話すよりもむしろ、ノーベル賞受賞者としての立場から社会に対してメッセージ性の高い内容を講演されておられました。地球温暖化やエネルギー問題の対策は私も常に高い関心を払っており、大変興味深く拝聴させていただきました。講演者ごとに異なる視点から問題をとらえていたものの、明快かつ実行可能な解決策が未だ見えていないことに、一科学者として深く考えさせられるものでした。純粋な科学としての講演も興味深かったものの、その研究の着想、遂行に至る経緯や失敗談など、既存の出版物には掲載されていない事項についても伺うことができればより良かったと感じます。また、講演のところどころに専門的な概念を身近な例を用いて説明している箇所があり、普段からいかに非専門家に理解しやすいように発表するかについて心がけることの重要性を学びました。

若手研究者同士の交流は私が特に楽しみにしていたものでした。期待通り参加者は意欲に溢れ、また積極的に周りと交流しようという素晴らしい雰囲気がありました。同年代の研究者として気さくに接し合い、その中の数名とは現在でも交流が続いており、本会に参加したことがこのような形で残っていることを嬉しく思います。このような交流は国際会議参加時の醍醐味の一つであると思うのですが、本会ではそれをサポートする学会側の支援(名刺の配布、携帯電話の配布など)も卓越したものがありました。



氏名 橋本 徹
所属 京都大学
専攻 有機化学
リンダウ会議領域 化学

インターネットを使って世界配信されるなど、この会議の注目の高さに驚かされました。講演の内容もノーベル賞受賞者の個性が強く反映されたもので、研究テーマについて熱く説明する受賞者から、自作の映画を披露する受賞者まで様々で、笑いの絶えないものでした。研究分野によってスライドの構成も大きく異なり、様々な分野の世界一流の研究者の発表を、同時に見られたことは自分にとって大きな財産になりました。自分の研究を、全く専門外とする人にどう説明するか、どう魅せるか今まであまり考えることがありませんでしたが、ノーベル賞受賞者らの講演を通して、そのことの大切さを痛感しました。

この会議に参加する前までは、研究者として世界を渡り歩いていくためには、自分の研究だけをとにかく極めていけばいいものだと考えていました。今回この会議に参加して、それと同じくらい社会的問題(世界政治・経済、文化あるいは宗教)にも、精通している必要もあるのだと強く感じました。科学の知識のみならず、今回の会議のパネルディスカッションのテーマであった環境問題、さらには教育、文化など、社会とのつながりを意識した上での研究を行っていく必要性を学んだような気がしました。

幸運な事に、今回このような様々な研究テーマをバックグラウンドに持った研究者が参加する会議に参加でき、自分の研究テーマと平和、文化、教育など社会とのつながりを強く意識させられ、またその大切さを考える機会を得られた事はとても大きな財産のような気がしました。
学位習得後、私も積極的に海外に身を置き研究し、海外の優秀な研究者たちと切磋琢磨することで、国際的に活躍できるように広い視野と柔軟な発想を磨いていかなければならないと、今回一緒に参加した日本人研究者の皆さんと接していく中で感じました。