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最近の研究結果

 科研費により支援する学術研究では、毎年度、数多くの優れた研究成果が生み出されています。文部科学省及び日本学術振興会では、四半期毎に「科研費NEWS」を発行し、「最近のユニークな研究成果の例」として、科研費による研究成果の一部をご紹介しています。

 このコーナーでは、過去に「科研費NEWS」で掲載された「最近のユニークな研究成果の例」を分野毎に紹介しています。


人文・社会系理工系生物系


生物系(生物学)

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ミトコンドリア遺伝子の突然変異が、がん転移を誘発することを発見
-抗酸化剤による抑制効果も解明-

筑波大学大学院生命環境科学研究科教授 林 純一

【研究の背景】

 ミトコンドリアは、酸素呼吸により生命活動に必要なエネルギー合成の役割を担う細胞小器官です。ミトコンドリアには、核のゲノム(核DNA)とは異なる独自のゲノム(mtDNA)が存在しており、正常な酸素呼吸を営むためには両ゲノムの遺伝子が調和を持って作用しなければなりません。
 近年、mtDNAの病原性突然変異(呼吸活性を低下させる)が、糖尿病などの生活習慣病、さらには老化やがん化の原因にもなるという報告が相次ぎ、大きな注目を集めるようになりました。しかし、いずれの報告も状況証拠に基づいたものでした。
 この重大な問題にこれまで直接的証拠を提示できなかったのは、ミトコンドリアの呼吸機能が両ゲノムの二重支配を受けているためです。つまり、老化やがん化した細胞のmtDNAに病原性突然変異が存在することを示しても、その本当の原因が核DNAの病原性突然変異である可能性を否定できないからです。

【研究の成果】

 この問題を解決するため、私たちは、老いた細胞と若い細胞、がん細胞と正常細胞の間でmtDNAだけを交換移植した時、その細胞の表現型がmtDNAの遺伝子型と常に一致するかどうかを調べてきました。その結果、老化やがん化のいずれの表現型もmtDNAではなく核DNAの遺伝子型と一致していました。
 しかし、今回、同じ方法を使って、がん細胞が持つ重大な表現型の一つである転移能に着目したところ、「特殊」な病原性突然変異をもつmtDNAの遺伝子型と一致することを発見しました(図1)。
 この「特殊」というのは、呼吸活性を低下させるだけでなく、同時に活性酸素種も大量に発生させるという点であり、活性酸素種を除去する抗酸化剤で処理することによって、がん転移が抑制されることも突き止めました。

【今後の展望】

 今回の成果は、マウスやヒトの一部のがん細胞での結果ですが、もし、このことがヒトのがん転移に普遍的な現象であれば、抗酸化剤を用いることにより、多くのがん患者でがん転移の抑制が期待できます。
 今後は、今回マウスのがん細胞で発見した転移を誘発する病原性突然変異型mtDNAだけを導入したミトコンドリア移植マウスを作製することにより、がん転移の病態モデルとして活用することを計画しています。

【活用された科研費】

平成14―18年度 学術創成研究「ミトコンドリアDNA突然変異導入モデルマウスを用いた病態発症機構の解明」
平成14―18年度 特定領域研究「ミトコンドリアtRNA遺伝子突然変異導入マウスの病態解析と遺伝子治療」
平成19―23年度 基盤研究(S)「突然変異導入マウス作製による哺乳類ミトコンドリアゲノムの生理的役割の全貌解明」

図1

図1 転移能が異なるがん細胞間でmtDNAを完全置換することによりmtDNAの突然変異が転移能獲得の原因になることを証明

※所属・職名は執筆時のものです。

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