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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



最新号 No.96(平成29年2月発行)

「人文研での共同研究と科研費」

竹沢 泰子 先生
竹沢 泰子
京都大学 人文科学研究所 教授
平成28年度に実施している研究テーマ:
「人種化のプロセスとメカニズムに関する複合的研究 」(基盤研究(S))

私が勤務する人文科学研究所(通称、人文研)は、人文系としては、日本最古の共同研究の歴史をもち、国内最大規模のスタッフを抱える京大内の研究所である。人文研の教授の主たる義務は共同研究を主宰すること。私と科研費のつながりは、人文研での共同研究を抜きにしては語れない。
   前任校勤務時代に、先輩の先生方の科研費研究グループに仲間入りさせていただいたことや、基盤研究(C)を個人研究に利用させていただいたことはあった。1999年に現在の勤務先に着任し、2001年に当時助教授ながら共同研究班をもたせてもらって以来、文化人類学で応募して、基盤研究(B)、基盤研究(A)、基盤研究(S)、そして現在は二度目の基盤研究(S)と、在外期間中以外はほぼ途切れることなく研究代表として科研費のお世話になっている。
   全国共同利用・共同研究の拠点となった今でこそ多少の予算はつくようになったが、人文研に着任した頃、一部の科研費をもつ研究班以外では、いわゆる「手弁当」方式で共同研究会が運営されていた。しかしそのような手弁当方式は、有名な教授主宰の研究会でこそ成立しうるものである。中堅研究者で、拙著を目に留めていただいただけの縁で関東から一人の顔見知りもいないまま飛び込んできた私には、手弁当で人が集まるとは思えなかった。しかも当時ただひとりの女性教員だった私には、男性同僚たちがもつネットワークもなかった。たったひとりでのゼロからのスタートだったのである。
   しかしどうせゼロからなら、この分野の国内のトップクラスの研究者で組みたい、海外のトップクラスの研究者も招聘したい。それを唯一可能にしてくれるのが科研費だった。こうして各分野の第一線で活躍する研究者に連絡をとり、2001年、日本で初めて(社会的構築物としての)「人種」に関する共同研究を立ち上げた。2002年には、国際人類学民族学会議の京都会議として、国立京都国際会館で「人種概念の普遍性を問う」と題した国際シンポジウムを開催した。会議の内容は英字新聞やNHKラジオ放送も含めていくつかのメディアでも取り上げられ、その成果は数年後、同題の論文集として出版された。
   それ以降、海外では大きな学問領域を形成している人種研究のなかで、テーマを変えながら成果を出し、現在の二度目の基盤研究(S)に至っている。
   最初の基盤研究(B)から現在に至るまで、研究テーマの横糸になってきたのは、学際性(文理融合)と国際性である。アメリカでの大学院時代、文化人類学だけでなく、自然・生物人類学トレーニングを少々受けたお陰で、理系(とくに自然・生物人類学や遺伝学)に対する心理的バリアがほとんどなくなった。人文系のアプローチとはいえ、生物学的人種の存在を否定する以上、趣旨を理解してくれる科学者の協力は不可欠だった。また2005年度にマサチューセッツ工科大学とハーバード大学で授業・研究を行う機会があったが、その時築いたネットワークは、科研費のお陰で、その後途絶えることなく維持され、雪だるま式に拡大することができた。現在までに、五大陸にある諸大学・研究機関と学術交流をもち、アメリカの大学出版会からの論文集、オーストラリアの学術雑誌の特集号も含めて成果が刊行されている。
   研究代表者として常に意識していることは、科研費の使用方法、共同研究の企画・運営、海外の研究者との円滑な連絡・招聘時のもてなし、研究費の少ない数多くの人文系研究者(とくに若手)への機会と研究費の提供、身の回りのスタッフへの配慮・待遇、海外の出版社とのタフな交渉、全体のさまざまな人間関係をなるべく平和に治めることなどである。加えて、編者として論文集をまとめあげ、総括的・理論的な序論(総論)を書くこと、そして一研究者として実証研究も示すことなど、大型プロジェクトの代表であれば誰もが経験する、常に多方面の人間関係に配慮しながら、自分も恥ずかしくない業績を上げるというチャレンジをつづけてきた。目標を達成できた時に仲間と共に喜びを分かち合えることが共同研究の醍醐味である。
   ゼロからスタートした私にとって、科研費があってこそ実現できた共同研究と成果発表・出版である。成果を出せばフェアに評価していただき、次につなげることができたことを深く感謝している。
   2015年6月、文科省が人文社会科学系の組織の廃止・転換を求める通知を出して物議を醸し、その後同省が釈明に追われたことがあった。基盤研究(S)も近年の採択課題をみると、人文社会科学系、とくに人文系の急減が気になる(年度によっては1件のみ)。実学・応用色の濃い学問だけではなく、一見役に立ちそうにない学問こそ、理系も含めて物の見方や枠組みの設定の転換につながりうると確信している。
   
(注)共同研究の内容の一部については、科研費NEWS2015, vol.2をご覧いただきたい。
http://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/22_letter/data/news_2015_vol2/p05.pdf

※所属・職名は執筆時のものです。

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