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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.77(平成27年6月発行)

「科研費だけの時代から、科研費こそが必要な時代へ」

河田 聡 大阪大学特別教授・応用物理学会会長
河田 聡
大阪大学特別教授・応用物理学会会長

平成27 年度に実施している研究テーマ:
「金属ナノ粒子による細胞内分子イメージング」(特別推進研究)

私の世代の人は皆同じだと思いますが、大学に所属して研究をするための予算といえば科研費が全てでした。当時の科研費はまだかなり使いにくくて、学会発表の出張費には使うことが難しかったり、単年度の補助金であったために年度末には生協に行って消しゴムやクリップを購入して予算を使い切るという風潮もありました。当時は海外で学会発表することのできる予算がなかったので、旅費や滞在費や参加費は個人で負担していました。幸い、民間の財団の助成金は発表旅費や参加費、海外渡航費にも使うことができ、大変助けられました。いろいろ不満はあったものの、それでも科研費だけが大学人の唯一の研究予算であり、それが全てでした。大学も学振も法人化して、いまでは制度的に随分改善したのではないでしょうか?
    当時の科研費は、基本的には一般研究と試験研究の二本立てでした。この二つを獲得してはじめて、研究ができます。採択されなければ、折角の計画も絵に描いた餅です。大変ありがたいことに、私はほぼ毎回採択していただきましたが、科研費がなければ研究もできず、論文をも書けず昇進もなかったことでしょう。
    教授になって、特定領域研究(重点領域研究)の申請をしたところ、幸いにも採択をしていただきました。まだ45 歳の時のことでした。「ニアフィールド・ナノ光学」というタイトルでした。この大型チーム科研費のお陰で日本にナノフォトニクス分野を構築することができ、また日本がこの分野で世界をリードすることができました。特定領域研究(重点領域研究)を実施している間は、日本の色んなところで研究合宿しました。仲間も増え、評価委員の先生にも来ていただき、また毎回各国の著名人も呼んで、まさにシンポジウムです。楽しかったですね。
    そのうちに科学技術基本法が制定されて、科学者達は突然に桁はずれに豊かになりました。ある雑誌に「頭脳の棺桶」と皮肉られた大学も、研究費だけに関しては豊かになりました。私もCREST に2 回採択されて、未来開拓学術研究推進事業やスーパーCOE の阪大フロンティア研究機構などのプロジェクトのPI(Principal Investigator:研究代表者)もさせていただきました。
    大型プロジェクトに採択していただいている間は科研費に申請できませんでしたので、科研費や様々な助成金の審査委員に指名されました。極めつきは学振の学術システム研究センター研究員を担当させていただいたことでした。これは大変勉強になりました。事務の方々は研究現場が見えない、我々研究者は事務的な規則が分からない、ということでいつも激論を交わしていました。このせっかくの本質的な激論が、政治家はもとより財務省や会計検査院にも届くことはなく、フラストレーションが溜まりました。それでも審査委員候補者を選考する作業のいわゆる夏の陣と、科研費の審査会を進行していくいわゆる冬の陣と、さらにそれ以外にも審査の手伝いなどで年中、一番町の学振に通って異分野の先生方と楽しく実りある交流をし、とてもいい経験をさせていただきました。
    いま日本からの科学論文数は、世界の中で特異的に減少しています。科学技術基本法と総合科学技術・イノベーション会議の果たした役割はなんだったのか、総括をする時期が来ていると思います。巨額の研究予算プロジェクトが次々と生まれてくるものの、それらは限られた分野・テーマに偏り、じっくりと未来を見据えた研究にはなかなか配分されません。論文発表後1年から2年後の引用件数を競うインパクトファクターは近視眼的なメジャーであり、これを重要視しすぎると、長期的視野を見失います。産学連携についても、既存の大企業と大学人との産学連携が求められるため、ベンチャースピリッツに欠けます。これらの政策設計指針の欠陥と今の日本の科学論文数の停滞・減少は、無関係ではないと思います。
    JSPS とJST、そしてNEDO などのファンディング・エイジェンシーのそれぞれの役割の違いについて、研究者もエイジェンシー自身も正しく理解できていないのではないかと思うときがあります。互いに重複・競合しているように見える趣旨のプロジェクトが存在したり、研究者が類似の提案書を複数のエイジェンシーに提出するケースが見られます。
    最近、イノベーションとかスーパーとかグローバルなどと言った言葉が、安易にそしてとても軽く使われます。そんな今こそ一人であるいは少人数で、成果主義に陥ることなくじっくりと新しい科学を模索する大学人を助成する「科研費」が必要です。日々忙しく大勢の学生を教育しながら限られた時間と予算で科学する大学人こそが、流行に惑わされない未来の科学を生み出すと私は信じています。

※所属・職名は執筆時のものです。

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