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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.75(平成27年4月発行)

「科研費の想い出」

會田勝美 東京大学名誉教授
會田 勝美
東京大学名誉教授・ (独)日本学術振興会前監事

私の科研費との想い出は2つに大別できる。一つは科研費本来の目的である研究支援を、若手研究者の時から定年で大学を退職するまで、受けたこと。もう一つは、その後、(独)日本学術振興会(以下「学振」という。)学術システム研究センターの農学主任研究員を拝命し、科研費の説明会のため全国を回り、監事になる前の2年半で合計50回の説明会を行ったことである。
   私は東京大学大学院農学系研究科水産学専門課程の博士課程を修了し、特定研究員として1か月間支援していただいた。これが学振との最初の出会いである。当時、学振は四谷のヤマトビルにあった。その後、助手時代から教授として定年を迎えるまで、科研費による研究費の支援をいただいた。私は高校時代の生物学には全く興味がわかず、理科は物理と化学で大学を受験した。しかし、大学3年生の夏の水産実習で長崎にある西海区水産研究所で雄から雌に性転換をするコチという魚に出会ったことから(それまでは遺伝的に雌雄が決まると教えられていたので、びっくりした。)、性転換の謎に興味を持ち、生理学の研究室に卒論で入れていただいた。これが、私が生物学に目覚める契機となった。水産の世界ではちょうど、海産魚の種苗生産の研究が始まったころで、これを研究していた先生が、クロダイという雄から雌に性転換をする海産魚の種苗生産に世界で初めて成功した。残った約2cmに育った稚魚をいただいてクロダイの早期雌性化の研究を卒論としてすることができた。それから定年まで魚類の性成熟機構に関する研究を続けた。早期雌性化の実験には雌性ホルモンを餌に微量混ぜて投与し、早期雌性化は出来たのだが、サンプリングの際に血液も採取しておいたらと言われ、その後、電気泳動をしたら雌性ホルモンを投与した群だけ、ある血清タンパクが異常に増加していることを発見した。これは肝臓で作られて血中に分泌された卵黄蛋白前駆物質ではないかと思い、当時の指導教官に申し上げたら「そのような報告はない」と却下された。しかし、現在ではこれが定説になっている。その後、職を得てからは、魚類の生殖機構に関する研究を続けたのだが、その遂行には科研費のお世話になりっぱなしであった。とくに教授になってからはランニングコストの獲得には苦労した。研究代表者として採択された科研費は、サケ科魚類の銀化制御技法の確立、魚類における定時産卵機構の解析、魚類における産卵期調節法の確立と染色体操作への適用、甲殻類の生殖および脱皮調節機構の生理学的解析、魚類における生殖リズムの発現と制御に関する研究、海洋生物の回遊機構、魚類における有用遺伝子プローブの開発とその利用に関する研究、甲殻類の生殖・脱皮高次制御機構の解明、魚類の成熟過程における体重変動機構、魚類における日周リズムの発現・制御機構、クルマエビ類の成熟・産卵の制御、魚類におけるストレス反応系の分子機構、魚類における成長と成熟のダイナミクス等、多数にわたる。この他に研究分担者として採択された科研費や水産庁の研究費等も数件ある。甲殻類に手を広げたのは、大学院重点化の際で、研究室の名称も「魚類生理学研究室」から「水族生理学研究室」に変更した。これには研究費獲得の狙いもあった。
   そうこうするうちに、国立大学法人化1年前には、農学部長を拝命し、62歳の定年で東京農業大学総合研究所にお世話になるまでの3年間、部局での法人化の対応にあたる羽目になった。その後、ある人の紹介で(独)日本学術振興会学術システム研究センターの農学主任研究員を務めることになった。主任研究員には、研究費の一部負担との名目で、研究費がいただけた。その経費の一部を使用させていただき、科研費の説明会を2年半で計50回行うことができた。もちろん、旅費と謝金は、相手先からは頂戴せず、研究費のお世話になった。
   とくに、再就職した東京農業大学では、科研費に申請する機運がなく、説明会にも先生方があまり集まらなかった。ひどい時は、先生一人の時もあった。今では、獲得総額も2億円を超えるようになり、間接経費もそれなりに増え、その一部を使用し、良い点数ではあるが不採択になった若手に若干の研究費を配分しているとのことである。おそらく科研費の事務は総合研究所が一括して担当していて、部局ごとに配分していないことが幸いしているのかもしれない。科研費の説明会を50回もできたことにより、各大学の農学部や農水省の研究機関を回ることができ、農学の研究動向や科研費に対する意見を聞くことができた。とくに定年を過ぎて全ての水産研究所を訪ねられたのは大きい。プロジェクト研究の外部評価委員として会合に出ると、昔、科研費の説明を聞きましたと言われることがあり、うれしいものだ。科研費の想い出とは異なるが、昔、四谷にあったヤマトビルが古くなり解体され、その間分散していた学振が新ビルに全部局が移転できたのも、私が監事の時でとくに想い出深い。

※所属・職名は執筆時のものです。

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