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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.65(平成26年6月発行)

「研究機関とその研究者にとっての科研費」

渡辺 晃宏 国立文化財機構奈良文化財研究所  都城発掘調査部 史料研究室長

渡辺 晃宏
国立文化財機構奈良文化財研究所・都城発掘調査部・史料研究室長

科研費が日本の科学研究に果たしてきた役割については私が申すまでもないことだが、大学と独法等研究機関とでは、その意味合いは多少異なるように思う。そこで文系の研究機関に属する者として、私自身の経験から考えるところを少し述べてみたい。

機関にとっての科研費は、限られた研究費を補完する外部資金であり、また競争的資金として機関の評価の尺度ともなる。そのため、科研費採択率アップに向けた多くの努力が払われることになる。研究員も、研究機関に所属する以上、機関としての研究課題の遂行が最優先命題であるのはいうまでもない。そこで、個人研究で科研費が採択されても、自己の研究課題が機関の研究課題と重なる一部の研究者を除いては、その両立が困難な場合も生じる。20年前の私自身がそうであった。本来業務を滞りなく果たそうと思えば、科研費による個人研究は勤務時間外に行わざるを得ない。公務扱いとはいえ、個人研究を本来業務に充てる時間を取り崩して行えば、業務に支障を来す。そこには大きなジレンマがある。

しかし、大型の科研費の場合にはまた様子が違う。文系の研究に必要な研究費は、理系と比べれば桁違いに小さい金額で事足りる場合が多いため大型の科研費が必要になるのは、個人研究の範疇を超えた機関としての研究、あるいは機関横断的な研究となり、それは公務を補完する役割を果たすことになる。一定の目的で設置されている研究機関には、そのための研究費が確保されている訳だが、新しい独創的な研究を行うには不充分な場合が多い。

私の所属する奈良文化財研究所で、従来の木簡データベースに加えて、木簡の文字画像データベース「木簡字典」や木簡釈読支援システム「Mokkanshop」(モッカンショップ)を作成・公開できたのは、科研費のお蔭である。科研費の採択がなければ、こうした今ではあたりまえのようになったシステムでさえ、日の目を見ることはなかっただろう。

大型の科研費遂行の大きな成果として重要なのは、機関や学問の枠組みを超えた研究連携が図れるようになったことである。通常の予算内での研究では、奈良文化財研究所と東京大学史料編纂所とのデータベースをはじめとする連携や、文字認識や画像処理など理系の先生方との共同研究の実現が図れたかどうかは甚だ疑問である。一度築き上げた学問のネットワークは、それを構成する各機関・個人相互にとってかけがえのない財産となる。私どもの研究にとって、科研費の果たしてきた役割の大きさは計り知れないものがある。

このように、一機関だけでは到底実現し得ないことが、各機関が得意とする分野において獲得した科研費を用いて連携することで効率よく実現し、開発後の維持についても機関同士が信頼関係に基づいて、万全の努力を払い得る体制が構築できることになる。科研費の研究を通常の研究費で受け継いで維持する体制が作れればベストである。この継続性こそが、大学教員としての研究にはない、研究機関における研究の強みであろう。

ところで、かつては審査される側のみの立場であったが、審査する側の立場にも立たせていただいたのは貴重な経験であった。書面による審査を踏まえて合議を行って検討し、大型の科研費ものは、これにさらにヒアリングを行い、審査に公正性や客観性をもたせるさまざまな配慮がなされている。科研費を配分される資格のある研究者で互いに審査しあう仕組みといってよいだろう。委員への打診をいただいたとき、採択された科研費のいわば恩返しのつもりでやらせていただいた。

とはいえ、審査とは辛い仕事である。応募者の思いは充分に理解できる。しかしそれがその分野の現在の研究水準や環境においてどう位置づけられるのかは、全く同じ分野の研究でない限り、私自身を含めてこれだけ研究が蛸壺化している状況においてはかなり難しい。そして同僚や先輩の研究者の方々の研究計画を評価することなどとても恐れ多いというのが正直なところである。今の審査システムは、ベストとはいえないものの、かなりよくできていると思う。ネットを通じた入力システムも使いやすい。紙媒体だけで応募していた頃の審査システムは知らないけれども、これと同じ方式による審査を紙媒体だけでやっていたと考えると、ほんとうに気の遠くなる思いがする。よりよいシステムに向けた改善を重ねていく必要はあると思うが、それは結局、審査者・被審査者が意見を出し合い改善していくしかないだろう。この点は審査システムだけではなく、科研費の運用全般にもいえることである。電子申請システムや基金化の導入など、科研費は確実に使いやすくなっている。

最後に一つだけお願いしておきたいのは、文系と理系の差への配慮である。それは、文系の場合同じ研究期間に必要とする経費は理系と桁違いに少ないのが普通である。しかし、その分長期スパンになる場合が多く、3年や5年で成果を求められても難しい場合も多い。じっくり腰を据えて研究に取り組めるような配慮がもう少しあればと思うがいかがであろうか。時間もまた研究には欠かせない要素である。まさに、「時は金なり」なのである。

 

※所属・職名は執筆時のものです。

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