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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.63(平成26年4月発行)

「それはそれ これはこれ」

北海道大学・大学院理学系研究科・教授 圦本 尚義
ゆりもと ひさよし
圦本 尚義
北海道大学・大学院理学系研究科・教授

私の研究は、太陽系の起源と進化を明らかにすることです。夢は、目をつぶったときそのすべてを感じるようになることです。この分野の研究は18世紀の半ば頃の近代科学黎明期から始まり、その後の科学の発展とともに整備されてきた物理・化学法則を厳密に適用しながら発展してきました。そして、19世紀後半頃より、空から時々降ってくる隕石に太陽系形成当時の種々の化学反応がそのまま残されていることが発見され始め、20世紀後半には、人工飛翔体による惑星探査と惑星形成現場の天文観測が始まり、現在では、小惑星サンプルリターンが成功し、見つかった多数の系外惑星との比較から、我々の太陽系が典型的な惑星系ではない可能性まで議論されています。つまり、我々は、天動説から地動説に世界観が変わった時代のような、非常に刺激的で幸運な時代に遭遇していると思われます。今日、この分野では、理論・実験・観測・探査の研究者が三位ならぬ四位一体となり研究が進展しており、大胆な仮説の提唱とその検証とが絶え間なく繰り返されながら惑星系起源論が刻々と変化しています。私は、主に実験的側面から太陽系の起源と進化を研究しています。酸素同位体異常に関する新理論と実験室内での恒星残骸の発見により、我々の太陽系が誕生する前の時代(先太陽系時代)の歴史について、物質科学的に検証する扉を開くことに貢献しました。その研究を推進できたのは科研費のお陰です。

私は、1987年に初めて科研費をいただいてから、現在までにたくさんの科研費にお世話になっています。ご想像の通り、私の研究は、浮世離れしていて全く実利性はありませんので、もったいないくらいの支援です。こんな私でも、小惑星探査機はやぶさの試料を分析させていただいていた時、国民の皆様の純粋で旺盛な知的好奇心を、直接肌で感じる機会がたくさんありました。私は、はやぶさ人気に驚きながらも、皆さんから日本はすごいのですねと激励の声をかけられる時、私の研究が皆さんと共有できており、そして、少しは皆さんの何かのお役にたてているのだと感じ、嬉しいやらちょっと照れくさいやらでした。ちなみに、私のはやぶさの分析は100%科研費のお世話になりました。しかし、私の場合、このように研究が思い通りにうまくいくことは極めて稀です。

科研費応募書類を書く時は、いつもゴールはどうなるかということを予想して書きます。思い通りにいくことを信じて具体的に実験計画を書くのですが、せっかちな性格のせいか、あるいは、自分の能力の過信のせいか、計画期間内に一気に夢を実現しようとする癖が直りません。例えば、はやぶさ研究にも用いた同位体顕微鏡という新しい分析装置の開発では、科研費を1994年にいただき、やっと実用化レベルに到達したのが9年後の2003年です。実用化レベルということは、装置がなんとか動くようになったという意味で、決して自慢できません。実は、その到達までに、引き続きたくさんの科研費にお世話になっています。 そのどれについても新しい成果を出していたと思うのですが、きょうび流行の達成度審査が当時あったらどうなっていたことでしょう。

もう一つ同じような例なのですが、1991〜1992年に「酸素同位体比を利用した太陽系外物質の探査とその起源」という、実に単純明快な、しかし、野心的(と自分では思っている)な科研費が採択されました。やはり、この期間中に太陽系外物質を発見できませんでしたが、引き続き科研費をいただくことができ、実際に発見できたのが、13年後の2004年のことでした。先太陽系時代に一生を終えた恒星の残骸由来の微粒子を隕石中に見いだしたのです。しかし、恒星の残骸微粒子が見つかった場所やその物質の種類は、当初の予想とは大きくかけ離れていました。唯一の救いは、酸素同位体比という当初の目の付け所が正しかったことだけでした。まさしく、事実は小説より奇なりです。私が研究を進めていくと、自然はいつもきてれつに振る舞ってくれるので、私はちょっと複雑です。

最近、科研費の研究期間中に進捗状況の自己評価なるものを書かなければいけなくなってきました。自分自身による客観的な評価が求められているので、なんとか体面を取り繕えています。そこそこの成果を出しているという自負があるので、あまり悪い評価を提出しないですんでいるのです。しかし、もし主観的評価だけを求められたらどうでしょう。私の場合、自己評価を書いているときの頭の中は、内省の連続です。応募時の自分の自分に対する期待度と現実とのギャップ、自然が自分の予想通りに振る舞わないことによる自分の無能力に対するいらだちからです。でも、そこがまさにこの分野の面白いところ、自分が今後の自分の発想にさらに期待をかけるところでもあります。

目下、個人研究としていただいている科研費では、46億年前の生まれたばかりの原始太陽が、今の太陽より、どれくらい獰猛だったかを定量的に決定しようとしています。グループ研究としていただいている科研費では先太陽系時代の分子進化に取り組んでいます。どちらも誰も取り組んだことの無い課題で、私のあてにならない予想通りならば、どちらの研究成果も太陽系の進化の道筋を刷新し、汎惑星系起源論完成に向け拍車を掛けることでしょう。はてさて、どうなりますことやら・・・。

※所属・職名は執筆時のものです。

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