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科学研究費助成事業

制度概要

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



■No.61(平成26年2月発行)

「科研費―伸びる研究」

九州大学・副学長 九州大学 伊藤極限プラズマ研究連携センター長 伊藤 早苗先生
伊藤 早苗
九州大学・副学長
九州大学・伊藤極限プラズマ研究連携センター長

紙と鉛筆の研究者

大学でプラズマ物理に出会ってその理論研究を専門に選んで以来、「紙と鉛筆」の研究生活が続いている。鉛筆で書き続け、電動鉛筆削りで削れない程短くなると机の脇の鉛筆供養壷に入れる研究生活を今日まで続けている。研究は頭の中である時突然進むが、研究計画を練り科研費を申請しその成果をまとめては次の計画を立てるのも、大変重要な仕事である。

紙と鉛筆の研究者にとっても、科研費は無くてはならない。解ける問題に取り組むのではなく解かねばならない問題に取り組みたいと(無謀にも)思い込んで仕事を始めた身には、問題を見つけ出す事が大仕事。何に要るかといえば、まず旅費である。特に、実験を見て問題を見つけ出す事に不可欠である。すばらしい実験家を探し出し、訪問し装置を見せてもらいつつ実験結果を議論してもらう。自分で考える問題を作っていくために、科研費が大変に役だった。

世界の研究所を訪ねているうちに分かったのが、「話が通じる人を見つけるためにこそ旅に出なければいけない」ということ。多くの方のご好意により、世界の研究所を知り、そこのすばらしい研究者達と知り合う機会に恵まれた。特に縁の深い所がいくつか出来たが、一つはドイツのマックス・プランク・プラズマ物理学研究所。縁あって大学院在学中に客員研究員で招聘してくださったことから始まり、散歩とビールが科研費とともに支えてくれる私どもの研究生活には切っても切れない所になっている。後年、元所長のPinkau教授を九州大学にお呼びした所、自分と考えが合う人は世の中にほんの少し(a few)しかいないのだから、世界中から捜し出さなければいけない、国際交流で世界へ出かけるのはそのためだとおっしゃる。意を得て共鳴した次第。

通った申請、通らなかった申請

3年から5年で計画を作り申請書を作り続けた生活を振り返ると、申請が通らなかったときの印象が深い。1987年夏に、磁場閉じ込めプラズマのH-mode遷移の全く新しい理論を考案した。それに基づいて申請したものはすぐには通らなかった。1982 年に発見された磁場閉じ込めプラズマのH-mode遷移は、プラズマ表面付近で輸送が突然抑制され閉じ込めが改善される現象である。核融合をめざす研究からは福音であったが、難しい問題のため原因に取り組む人は世界中でもほとんどいなかった。1987年の夏、H-mode遷移を発見したドイツのマックス・プランク・プラズマ物理学研究所に招かれたので、解かねばならない問題に取り組みたいとの思いから(無謀にも)「H-modeの理論を作る」と発見者の目の前で宣言して仕事を始めた。悪戦苦闘した結果、一つの理論を作る事が出来た。共同研究者との散歩とビールの助けがあった。この研究を日本の物理学会で講演した時会場で「お話としては面白いが私は信じない」という某教授の嘲笑を受け、(因果関係は分からないが)その年の科研費の申請は通らず。その後、理解者も増え実験家が検証してくれ、科研費の申請も通り、この理論をもとにした展開が後に仁科賞はじめいろいろな評価を頂く事に繋がっただけに、通らなかった申請が今でも印象深い。

研究の大型展開と国際化

科研費の申請が通ったときの印象も深い。研究が進むと、ちゃんとした実験が必要、という気持ちが強まった。「解かねばならない問題に取り組む」という流儀で、プラズマ乱流の中で本当に起きている事を知りたいと思い詰めた。紙と鉛筆の研究者が実験まで含む億のオーダーの研究を(既得権なしに)提案出来るのは、科研費である。評価委員会の慧眼によって特別推進研究の提案を実現していただき、その成果によって「プラズマ乱流物理学」という新研究領域に形を与える事が出来たと思っている。若手の共同研究者にたくさんの表彰が与えられたのはこの計画が成功だった証拠だと思う。この機会に「伊藤賞」を始めた。ヨーロッパ物理学会でのプラズマ乱流研究に関わる優れた博士大学院生の発表にたいする賞で、九州大学に招待して賞を授与し講演するものである。優れた若手を伸ばし日本ファンを作りたいと思った。今年で9回目を迎え、受賞者は世界で活躍している。

伸ばしてもらった研究

最初の奨励研究に引き続く一般研究(C)を完了して以来、代表者として順次まとめてきた科研費報告書が研究室に並んでいる。1982年度の報告書を見ると、不均一プラズマの不安定性や揺動による輸送現象に取り組み、同時に、揺動から巨視的なプラズマまで体系的に解析出来る物理学を展開すべきと書いている。それが上のような形を得た。提案するたびに新しい研究領域に踏み込みレベルが高い科研費に挑戦してきた。無鉄砲に挑戦し続けた科研費が私の研究を伸ばしてくれたと感謝している。

伯楽を思う

今は科研費を支える仕事も増えた。科研費の充実を訴える日々である。また、「評価されるか評価する毎日」にあって、科研費の審査で受けた慧眼と通らなかった申請とを思い返し、伯楽を思う。


鉛筆供養壷

※所属・職名は執筆時のものです。

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