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科学研究費助成事業

研究概要・成果

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.41(平成24年6月発行)

「微生物機能応用の研究を支えてくれた科研費」

東京農工大学・学長 松永 是先生
松永 是
東京農工大学・学長

 学生時代から現在に至るまでずっと、微生物機能応用の研究に携わってきた。微生物は、サイズがミクロンレベルで、顕微鏡を使わなければ見ることができない生物の総称である。微生物は、我々の周りのあらゆるところに存在している。我々自身の皮膚や腸内にもいるし、空中、土壌、河川や湖沼、海にも存在している。昔から、酒、味噌、醤油、漬物、チーズ、ヨーグルトなどの食品は、微生物の力で作られてきた。近代になって、アミノ酸や核酸なども微生物発酵により作られ、調味料として利用されてきた。また、抗生物質、酵素阻害剤、免疫抑制剤などが微生物により生産され、医薬品として広く人類に役に立つようになった。物質生産だけでなく、環境浄化や計測にも応用されている。下水処理施設の活性汚泥には多くの種類の微生物が存在し、有機物の分解にかかわっている。最近では、バイオエタノールやバイオディーゼルなどのバイオ燃料にも利用されている。微生物応用研究は我が国の得意分野で、梅澤濱夫博士(東京大学名誉教授)のカナマイシンや遠藤章博士(東京農工大学特別栄誉教授)のスタチンの発見は世界で高く評価されている。

 微生物の持つ多様な機能に魅せられ、40年近くその研究を続けてきたが、大学院時代に始めた微生物センサー研究は実用化され、現在でも貯水池での水質のモニタリングに用いられている。様々な微生物の機能解明や応用の研究を行っている中で、大変不思議な微生物に出会った。体内にナノレベルのサイズの磁石を作る微生物である。昔、人類が磁石を頼りに旅をしたように、自然界ではこの磁性細菌はナノ磁石を利用して磁力線に沿って好気的な水面から嫌気的な底の生育に適した環境へ移動するという性質を持っている。この研究は30年前に今の大学で研究室をもってから続けているが、磁性細菌の探索、培養、機能解明、応用と一貫して科研費を使って研究をさせていただいた。特に、2001年から2005年までは特別推進研究として採択していただき、磁性細菌の研究に専念させてもらったのが大変印象深い。磁性細菌の全ゲノムを世界で初めて決定し、DNAチップを使い、どの遺伝子が発現し使われているのかを明らかにし、マススペクトロメトリーを用いてプロテオーム解析を行い、磁石が形成される機構を明らかにすることができた。磁性細菌の研究に触発された磁性ナノ粒子の研究も大きく発展し、タンパク質や細胞の分離や計測に応用されている。また、ドラッグデリバリーやハイパーサーミアといった医療分野にも利用され始めている。ヨーロッパやアメリカでは、磁性ナノ粒子を扱う会社がグローバル企業として確立するまでに発展した。人材育成という観点からも、我々の研究室で磁性細菌の特別推進研究に参加してくれた人々が、広島大学、京都大学、東京農工大学、早稲田大学、ボゴール農科大学で現在、教授や准教授として新たな微生物やナノテクノロジーの研究を展開して活躍していることは大変うれしく、誇りにしている。

 私の研究者生活は、科研費とともに歩んできたといっても過言ではない。微生物機能応用の個人研究は、特別推進研究、基盤研究(S)、(A)、(B)、一般研究(B)などにより継続して支援していただいた。これらの科研費はいずれも期限があり、2年から5年で終了する。最終年度の秋には、次の科研費の申請を出さなければならない。申請書を作成するときは、新たなテーマを考え、自分の業績を整理し、関連する論文を集め、国内外の動向を調べる。審査員の先生に理解してもらえるように、図表を加え、読みやすいように工夫する。これらの努力が実り採択された時の喜びは、いつでもひとしおだ。特定領域研究、重点領域研究もやらせていただいた。若い時は公募班に応募し、採択していただいた。少しシニアになってからは、他大学の先生方と新しい領域を形成し、グループを率いることもあった。これらの領域研究は、同じ分野や異分野の他大学の先生方とじっくり交流することができ、今でもお付き合いをさせていただいている先生が多い。

 科研費は、我が国の基礎研究を支える研究費として年々充実してきている。審査方法も改良を続け、多くの研究者が申請者でもあり、時には審査員にもなるというピア・レビューシステムが定着しつつあると思う。基金化も進み、繰越使用も柔軟になっている。

 東京農工大学では、若手人材の育成に非常に力を入れている。6年前からテニュアトラック制を導入しているが、広く国際公募をして人材を集め、授業や管理業務を軽減して研究に専念しやすい環境を作っている。結果として、これらの若手研究者が科研費の採択率の向上に大いに貢献している。今後も、若手人材の育成を、グローバル人材育成とともに大学改革の柱にしていこうと思っている。

※所属・職名は執筆時のものです。

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