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「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。
毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。
■No.21(平成22年10月発行)
「科研費と研究」 |
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垣生 園子 順天堂大学・医学部免疫学教室・教授 |
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<研究環境と科研費> 英国で免疫の研究を始めた私には、帰国に際して免疫研究を続ける“実家”はなかった(当時、日本の大学には免疫学講座は無かった!)。免疫反応の主役であるTリンパ球の発生組織である胸腺の研究を進めていた先輩が、私の研究に深い理解を示してくださり、彼の担当する病理学講座に職を得た。そこでは自分の研究課題を進めることができた上に、科研費の有無や額には関係なく、研究に要する経費はあまり心配しないで過ごせた。当時は、大学の講座費が現在に比べて多かったことに加え、免疫研究に用いる試薬や材料は研究室レベルで準備することが多く、時間はかかるが経費のかからない時代的背景もあった。 日本での研究開始に当たり、もう一つの幸運があった。帰国前日にご挨拶に伺ったロンドンの大ボス宅で、日本の免疫研究者と親しい米国の研究者に偶然出会い、帰る “実家”のない私は、免疫研究を精力的に進めている研究者を紹介された。おかげで、当免疫学者が統括していた領域研究のシンポジウムにおいて、私のロンドンでの研究成果を発表する機会が与えられた。それを機に免疫研究領域のグループへの参加が認められ、黎明期の免疫研究に情熱を燃やす優れた研究者からの励ましや批判の恩恵に浴することができた。研究費の支援にも増して嬉しいことであった。領域研究かの報告会や懇親会での議論では、一研究室に留まっていては得ることができないunpublished dataや新しい研究手段の情報を得る機会があり、人脈ネットワークと共に駆け出しの研究者にとって貴重な財産となったと確信している。日本独自の領域研究制度には一部弊害も指摘されているが、それでもプラスの部分の方が大きく、より良く改善しながらの継続を望むところである。 <科研費申請への姿勢> 科研費の申請を書き始めた頃、“作文能力が乏しいと、良い科研費申請書は書けませんね。”と言って、ある高名な研究者にお叱りを受けたことがある。“自分が知りたい疑問への乾きにも似た探求心が感じられない研究提案書は、いかにレトリックに長けた文章を書き上げても、所詮作文の域を出ない。科研費への提案書は研究者の全知全能を傾けて創り上げた“作品”であって、作文ではない“と。この指摘は文学的ではあったが、痛烈に響いた。研究というのは目指す課題を設定し、それを解き明かすための道筋を選択・修正しながらのプロセスの総合であり、まさに“作品”創りと言える。科研費の提案は数年で成果を求められているが、目指す研究の一端を担っていることに変わりはなく、同じ姿勢で取り組むべきである。書き方の技巧に走ったことをいたく反省した。以後、科研費申請書を書く時あるいは審査する時は、“作品”という二文字を肝に銘じて取り組むこととしている。 <科研費の審査> |
※所属・職名は執筆時のものです。
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