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科学研究費助成事業

制度概要

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.13(平成22年1月発行)

「科研費について思うこと」

北海道大学・名誉教授 大塚 榮子先生
大塚 榮子
北海道大学・名誉教授

 科研費が大学での研究で最も大事なものであることを実感したのは1966年にアメリカ留学から帰り、大学に採用された頃である。日本のシステムでは大学は学部学生の教育をする事を主な目的とする講座費とよばれる教員あたりの経費があり、研究をするためには自主的な努力で科研費を獲得する必要があるということがわかった。大学紛争が始まり、それどころではない時期を通り越したが、当時の科研費の総額は60億円あまりで大手電機メーカー一社の研究費と同額と云われていた。
 その後年々増額され90年代には1000億円を超え、いかに2000億円にするかという議論がされていたと記憶する。
 科学技術庁の振興調整費が国立の研究機関に交付され、大学にも研究委託がされた時代には、共同研究が活発になって、研究が進んだ時代があった。平成7年に当時の通産省からの補助金が初めて大学に直接交付されたことは、明治以来の大学制度の中でも特筆される出来事であったと思う。
 文部省が科学技術庁と統合される以前の審議会でも科研費に対する様々な提言がされ、改善されていった。科研費の中に特別推進研究が創設されて、大型機器を使う研究も可能になった。総合科学技術会議の重点分野推進戦略専門調査会での議論はホームページに公開され、大学人達も関心を示していた。そこで感じたことは、他の分野例えば農業や電気などの特別会計の予算と比較すると桁違いに科研費の額が小さいことである。もっと増額されてもよいのではないかと歯がゆい思いをした。

科研費の教育への貢献
 国にとって人的資源が最も重要である。したがって教育ほど大事なものはない。初等教育が重視された歴史は評価されるが、これからの日本の発展を考えると高等教育の重要性を認識しなければならないと思う。新しいことに挑戦する人を育てる大学院教育にも科研費が貢献している意義は大きい。時間がかかっても人を養成することが肝心であると思う。しかし、一般的な奨学金は縮小される一方で、人材養成と云いながら広く支援する方向にはなっていない。選択と集中という企業の論理を教育・研究にあてはめるのは問題である。

基盤研究の採択率を2倍に
 国立大学が法人化されて以来、基礎的な研究をするためには科研費を獲得することが必須となり、科研費の役割が一層増したということができる。現在の基盤研究といわれる研究費は最も広く基礎研究を支える重要なものである。採択率が倍増されれば研究人口のすそ野を広げる効果があると期待できる。現在の20数%という採択率を50%にしても研究の質が低下するとは考えられない。潜在的な多様な試みが可能となり、何年か後に大きな成果が上がることもありうる。ノーベル賞で評価される成果も時間をかけて多くの研究者に影響を与え、分野の発展に寄与した研究から生まれているが、最初は小さな研究の種であったに違いない。したがって、すそ野を広げることが大きな成果を生み出す第一歩である。基盤研究を倍増するにはあと2000億円が必要であるが、国全体の予算を考えると不可能なことではないと思う。
 日本の公的な研究費のGDPに対するパーセンテージはOECD加盟国では最低のレベルであると云われている。この際、なぜ基礎研究を支援しようということにはならなかったのかを真剣に考える必要がある。

世の中から必要と思われるために
 国立大学が法人化されて、毎年1パーセントずつ予算が縮小していくことによる弊害がでているに違いない。大学での教育は研究を通して行われることが多いので、科研費と教育は深く係わっている。なぜ大学の教育活動にとっても重要な科研費が増額されないのかという議論が起こった時に、大学での教育や研究が世の中の人に必要と思われていないからであるという説があった。世論からの要請がなければ、財務省は予算を付けるわけにはいかないという論理である。文系出身の人達にも科学研究が今の日本にとって必要であり、世の中の人のためになるということを理解してもらうことが肝要である。前述したように、基礎的な研究のすそ野を広げることが科学にとって重要であることを含め、科学に関心を持って理解をしてもらうということである。世論が正常になるためには人の理解力が高くなることが何よりも重要である。科学リテラシーを高めることが話題になっている。例えば遺伝子組み換え作物についての議論でも、科学的な判断を世の中の人達ができるように知識の普及がなければならない。広報の問題よりも、理解力を増す基礎的な学力の問題である。そのためには教育の質を上げなければならない。教育に係わる人材の養成に真剣に取り組むが必要があると思う。義務教育の質を上げることが世論の質を上げる事につながる。急がば廻れで、良い先生を養成することが求められる。先生の質を上げるにはどうしたら良いか。大学や大学院もそのことに貢献できる仕組みを科研費の問題と同時に考えられて良いのではないかと思う。

※所属・職名は執筆時のものです。

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