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科学研究費助成事業

制度概要

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.12(平成21年12月発行)

「両側から見た科研費-申請と審査-」

物質・材料研究機構・理事長 潮田 資勝先生
潮田 資勝
物質・材料研究機構・理事長

 私が初めて科研費の申請をしたのは1985年(昭和60年)、カリフォルニア大から東北大に移った年である。それまでは高校卒業以来日本に住んでいなかったので日本の科研費についてはほとんど知識がなかった。しかしカリフォルニア大時代にはNSF, NASA, DOE, AFOSR*など米連邦政府のfunding agenciesから研究費を受けていたので、科学研究プロジェクトの申請書作りには慣れていた。そこで着任早々から科研費申請のプランを考え始めて、一般研究Aのテーマは「ラマン散乱による表面物性の研究」にした。さらに当時は試験研究という種目があって、新しい電子分光法のアイディアで「超高分解能飛行時間電子分光法の開発」も同時に申請したところ、一般研究Aと試験研究Aの両方が採択された。また次の年には「表面新物質相」という重点領域研究の分担者に加えて頂いたので、必要な装置の大部分を2年ぐらいで揃えることができた。装置が何もない研究室に着任したのに非常に恵まれた出発ができて幸運だったことを今でも感謝している。

 科研費はその後も大体毎回申請して採択されたので、東北大教授時代の19年間非常に楽しく研究することができた。これもやはり日本に帰ってきてよかったと思うことの一つである。北陸先端大の学長になってからは自分で科研費を申請することはできなくなったが、教員達を激励して多くの教員が科研費を取れるように指導した。いつも私が強調していることは科研費の審査はピアレビューで行うので、申請が採択されることはその学問分野で存在を認められることになるという点である。逆に申請がなかなか採択されない場合は、同じ分野の人々から優れた研究だと認知されていないことになる。このことはいま理事長を務めている物質・材料研究機構でも折ある毎に言っていて、科研費を申請しない人は機構内の研究助成金に応募できないことにした。そうしたらみんなが無理して科研費の申請を出すので採択率が下がってしまった。この辺のダイナミックスを上手にコントロールするのは難しい。

 カリフォルニア大にいたときは何10ページにも及ぶreview paperのような研究費のproposalを書いていた。まず提案する研究分野を俯瞰し、今どのような研究が必要か、さらにそのテーマを追求することの意義を述べる。末尾には論文と同じようにReference Listを付けるので審査員は申請書の言っていることの真偽を確かめることができる。それに比べると日本の科研費の申請書は短いため、申請する方にとっては楽だが、その分、審査において詳細に提案内容を吟味することは難しくなる。さらに毎年秋に全国一斉に募集して、何万件もの申請を同時に審査するので、内容を細部まで見て採択を決めているかというと、少し十分ではないときもある。特に一次審査では一人で100件を超すような数の申請書を読んで採点することもあるので、申請内容の細部まで精査することは難しい。複数の審査員が見るので全体としてはフェアな結果にはなると思うが、例えば実験の詳細が実現可能かといったことなどまでは検討できないことも多い。

 これと比べてNSFなどへの申請の場合、前述したようにreview paperのようなproposalを3人ぐらいのレフリーに見てもらい、コメントと評価をもらう。そのコメントは申請者にフィードバックされて、申請者が反論することができる。このやり方は論文を学会誌に投稿したときのレフリープロセスと似ている。このように丁寧な審査ができるのは、申請書は論文投稿のように1年中いつでも提出できるのと、個別の申請を担当するプログラムオフィサーが存在するからである。私が学術振興会の科研費委員会の委員を務めていたときに、「日本でもNSF方式の審査方法を取り入れるとよい」と提案したことがあるが、そんなことは無理と知らされた。理由はNSFと学振のマンパワーの差である。向こうはproposal審査プロセスを1200人もの人員でやっているのに、学振はたったの17人でやっているということであった。このような大きな差はどこから来るのかわからない。日米のGDPの比は大体2対1,人口比も2対1に近い。したがって日本でも国の予算の使い方をアメリカと同様な分布にすれば、1200対17などという比にはならないはずである。日本はアメリカみたいに無駄な戦争はやっていないから、実はアメリカ以上に科学研究に投資できるはずではないかと思われる。だから学術振興会は堂々と予算の大幅な増加を要求するといいと何時も思っている。

 アメリカと日本の研究費供給システムのもう一つの重要な違いは、アメリカでは研究費を申請する方にもちろん競争があるが、研究費を出す側にも競争があることである。日本の場合、基礎研究の申請を出せる機関は主に学術振興会とJSTである。これに対してアメリカでは、基礎研究をサポートする機関が多数ある。私が関係したファンディング機関だけでも、前に示したように6機関もある。これらの機関はお互いにどこが最もよい研究をサポートしたかで競争関係にある。つまりこの場合、研究費の供給側と需要側の両方に競争があって、優れた研究をサポートするためのダイナミックなシステムになっている。このことが研究を活発にしている要因の一つだと思われる。日本では最近「選択と集中」などと言って研究費の供給側の重複をなくそうとする動きがあるが、これは賢明でないと思う。近年トップダウン、出口指向のプログラムが多くなる中で、科研費は我が国の科学研究を支えるプログラムの中で唯一研究者からボトムアップ的にアイディアを取りあげるシステムなので、これからも大いに活動を広げて欲しいと思っている。

*注NSF(National Science Foundation), NASA(National Aeronautics and Space Administration), DOE(Department of Energy), AFOSR(Air Force Office of Scientific Research), ARO(Army Research Office), ONR(Office of Naval Research)

※所属・職名は執筆時のものです。

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