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科学研究費助成事業

制度概要

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 今月は2名の方に執筆していただいています。

福田 裕穂 東京大学大学院理学系研究科・教授
前日本学術振興会学術システム研究センター・主任研究員
沼尾 正行 大阪大学産業科学研究所・教授
前日本学術振興会学術システム研究センター・主任研究員


■No.5-1(平成21年5月発行)

「学術を支える科研費とそれを支える人たち」

東京大学大学院理学系研究科・教授・前日本学術振興会学術システム研究センター・主任研究員 福田 裕穂先生
福田 裕穂
東京大学大学院理学系研究科・教授
前日本学術振興会学術システム研究センター・主任研究員

 「アイソトープを買ってもいいよ」。私の研究費の原点は、大学院生だった30年前に戻る。当時、なかなか科研費の取れなかった研究室にいた私は、鉛筆を削って炭素電極を作り電気泳動装置を自作する、遠心機はたくさんもっている遺伝学研究室に借りるなど、工夫しながら、研究を楽しんでいた。ただ、唯一困るのが高価な試薬、特に、35Sでラベルされたメチオニンを存分に購入できないことだった。K先生が科研費を射止めると、年に1度のところが2度35S-メチオニンの購入を許可してくれる。35Sの半減期は87日なので、いろいろ工夫して使っても半年が限度だったのだ。科研費は、私にとって1年間の研究を保証してくれる大事なものだった。

 大学院を卒業したあとで、私は、東京(本郷)→大阪→仙台→東京(小石川)→東京(本郷)と研究場所を移したのであるが、それを支えてくれたのもまた科研費だった。大学を移ることは広く推奨されているが、研究場所を移すと研究設備の運搬費も含めて様々な支出が必要となる。しかし、大学や国からはほとんど支援されない。私の研究の場合、ヒャクニチソウという植物の育成装置がないと始まらない。そのために、行く先々でこれをつくる必要があった。小石川の植物園に移動したときには、整地(私と学生と植物園スタッフが労働力を提供)から初め、植物園のもとの変圧器の交換(大学で不要になった変圧器を無料でもらった)、その上で、科研費で購入した植物育成装置を設置した。いずれにしても、その時期に、幸いに科研費が獲得でき、私は行く先々でこれを作ることができた。逆に言うと、科研費が獲得できていないと、私が大学を移ることはなかったということになる。

 阪神大震災のあった日は、科研費との関係でも忘れられない日である。重点領域研究「植物器官プラン(中村研三代表)」の第1回班会議が京都で開かれる予定になっていたからだ。もちろん、会議は中止。しかし、多彩なメンバーを集め始まった植物発生のグループ研究は、その後、特定領域研究と名を変え、岡田清孝先生、私、さらに町田泰則先生と代表を替えつつ発展し、現在に続いている。この間に、植物発生の分野は植物学研究の主流に躍り出るとともに、国際的な名声を勝ち得るまでになった。実際にサイエンスマップ2006では、ナノサイエンスや素粒子・宇宙論と並んで植物発生に引っ張られた植物科学が、日本の最も強い研究領域6つのうちの1つになっている。しかし、科研費に支援された継続的なグループ研究の最大のメリットは、若手研究者の育成であったかもしれない。この領域研究では若手ワークショップを毎年行っている。そして、この14年間の継続は若手のネットワークを極めて強固にし、多くの仲間との協力と競争の中で、かつての大学院生たちの多くが、現在では、一躍世界のトップに躍り出ている。

 ここで舞台は反転する。科研費に大変お世話になっている者として、当時の学術振興会の担当部課長からの説得を断り切れず、学術振興会学術システム研究センターの生物系主任研究員として働くことになったのは3年前である。業務の一つとして、科研費制度をよりユーザーフレンドリーなものに変えていくための協力をすることになった。

 センターでは科研費に関するたくさんの事項を検討してきた。適切な審査員を増やすための方策、評価システムの評価と改善、新たな科研費の創設、全体として科研費を増やすための方策、科研費像のデータに基づいた提示などである。

 科研費の申請件数は、毎年右肩上がりに増加し、新規の申請件数でみると、平成6年に72,000件だったものが、平成18年には100,000件を越えている。この数は、NSFなどの諸外国のグラント申請数を凌駕している。この状況の中で、学術システム研究センターは、公正で、審査員が評価しやすく、また、過大な負担をかけないシステムの制度をつくるべく努力している。しかし、大事なのは、実際の審査をする研究者一人一人の姿勢である。私たちは、制度改善のために審査結果の検証をしているが、審査に取り組む多くの研究者は真摯で公正で、頭の下がる思いである。しかし同時に、研究者サイドでもう少しだけ努力すると、もっと良い審査ができたのにと思う場面に遭遇することも多い。たとえば、審査員データベースに登録されている研究者には、毎年、データの更新依頼がいく。これを正確に記載することで、より適切な審査領域をお願いできることになる。また、書面審査時の丁寧なコメントの記述は、適切な最終判断をする上で極めて重要である。これらをするだけでも、審査は格段に良くなるであろう。

 私は、この3月をもって、学術システム研究センターを卒業した。最後に読者に伝えたいのは、研究者サイドに立って、科研費を良くするために努力している学術振興会の事務の人たちの献身的な努力である。科研費制度をさらに充実させるために、今後とも、事務の人たちと研究者で、互いにスクラムを組んで努力をしていって欲しいものである。

※所属・職名は執筆時のものです。

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