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科学研究費助成事業

制度概要

私と科研費

 「私と科研費」は、科研費の広報活動の一環として、これまで科研費によって研究を進められてきた方々や現在研究を進められている方々の科研費に関する意見や期待などを掲載するため、平成21年1月に新設したものです。

 毎月1名の方に原稿を執筆していただいています。



No.3(平成21年3月発行)

氏名(所属・職名) 東北大学・総長 井上 明久先生
井上 明久
東北大学・総長

 科学研究費補助金(科研費)は研究者の自由な発想や好奇心に基づいた研究を支援するものであり、国公私立大学に籍を置く研究者のみならず、最近では独立行政法人などの研究機関に属する研究者にも開かれている。審査は研究者仲間が行い、国の補助金制度の中で最も公正な審査手順を経て採択されることで高い評価を得ている。従って、科研費の採択種目や補助金額、課題の成果の評価が研究者のみならず大学などの研究機関の評価指標の一つとなっている。このように、科研費は最も代表的な競争的資金と見なされ、最近では間接経費も措置されたこともあって、国立大学法人の基盤経費である運営費交付金が毎年減額される中で、科研費の重要性は益々高まっている。大学研究者の要望および文科省や学術振興会のご尽力もあって、科研費の交付額が毎年増大していることは喜ばしいことである。

 筆者は1976年4月に東北大学金属材料研究所(金研)の助手に採用され研究教育者として歩み始め、1977年と1981年に若手研究者向けの科研費である奨励研究(A)を得ることが出来た。研究課題は、前者では鉄鋼の水素脆性破壊の研究、後者では超急冷した非平衡結晶の超伝導性質の研究であった。配分額は多くなかったが、測定機器の改修と消耗品などに使用した。初めて自身の裁量で研究に使用できる喜びを感じたことを覚えている。また、これらの課題の申請、採択、研究推進、成果報告を通して、科研費の意義や重要性を学ぶことができ、不安であった研究者としての将来展望に明かりを灯して頂いたような印象を持っている。

 その後、今日までに10件以上の科研費課題が採択されており、大変有難いことと感謝している。筆者が科研費に強い関心を持ち始めたのは、金研の助教授となり、独自に発想した研究を比較的自由に行える環境を得た1980年代中頃からである。1986年から1994年にかけて、少し配分額が大きい一般研究(B)や試験研究(B)などが採択された。これらの課題は主として金属過冷却液体の超急冷プロセス開発とそれを利用した非平衡相材料の創製と特性解明に関するものであり、過冷却液体の理解を深めるのに役立てることが出来た。また、これらの補助金を過冷却液体の二段式冷却装置の試作に使用したが、目標の材料が作製できた時の感激は今でも思い起こされ、研究者として独り立ちすることの充実感と責任感を認識する機会となった。

 1990年に教授に昇進したが、研究者としての大きなステップアップに繋がったと自覚しているのは、1994-1997年に採択された特別推進研究である。1990年前後の数年間に、特定の金属成分からなる多元系合金において、融点以下に過冷した液体の結晶化に対する安定性が劇的に高まり、徐冷凝固鋳造プロセスによっても液体構造がそのまま固化し、ランダム構造金属がバルク形状材として得られる事を見出した。これは、従来の金属学の常識を打ち破るものであり、バルク金属ガラスの材料科学工学分野を開拓しつつあることが評価され、採択されたものと推察している。本分野の研究は、現在では世界で500名を上回る研究者が活発に研究を行っている重要分野に発展し、研究者数および発表論文数は現在も年々増加している。バルク金属ガラスの創始のみならず、その後の発展も日本が大きく貢献したという高い国際評価を得ている原動力は本科研費の採択によるものであると感謝している。

 筆者のように高機能な新物質を探査することに研究の基軸を置いている研究者にとっては、物づくり装置、構造・組織解析装置、物性測定装置など多岐に渡る備品と消耗品が必要であり、基盤校費のみで世界に先導する研究成果を得ることは困難であり、科研費による支援は不可欠なものになっていると思う。また、目的指向型の研究支援方式が潜在的に持つリスクを軽減し、基礎科学を担保するためにも重要である。

 実験が伴う学問分野で国際的にトップレベルの研究を推進している先生方は、科研費の種目は様々に異なるとしても、科研費の採択が研究者として大きく羽ばたく契機になった体験を持っておられるものと推察する。科研費は研究者に独立する自覚を芽生えさせ、大きく飛躍する機会を与える上で大変有益なものである。今後科研費がさらに充実し、世界的レベルで活躍する多くの研究者を育成し、日本が世界の国々から尊敬と信頼を集める科学技術創造立国として発展する根源的役割を果たすことを切望している。

※所属・職名は執筆時のものです。

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