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拠点大学交流事業

関連資料

拠点大学方式による日韓国際交流-次世代インターネット技術のための研究開発と実証実験-

有川節夫、岡村耕二

はじめに

日本学術振興会と韓国科学財団の支援による拠点大学方式「日韓次世代インターネット技術のための研究開発と実証実験」(以下、「本プログラム」という。)は3年目に入りました。現在本プログラムでは七つの主要なテーマに取り組んでいますが、本プログラムによる研究交流のスタートから短時間のうちに多くの密度の濃い研究交流の実績をあげることができました。これは、拠点大学方式に採択される前から日韓で取り組んできたテーマでもあり、その意味で本プログラムのための助走期間が十分であったことと、本プログラムによる組織的な研究交流支援との相互作用によるものだと考えています。本稿では、本プログラムで取り組んでいる研究活動について簡単に紹介します。

インターネットのDevelopmentとOperation

本プログラムでは、九州大学と忠南大学が日韓それぞれの拠点大学となり、日韓で次世代インターネットに関する研究活動を行っています。韓国の代表とコーディネータはKim Dae Young(金大榮)先生が務め、日本側は有川が代表を引き受けて、実質的な活動・指揮はコーディネータの岡村が行っています。プログラムのテーマは、Kim先生から、「Development and Operation of the NGI (Next Generation Internet) Technologies」という提案がなされ、それに同意し、岡村が「次世代インターネット技術のための研究開発と実証実験」と和訳しました。特に「DevelopmentとOperation」の部分の和訳「研究開発と実証実験」については、もう少しうまい言葉があったかも知れませんが、インターネットの精神をうまく表現していると思います。真のインターネット研究者には、研究開発だけでなく実際にインターネットを管理・運用することが求められるからです。この「研究もし、運用もしなさい。」という言葉は、「日本のインターネットの父」と呼ばれる慶應大学の村井純先生がインターネット研究のスタート時点からよく言われていたもので、その言葉を韓国のKim先生から聞くことができたのは感慨深いものでした。インターネット研究を日韓で同じ精神で行えるのです。
しかし、Operationをそのまま和訳した「管理・運用」という言葉が研究テーマとしていまひとつしっくりしないので、「管理・運用」そのものにせず、それを実際に必要とする「実証実験」という言葉に置き換えたのでした。「実証実験」としたことで、次世代インターネット技術そのものだけではなく、応用分野の方も参加しやすくなり、結果としてこの研究のコミュニティを広げることができたと思っています。

研究テーマ

現在、本プログラムでは次にあげる七つのテーマに取り組んでいます。

  1. 次世代インターネット基盤技術の研究開発
  2. インターネットにおける情報セキュリティ技術の研究開発
  3. インターネットを介した仮想現実空間構築技術の研究開発
  4. デジタルライブラリのための次世代インターネット基盤技術の研究開発
  5. グリッドの基盤技術及びアプリケーションに関する研究
  6. 高度マルチメディアデータ通信の研究開発とe-Learning・遠隔教育への応用
  7. 次世代インターネットを用いた遠隔医療の開発と臨床応用

最初のふたつのテーマは、インターネットそのものに関する研究であり、他のテーマは次世代インターネットを利用した応用研究ということになります。しかし、これらの応用研究は、次世代インターネット上で実際に実現してこそ意味があるものです。したがって、その実現には、次世代インターネットそのものが必要になります。そして、その次世代インターネットを実現するのが基盤技術の研究開発の役目ということになります。つまり、こうした応用研究を実現するための実証実験に、本プログラムの基盤研究の成果が集約されるという構図になっています。以下で、実証実験に関する本プログラムの成果をいくつか紹介します。

図1 韓国医学会全国大会におけるデモシステムの構成図
図1 韓国医学会全国大会におけるデモシステムの構成図

実証実験の紹介

本プログラムでは遠隔講義、日韓民間テレビ局の生放送コンテンツの共有実験をはじめ、すでにいくつかの実用的な実証実験を行っていますが、ここでは2005年5月14日に韓国で開催された、韓国医学会全国大会におけるデモンストレーションを紹介しておきます。韓国医学会全国大会は、日本の医学会総会に相当するもので、何年かに一回開催される、韓国医学会を代表する規模の大きい重要なイベントのひとつです。この全国大会中に、会場のホテルと、ソウル大学病院、梨花大学病院、九州大学病院を超高速インターネットで接続し、韓国国内外の医師によるパネルディスカッションのようなものが行われました。画像としては無圧縮のDV(Digital Video)が用いられ、低遅延で高品質な映像が用いられました。また、ソウル大学病院から会場のホテルにHDV(High Definition Video、超高解像度映像)を用いた、手術映像の通信デモも行われました。
この時のシステム構成を図1(韓国医学会全国大会デモシステム構成図)に示します。図1は、このデモンストレーションの技術的な部分の指揮者であった、光州科学技術院のKim Jong-Won先生が作成したものです。この韓国医学会全国大会でのデモは大成功をおさめ、韓国KBS(日本のNHKに相当)でも、大々的に取り上げられ放映されました(図2(KBSテレビ放映の様子  その1))。図3(KBSテレビ放映の様子 その2)は、インタビューを受けるKim Jong-Won先生、図4(KBSテレビ放映の様子 その3)は4地点を結んだパネルの様子で九州大学の清水先生の姿も見えます。なお、テレビのアナウンサーのコメントは要約すると次のようなものでした。
「外国にいる有名医者の助言を聞きながら実際の手術を自国で受けるのが可能でしょうか? 夢だと思われたこんな遠隔手術の道が遂に開かれました。執刀医と国内医療陣、日本九州大学病院医療陣までをリアルタイムで繋ぎ、手術画面を見ながら熱っぽい討論をすることができるというのは超高速インターネットが送る高画質立体画面のおかげです。この技術を利用すれば、国内医療陣が海外有数の医療陣と所見を取り交わす遠隔手術が可能になるはずです。」
さて、この実証実験では、4地点のDV通信をまとめる処理などは、九州大学情報基盤センターで行いました。また、本プログラムのテーマのひとつである「次世代インターネットを用いた遠隔医療の開発と臨床応用」は、月に1回以上のペースで遠隔医療教育を日韓で開催しています。もちろん、技術的には、「次世代インターネット基盤技術」に取り組んでいる研究者が協力しています。こうした実績と技術の積み重ねがあり、協力体制が整っているからこそ、広く一般市民にも認めてもらえるような大規模なデモを成功させることができたのだと思っています。このような日韓での実証実験が行えるようになったことは、本プログラムが技術的にも人的交流という面でも順調に進行していることの証といえるでしょう。

図2 韓国KBSテレビ放映の様子 その1
図2 韓国KBSテレビ放映の様子 その1
 
図3 韓国KBSテレビ放映の様子 その2
図3 韓国KBSテレビ放映の様子 その2
 
図4 韓国KBSテレビ放映の様子 その3
図4 韓国KBSテレビ放映の様子 その3

おわりに

上記のような実証実験の他に、本プログラムでは既に日韓で4回の全体セミナーを開催しています。開催地は、韓国忠南大学(2回)、九州大学(1回、図5は九州大学でのセミナーの様子)、日本人の便宜を考慮して軽井沢(1回)です。いずれのセミナーも日韓で100名近い参加者があり、本プログラムの様々なテーマに関する情報交換や技術交換の場として、また、新しい交流の生まれる場として機能しています。今年度(2005年度)は、アジア規模の次世代インターネットプロジェクトであるAPAN全体会合(Asia Pacific Advanced Network、全アジアの次世代インターネット研究者500名程度が出席予定)と本プログラムを共催させ、本活動をアジア全体にアピールすることにしています。本プログラムはまだ始まったばかりですが、インターネットの発達スピードと同様に加速しながら、既に日韓が共同して未来のインターネットに貢献しています。

図5 九州大学でのセミナーの様子
図5 九州大学でのセミナーの様子


有川 節夫(ありかわ・せつお)
九州大学 理事・副学長

岡村 耕二(おかむら・こうじ)
九州大学情報基盤センター 助教授

本記事は「学術月報Vol.58 No.9」に掲載されたものである。