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国際生物学賞

国際生物学賞 歴代受賞者

第29回国際生物学賞 受賞者あいさつ

ジョセフ・フェルゼンシュタイン博士
Dr. Joseph Felsenstein

天皇皇后両殿下、ご臨席の皆様

 国際生物学賞を賜るにあたり、日本学術振興会の皆様、理事そして委員の方々にこうして感謝の気持ちを申し上げることができ、誠にうれしく存じます。本日は天皇皇后両陛下のご臨席を仰ぎ、これ以上の栄誉はございません。天皇陛下におかれましては、ご自身もハゼ類の分類のご研究に長年取り組まれていらっしゃいます。その意味で、陛下のご研究分野と同じ進化生物学がこのたびの受賞によって注目を受けますことは、大変喜ばしいことです。本日は、長年の 友人であり同僚でもある進化生物学者の方々にもご列席いただき、誠に感謝しております。

 私が理論集団遺伝学について学び始めたのは、1950年代から1960年代にかけてのことです。この研究分野では日本が目覚ましいリーダーシップを発揮してきました。私が学んだ理論体系は、現代進化論の中核となるものであり、その基本的機構を説明する数学的枠組みを提供するものです。大学院で学んでいた1960年代半ば、私はある別の問題の数学的、アルゴリズム的、統計的側面に強く興味を引かれ、系統樹の作成に取りかかりました。最初は系統樹の推定という問題に最尤法という統計学的手法を取り入れました。その結果、エドワーズとカヴァッリ=スフォルツァの先駆的な論文で提起された問題のいくつかを解決することができました。彼らの論文の内容は、系統樹の進化過程の推定に、遺伝子頻度の変化を表すブラウン運動モデルを利用するというものでした。1973年、私は系統樹の尤度を計算するための効率的な動的プログラミング・アルゴリズムを作成し、1981年には、そのアルゴリズムをDNA塩基配列データに応用しました。

 1985年には、系統樹の作成にブーツストラップ法という統計手法を取り入れ、これによって、系統樹のどの部分の信頼性が高く、どの部分が誤っている可能性があるかが分かるようになりました。同じ年には、系統樹を利用して2つの異なる形質が別々に進化するかを確認する、統計的に有効な方法を発見しました。これが、生物学者が「比較法」と呼ぶ手法の確固たる統計的基盤となりました。以後、私の研究は、集団遺伝学と量的遺伝学を系統樹の作成手法に結び付けることが中心となりました。

 いずれの研究も当初は奇抜な発想に見え、単なる自分の趣味の範囲に留まっているように思えました。しかし、時が経つにつれて系統樹の推定に取り組む研究者の数が増え、彼らは系統樹を利用して自然淘汰のパターンを調べるようになりました。系統樹が多様な種のデータ分析で中心的な役割を果たすようになってきたのです。私が研究を始めた1960年代には考えられなかったことです。今では、長年別々に研究が進められてきた系統学と集団遺伝子学が、再び一つに融合しようとしています。

 社会の根本問題は、進化の過程と歴史を理解すれば直ちに解決できるというものではありません。私たちはどうすれば、より民主的な社会を実現できるのでしょうか。どうすれば、見捨てられた人々、搾取されている人々の力になることができるのでしょうか。どうすれば、地球規模の環境破壊に立ち向かうことができるのでしょうか。進化生物学は、私たちが何者で、どこから来たのか、その洞察を与えてくれます。この洞察をもとに、私たちが自然とどう関わり、さまざまな生命体が互いにどう影響し合っているのかを知ることができます。人間が広い世界とどう関わっていけるのかを理解するためには、このつながりを知ることが欠かせません。私は、こうして自分の研究が評価されたことによって、日本学術振興会の皆様が、人類の発展における進化生物学の重要性を認識されたものと確信いたしております。