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国際生物学賞

国際生物学賞 歴代受賞者

第28回国際生物学賞 受賞者あいさつ

ジョセフ・アルトマン博士
Dr. Joseph Altman

ジョセフ・アルトマン博士

皇太子殿下、ご臨席の皆様

 このたびは国際生物学賞を賜り、歴代の著名な受賞者の方々と名を連ねることとなり、誠に感謝の念に堪えません。天皇皇后両陛下におかれましては、この名誉をお与えくださったのみならず、世界的な事業である学術の発展に対し、大いなるご理解とご関心をお寄せくださることに感謝申し上げます。日本学術振興会の皆様、審査委員会の皆様にも御礼申し上げます。またこの場をお借りして、妻であり共同研究者でもあるシャーリー・ベイヤー・アルトマンにも感謝の気持ちを捧げたいと思います。今回受賞することとなった研究で果たした彼女の役割は実に大きく、精神的にも私を40年以上にわたって支えてくれました。

私たちの研究は1960年代初頭のある簡単な実験から始まりました。実験的に損傷を与えた脳におけるグリア細胞の増殖の研究です。当時、細胞の増殖を研究するための新しい手法としてオートラジオグラフィー法が利用できたので、成体ラットにDNAの特定前駆体である放射性チミジンを投与し、細胞分裂を可視化しました。その結果、驚いたことに、損傷部位周辺の標識されたグリア細胞の他に、損傷部位から少し離れた場所にも標識されたニューロンを発見したのです。これには大いに戸惑いました。なぜなら、生後脳でニューロンが新生することはないと、それまで教えられてきたからです。私たちはさらに研究を進め、正常なラットの標識ニューロンのパターンを調査しました。そして数年後、小脳皮質の顆粒細胞(マイクロニューロン)の前駆体が生後数週間にわたり増殖していたことを証明しました。同様のことが海馬歯状回と嗅球の顆粒細胞の前駆体でも起きていました。実際に、多くの成体脳の海馬歯状回と嗅球で、標識された顆粒細胞が見られました。私たちは、それぞれの顆粒細胞の発生をもたらす前駆細胞が特定の胚芽層に存在することを、研究によって明らかにしました。小脳においては外胚芽層であり、海馬では顆粒細胞下層です。嗅球の場合は皮質脳室下帯であり、そこで前駆細胞が生まれ、吻側移動経路を通って嗅球に到達します。

標識された細胞が正真正銘の新生ニューロンであることを証明するために、私たちはさらに別の手法を用いました。そのうちの1つが、小脳、海馬、嗅球で、生後日齢 ごとの機能によって識別可能な顆粒細胞を数える簡易記述法 です。結果は、これらの脳領域のすべてで日齢とともに顆粒細胞の増加が確認されました。また、細胞分裂は放射線感受性が極めて高いことから、エックス線照射による実験も行いました。日齢の異なる幼体ラットの小脳、海馬、嗅球に低度のエックス線を選択的に照射し、その結果、小脳への照射は外顆粒層を破壊すること、胚芽層の再生の成否は照射時間の長さで決まることが明らかになりました。再生できなかった場合は顆粒細胞が減少し、小脳の病変による運動機能・姿勢異常と同様の症状が引き起こされました。海馬への初期の照射は顆粒細胞を不足させ、多動性障害や注意障害、学習障害などが生じました。

1960年代、私たちの研究は大いなる関心を集めましたが、しばらくは他の研究者から顧みられることはなく、それは1970年代半ばのマイケル・カプランによる確認実験においても同様でした。しかし、1980年代になってフェルナンド・ノッテボームの研究グループが成体ニューロン新生に関する問題に再び注目し、1990年代にはエリザベス・グールド、ゲルド・ケンペルマン、石 龍徳などによって研究が盛んになりました。こうして日本をはじめ世界中でこのテーマに対する関心が高まっていることを大変うれしく思います。生後脳および成体脳のニューロン新生の実証は、脳の構造がこれまで考えられていたものよりもダイナミックであることを示唆しています。このダイナミズムが脳機能の多くの異常や病変の治療法にどの程度の可能性を秘めているのか、研究・臨床面においてこの課題が依然として残っています。

最後にあらためて、このたびの受賞の栄誉にあたり、天皇皇后両陛下ならびに日本学術振興会の皆様に御礼申し上げます。