日米先端科学シンポジウム

第12回日米先端科学(JAFoS)シンポジウム実施報告

   
  Planning Group Member日本側主査
東京大学・大学院医学系研究科・准教授 尾藤晴彦

 師走に入り紅葉がまだまぶしい季節に、緑豊かな丘のふもとで、日米科学の未来のリーダー達が集う、「知の道場」の幕がついに切って落とされた。


 と書けば大変格好が良いのだが、実のところ、先端科学(Frontiers of Science, FoS)シンポジウムシリーズの中で最も歴史の古い、日米先端科学(JAFoS)シンポジウムが、平成22年12月3日(金)から12月5日(日)の間、千葉県木更津市のかずさアークにて開催されたわけである。今回のJAFoSのトピックは、以下のような8課題であった。


  • Body fat: hidden organ, new source of hormonal regulation
  • Super-resolution Imaging
  • Solar Activity and Climate
  • Advances in Graphene-Based Science and Application
  • Web-Scale Computation
  • Modeling Brain Circuits, Brain/Machine Interface-Learning
  • Quantum Effects of Motion
  • Collective Intelligence

 いずれも、数学・物理学・化学・地学・生物学・材料科学・脳/医科学・社会科学の各分野から、日米双方のplanning group member(PGM) 諸氏が侃々諤々の議論を交わし、文字通り汗水を流して絞り込んだテーマである。時代性を反映してか、各分野でミクロ事象のマクロ効果を議論する話題が揃い、極めて象徴的であるといえよう。


 日米双方40名ずつが、交互に招聘しあい、開催するシンポジウムサイクルも6回目ともなり、本シンポジウムを共催する日本学術振興会(JSPS)・米国科学アカデミー(NAS)事務局の双方とも余裕がありそうなはずであるが、実は裏方では相当の危機感が募っていた。


 理由は二つ。まずは日本サイドが国費による異分野交流の促進・若手研究者育成という目的のJSPS事業としてFoSを推進しているのに対して、NASはあくまで米国科学者によるNPO団体である。その事業を支える基金が、リーマンショック以降激減していることに加え、NASが科学者交流の枠組みをBRICsに広める目的で事業展開を進めた結果、日米の開催サイクルを今回以降隔年にせざるを得なくなったのである。間延びすると、毎回シンポの直後、双方のPGMが丁々発止で次のトピックを選ぶということが困難になる。かといって、沈思黙考によって、斬新なひらめきがすぐに浮かぶわけでもない。日米PGM16名の知恵で「いい流れ」を作って、総勢80名の交流を成功させるという事業が、安定した10年を経た後、新たな段階に入ったのである。


 もう一つは、FoSの理念である。新しい学問領域の開拓がモットーなのだが、何が新しいのか、何がFrontierなのか。実は、そこが日米PGM間の意見調整の最大の難関であった。Frontierを「最前線」という形でとらえると、複数の研究者がすでにその分野に取り組んでいることが前提になるが、本当に新規性が強くて「最先端」ならpioneerがまだ一人(あるいは一人達)というフィールドがあるのではないか。コミュニティー意識が意外と強い米国PGM達は学問の「最前線」を取り上げるべきと主張し、匠意識あふれる日本人PGM達は科学の「最先端」はどこか、と言う点で譲らない。がっぷり四つに組んだまま、議論は尽きない。まるで兄弟(姉妹?夫婦?)げんかのように。


 と、大いに心配された訳だが、12月2日の前夜祭になると、まさに水入らずで、和気あいあいと旧交を温め、新たな出会いに興奮した。大いに食べ、大いに語り、大いに議論した。そして、翌朝からの三日間は、まさに真剣勝負の知の格闘であった。日米各分野のスピーカーが、正に「Sciens今知りつつある」現状を余すところなく報告し、チェアの誘導(交通整理)の元、他分野のプロ(=このトピックの素人)と議論を誠心誠意噛み合わせていく。時間が経つのも忘れ、あっという間に2時間のセッションが過ぎていく。


 余韻冷めぬまま、中日の午後に、皆で藤原鎌足に縁のある高蔵寺の高倉観音をお参りした。新たな知を願ってやまぬ気持ちに東西もない。ふと、ヘレン・ケラーの先生のアン・サリバンの言葉として伝えられている有名な句を想い出したのは私だけだろうか。"The best and most beautiful things in the world cannot be seen or even touched. They must be felt with the heart."(Helen Keller "The Story of My Life" Part II, 1902)。まさに美しいものを沢山感じた三日間であった。


 ご多忙にもかかわらず、時間を割いてご参加下さった日米74人の同志の皆様に篤く御礼申し上げます。

 

 
 
Sessionの様子
 
Poster Sessionの様子
     
 
Welcome Receptionの様子
 
Cultural Tourの様子
     
集合写真