先端科学シンポジウム

FoS Alumni Messages No.8

「Cutting edgeに想う」

上野 隆史

東京工業大学大学院
生命理工学研究科  教授

FoS参加歴:

9th JGFoS参加研究者
10th JGFoSPGM
11th JGFoSPGM

   私が最初にFoSに参加させていただいたのは2012年のポツダムでの会議からであった。当時は、学際融合を積極的に推進する研究所に所属していたので、物理から情報科学まで、専門外の話も興味を持って聞くことができたし、社会科学の分野の発表にも想像していたほどの違和感もなく参加することができた。セッションあたり1時間のプレゼンテーションの後にある1時間の質疑応答時間は、質問が盛り上がると立て続けに質問が続き、噂に違わず、1時間はあっという間だった。サイエンスのプロがプロ向けに作り込んだ話はさすがに面白いと感じた。

   その次の2013年、2014年とPGMを務めさせていただいたが、私の3年間のFoS経験で最も印象に残ったのは、初年度のPGM会議であった。生物物理に近い分野が専門のドイツ側PGMと、生命系の材料化学が専門の私が担当したのは、化学・材料科学分野である。前任のPGMから「とにかくCutting-edgeが重要」と聞かされていたので、如何に化学や材料分野の匂いがするテーマを選ぶかとさんざん考えたものの、最初から最後まで、ドイツと日本が得意とする「The化学」といえるような提案で、二人ともがしっくりくるような内容を思い浮かべることもできずに、会議に臨んだ。結局、化学の分野でも使われるようになってきた1分子観察のテーマが採択され、委員の先生から「日本の1分子観察技術はトップクラスだが、そのデモンストレーションだけでなく、そこから最先端のサイエンスの問題が見えるようなセッションにして下さい」とのリクエストをいただいた。スピーカーの活躍でセッション自体は盛り上がったし、達成感もあったが、頂いた課題へ私自身納得がいく回答ができたのか?少しふっきれないまま1回目のセッションを終えた。会議の後の懇親会で、そんな私の気持ちを見透かした別の委員の先生から、「別に会場で受ける必要はない。面白くなくても良いから自分がCutting-edgeと思うセッションを作ってください。」とのコメントを頂いた。大いに勇気付けられ、2回目のPGMも務めることができた。

   先日、久しぶりに昨年のJGFoSのメンバーと集まる機会があった。そこでも、話題はもちろん“Cutting-edge”。セッションを聴く側と作る側では、Cutting-edgeへの考え方が違う。分野で最先端のニュアンスが違う。本当の最先端な仕事はFoSでは話せない等、FoSの参加やPGM、スピーカーにならないとわからない悩みや、驚きで改めて盛り上がった。

   職業柄、いつも研究の独創性や最先端について考えているつもりだが、自分の研究を離れ、異分野の研究者と議論を交わしていると、自分が生きている世界や考え方の狭さを思い知らされる。日本の研究環境は厳しいと言われながらも、若い研究者が自分のオリジナルの研究をスタートするチャンスは少なからずある。しかし、そこから5−10年程たった研究者が、自分のアイディアや分野をリセットし、新しい挑戦をするきっかけを与えられることはほとんど皆無である。今思うと、PGMの期間は、日々の研究をすすめ、その他の業務に追われながらも最先端という言葉を身近に感じながら自身の研究を考えることができた。これが、FoSに参加しPGMとなった最大のメリットだと思う。

   FoS事業を支えていただいている事業委員会の先生、ならびにJSPSにこの場を借りて感謝申し上げます。


 

【第10回JGFoS 左:化学・材料科学セッション、右:PGM会議】

 

【第11回JGFoS 左:セッションコーディネーションミーティング、右:文化研修】