日本学術振興会

先端科学シンポジウム

FoS Alumni Messages

先端科学シンポジウム(FoS)事業委員会委員長からのメッセージ:国境も分野も越えて

先端科学シンポジウム(FoS)事業委員会委員長

小安  重夫

独立行政法人 理化学研究所 統合生命医科学研究センター センター長


   私がFoSシンポジウムの存在を知ったのは今から8年ほど前になる。JSPSの研究協力第2課(当時)の課長からFoS事業委員会の委員になって欲しいと依頼された。話を聞くと、えらく面白い企画ではないか。一方で、それぞれの分野の最先端の気鋭の研究者を集めたシンポジウムというが、自分は呼ばれたこともなければ存在すら知らなかったことに、若干複雑な思いを持ったのも事実である。
   平成18年に委員を引き受けて最初に参加したのは、その年の11月にドイツのハイデルベルグで開かれた第3回日独先端科学(JGFoS)シンポジウムだった。そこで異なる分野間の研究者の発表や議論を聞いて、実に楽しい時間を過ごした。もともと好奇心が強く、色々なことに興味のあった私にとっては、まさに「我が意を得たり」というシンポジウムであった。それ以来、JA(日米)、JF(日仏)、JG(日独)、J-UK(日英)、合わせて15回のシンポジウムに参加してきた。おそらく誰よりも多くのFoSシンポジウムに参加しているのではないかと思う。もちろん、正式な参加者ではなく、主催者側の人間として参加するために、実際の議論に加わることはないが(山ほど質問が湧くが、そこはぐっと我慢)、異なる分野の話を聞いて、議論を聞くだけで大いに楽しめる。分野が違うとこんなにも発想が違うのかあ、質問や突っ込み方にも文化があるなあ、などサイエンスとは別の楽しみ方もできる。夜の自主討論では遠慮することなく、参加者と大いに交流し、議論をさせてもらっている。
   このシンポジウムの成否はPlanning Group Member (PGM) にかかっている。PGM同士がどのくらいコミュニケーションを取って準備するか、チェア(JGではイントロダクトリースピーカー)やスピーカーとどの位打ち合わせているかが鍵となる。準備の良くできたセッションは分野外の人にも分かり易く、議論も広がるが、準備が悪いと同じ分野の仲間内の議論になってしまう。これまで見てきたところ、PGM同士が仲が良い時は大体うまくいっているような気がする。参加者の意気込みやノリも大切である。参加研究者がどんどん議論に参加してくれると全体が盛り上がるし、面白い議論が進む。特に自分の分野外に積極的に議論を吹っかける人がいると大いに盛り上がる。そのような場合には、参加者の選考に関わっている事業委員も嬉しくなる。一方で、自分が推薦した参加者があまり議論に参加しない時には、 心の中で「頑張れ」と応援したり、「何か言えー」と言いたくなることもある。
   各シンポジウムの前には日本側事前検討会が開かれ、FoSのスタイルをはじめての参加者に紹介するとともに本番に向けた準備のための議論を行っている。本番の英語とは異なり、日本語によるトピックスの紹介ではあるが、初めて参加する研究者が多いこともあり、FoSシンポジウムにおける議論の進め方の理解にかなり役に立っていると思われる。一方で、相手方の国ではそのような準備を特にしていないようであり、最近では日本人研究者が議論をリードする場面も増えてきており、頼もしく思っている。この事業が目指す、新しい学問領域の開拓や、広い学問的視野を持つ次世代のリーダーを育成することが少しずつ具現化しているように思われ、嬉しい限りである。
   FoSシンポジウムで知り合った相手国の研究者との交流が継続し、共同研究が始まった例もいくつか聞いている。また、国内参加者同士でもこれまで接点のなかった異なる分野の研究者同士の輪が広がり、新しい試みがスタートした例もあるという。これもFoSシンポジウムの効用である。
   これからもFoSシンポジウムに第一線の若手研究者がたくさん参加してくれることを願っている。そして、広い視野で様々な議論に参加し、友人や共同研究者の輪を広げ、次世代の日本のいや世界の学術を背負ってくれることを期待している。そして私は、シンポジウムの参加者やシンポジウムを支えるJSPSの応援をこれからも続けて行きたいと思っている。

平成25年7月