サイエンス・ダイアログ

2016/02/01 「サイエンス・ダイアログ」を実施しています。

サイエンス・ダイアログは、外国人特別研究員等で来日している優秀な若手外国人研究者(JSPSフェロー)に有志を募り、近隣の高等学校等に対して英語での研究に関するレクチャーを提供するプログラムです。

地域の大学や研究機関で活躍しているJSPSフェローから、英語で研究の話を聞くという経験が、生徒達に大きな刺激を与え、研究への関心・国際理解を深めるだけでなく、JSPSフェロー自身にとっても、地域社会と交流し、日本とのつながりを深めることを狙いとしています。

実施をご希望の場合は事業のウェブページをご参照の上、参加申込書をご提出ください。皆さまのご参加をお待ちしています。

■実施プログラム例の紹介

平成27年11月27日(金) 岩手県立水沢高等学校 (講師:Dr. Yuvaraj SIVARINGAM)

 平成27年11月27日に、日本学術振興会外国人特別研究員(JSPSフェロー)のDr. Yuvaraj SIVARINGAM(ユワラジ・シバリンガム博士)が、岩手県立水沢高等学校の生徒を対象にサイエンス・ダイアログを行いました。

講師のシバリンガム博士

 講義は3部構成で、まず前半では、講師の母国であるインドについて紹介がなされました。講師の生まれ故郷であるチェンナイの話に始まり、インドが日本の9倍の国土を持ち、中国に次ぐ人口を持つ多言語・他宗教の国家であり、歴史的にも異文化の影響と多様性(diversity)が重要なキーワードであること、共通語として英語が重要な役割を持つこと、といった内容がまず述べられました。これに続いて、各地の名所やお祭り、産業、食(sweetsも)、教育事情といった、多岐にわたるインドの風土や文化等について紹介がなされました。教育(特に初中教育)については、貧困層が多く行く公立の学校は決してよいとは言えない環境(例えば教室に椅子はなく、床に座って授業を受ける)で主に各地域の言語を使って行う一方、富裕層の多く通う私立校では英語を用いた授業が行われているなど、経済状況で受ける教育が大きく異なることが紹介されましたが、貧困層についてはEducation for allをスローガンに国を挙げて無償教育を進めてきており、これでも状況は改善しているということでした。講師自身も大学に進んで初めて英語による教育を受けたということで、初めはずいぶん苦労したとのことでした。

講義の様子

 中盤では講師の研究についての講義が行われ、はじめに、自然から学ぶという文脈で自然を理解する物理に興味を持ったこと、特に自然をまねすることをアイデアとしてこれを応用する研究に興味があることが語られました。
 次に、講師がこれまで行ってきた、物理量を測定するセンサーについての研究の基本的な事項について説明がありました。例えば人間の場合では物理量(長さ、温度など)を目で見たり、手で触ったりして、感覚器を通して電気信号に変えることにより、脳でそれを処理して知覚することができますが、これを機械で行おうとするときに重要な役割を果たすのが、目や手(皮膚)にあたるセンサー、特にエレクトロニクスを用いたセンシングであることが紹介され、続いてセンサーの原理や基本的な特性(レスポンスカーブや線形性、再現性など)について、かなり掘り下げた説明がなされました。 続いて駆け足ではありましたが、日本に来てから研究を行っているトライボロジーについて説明がありました。トライボロジーは一般にはあまり知られていない言葉ですが、講師によれば、摩擦・ぬれ・すべりをキーワードに物質表面の物理状態を理解する学問で、ものが接するという場面で非常に広範に使える、センサーを初めとした様々な応用が可能な研究分野ということでした(例えば生体への応用例として人工関節が挙げられるそうです)。

 最後に、科学研究における英語の役割、と題して、講師のこれまでの経歴・研究歴と英語の重要性について話がありました。講師はインドの大学を経て、台湾・イタリア・カナダで大学院生・ポスドクとして研究を重ねてきましたが、どの研究機関でも使っていたのは英語であること、英語なしでの研究生活はあり得なかったことが自身の経験を元に紹介され、科学の世界では英語がとても重要であることが語られました。

 中盤の研究部分についての講師の話は、専門的な内容が多く、高校生の段階で理解するには難しいものでしたが、この点を補うため、講師が現在所属している東北大学原子分子材料科学高等研究機構の谷垣勝巳教授が同席し、随所で内容の解説を日本語で行いました。講師自身、今回が高校生向けに話をした始めての機会ということもあり、そもそものボリュームが多いこともあって、解説が追いつかない部分や解説があってもすぐにはわかりにくい点もたくさんありましたが、参加した生徒は一生懸命内容を理解しようと努力していました。

谷垣教授による解説

 講義の後は質疑応答の時間が取られ、続いて、締めくくりとして生徒代表から英語でお礼の挨拶があり、和やかな雰囲気で講義は終了しました。

質疑応答の様子。応援団の生徒はバンカラで有名だそうです。

 講師はインド人であり、いわゆるインド訛りの英語で講義を行ったため、普段米英の発音に慣れている生徒にとってはやや聞き取りにくい点もあったようでしたが、国際語としての英語を考える上で、英語を母語としない人の訛りは避けて通れないものであり、その意味で参加した生徒は良い経験ができたといえます。解説の谷垣教授からも、研究の世界ではこうした訛りに遭遇することはよくあることで、それでも同じ研究分野の世界では研究そのものが共通語であるため、コミュニケーションに困ることはない、といったコメントもありました。

 難しい科学的内容を短い時間で、しかもいつもと異なる英語で理解しなければならないため、生徒にとっては大変チャレンジングな講義でした。関連するトピックの予習や当日説明資料の配付など、理解を助ける方法はいくつか考えられますが、それでも、科学の面白さを伝えようとする講師の熱意が感じられ、研究の奥深さや科学の世界での英語の使われ方など、生徒にとっては新鮮な内容がたくさん詰まった授業となったことは疑いありませんでした。